第67話 大騒動が起きました

「あ!まだ家に連絡していませんでした!」


 ひとしきり騒いだ後、周防さんは思い出したように叫んだ。


「・・・私とした事が・・・すみませんお嬢様・・・失念しておりました。」


 申し訳無さそうにそう言う轟さん。


「じゃあ、まずは屋敷に送るね?でも、家族に説明できそうなの?」

「・・・そう、ですね・・・うん、ではこの際こうしてはいかがでしょう?」


 周防さんの案は僕がびっくりするものだった。


「なるほどね。あたしは賛成。周防さん、じゃあ・・・」

「お待ちになって?これからは、私を美咲と呼んで頂けませんか?勿論皆さんも。」

「私も美玲でお願いします。」

「あ、そうね。じゃああたしも美嘉で良いわ。」

「はい・・・瀬尾さんもよろしいですか?」

「え?う、うん。美咲さん、美玲さん、これで良いかな?」

「「・・・」」

「え?駄目?」


 不服そうな顔を見せる美咲さんと美玲さん。


「そうではありません。呼び捨てで良かったのですが・・・まぁ、おいおいとしましょうね?」

「う・・・はい。」


 呼び捨てかぁ・・・


「・・・にひ♡ねぇねぇミサキちゃん!ミレイちゃん!シューくんの事も呼んであげなよ!」

「・・・瞬、さん。」

「・・・瞬様。」


 テレテレしながらそう呟く美咲さんと、真顔・・・と見せかけて、耳を真っ赤にさせながら名前を呼ぶ美玲さん。


「うふふ♡可愛いわね二人共。」

「ええ、そうですね。これはシュン様も惚れ直しちゃうのでは無いですか?」

「もう!ジェミニさんもリリィさんもからかわないで下さい!」


 ・・・うん、確かに今の二人は可愛かったな。

 ドキドキしちゃったよ。


「はいはい、本題に戻すわよ?さっき美咲が言った通りの方針で行くね?で、ここからはあたしの案。この際、あたし達の関係も、その時に暴露しちゃわない?」


 美咲さんの案、それは、今回の『周防』への敵対行為についての流れと解決について、周防の頭首、つまり美咲さんのお父さんに説明する時に、僕達が助けた事を全面に押し出すという事だったんだけど、美嘉はそれに更に、僕達の力を開示し、その事以外の関係についても話すって言ってるんだ。

 

 美咲さんはそれを聞いてすぐに考え込む。


「・・・ですが、それではお父様があなた方を利用しようとする可能性が・・・」

「うふふ。大丈夫よ?ミサキさんは助けられた側だし元々私達と仲が良かったから気が付きませんが、普通は私達のような力を使う人は異質な存在でしょ?で、こう言うの。『私達はミサキさんだからこそ助けた。ミサキさんが私たちと共にある限りは力になるけれど、もしそれを邪魔しようとするのであれば、私達は敵になる』ってね。普通は信じないでしょうけど、今回の結果を話せば納得するのでは無いかしら?調べれば、奴らがどうなったのかなんてすぐに分かることだし。」

「ジェミニの言うとおりね。脅しみたいになっちゃうけど、美咲やあたし達が目指すものの為には、あなたのお父さんを説得するのは避けて通れないわ。ここからは、あなたの覚悟が必要ね。勿論あなたが難色を示すならしないわ。だけど、そうなると残る手段は洗脳みたいなのしか無いわね。」

「え?普通の説得じゃ駄目なの?」


 僕がそう言うと、美嘉とジェミニがため息をつき、美咲さんも難しい顔をした。

 ・・・そんなに駄目?

 すると、リリィが、


「シュン様?王であったわたくしの父もそうでしたが、権力者というのは、基本自分の意向が最優先なのです。合理的に納得すれば撤回する方もいますが、きちんとした理由も無しに感情に訴えても、よほどのお人好しでなければまず意見を通すのは不可能ですし、そのようなお人好しであれば、権力者としての立場を維持できない事の方が多いのですよ。今回のわたくし達の事は、一見合理的であるように見えますが、こちらの世界の倫理観としては忌避されるものです。説得は難しいでしょうね。」


 そうなんだぁ・・・


「シュンは権力者にはなれないね。」

「そうね。まぁ、シュンくんには似合わないけど。」

「その場合は、冷徹な判断が下せる補佐が必要ですね。私達のような。」


 ・・・そして、尻に敷かれるのですね。

 

「「その通り」」


 ・・・はぁ。

 心読まないでよ・・・


「・・・わかりました。で、あればこのまま押し通しましょう。私は既に、戻れないところまで来ています。二度も助けられ、私にはもう瞬さんしか見えませんから。」


 きっぱりとそう言い切る美咲さん。

 そしてそんな美咲さんを見て嬉しそうに笑うみんな。


「それでこそよ。」

「ええ、流石は私たちが認めただけはあるわ。」

「はい。ある意味では世界を捨てたわたくし達と同じような決断ですからね。」

「そうだな。何せ、父親が反対しようが突き進もうと宣言しているわけだから。」

「ミサキちゃん良いね~!やっぱりもっと仲良くなれそう!!」


 ・・・まぁ、それだけ強く想われていると思おう。

 なんだか、勇者としての道からどんどん外れていっているような気が・・・駄目だ。

 深く考えちゃいけない!

 

 僕は若干のショックを受けながらも、自分を納得させるのだった。





「・・・何?美咲、お前本気で言っているのか?」

「はい、お父様。私は本気です。」


 今、美咲さんが攫われた件で、急遽屋敷に戻っていた美咲さんのお父さんを前にしてるんだ。

 あの後、すぐに連絡を入れ、無事であること、助けられた事を告げ、屋敷に戻ると、心配していた美咲さんのお父さんに美咲さんは抱きしめられていた。

 そして、僕達の事情を交えて何があったかを説明し、困惑する美咲さんのお父さんを前にしているところ。


 で、美咲さんが、対外的には僕と結婚し、実際には正妻を美嘉として、みんなで人生を共にするって説明をして、激怒させている所だよ。

 ・・・まぁ、怒って当たり前だろうけどね。


「貴様ら!虚言で私の娘を誑かしおって!良いか!?これ以上娘に関われば、」

「お父様、そこまでにして下さい。私は、お父様と戦争をしたくはありません。」

「な・・・に・・・?何を言って・・・」

「しっかりとなさって下さい。良いですか?まず、先に私が言う事が虚言かどうかを検証するほうが先でしょう?もし、本当だったら、どうされるおつもりですか?私を攫ったヤクザ共と同じ命運をたどるおつもりですか?」

「・・・馬鹿な事を。そんな事が実際にあるわけがないだろう。攫われて気でも触れたのか?まぁ、良い。すでにお前から連絡を受けた段階で、調査の指示は出している。まもなく連絡が・・・」


 Prrrrrrrrr!


「・・・来たか。さて、貴様ら?覚悟はできているのだろうな?娘を誑かしたと判断したら、とことんやらせて貰うからな。」

「・・・それは、そっくりそのまま返させて貰おう。」


 憎々しげにそう言う美咲さんの父親に、美嘉が悪い笑顔でそう言い返した。

 

「・・・何だと?」

「ほれ、電話に出るが良い。相手が待っておるぞ?」

「・・・無礼な娘だ・・・この国で最上位に近い者を相手にしている自覚も無いのか?・・・私だ。どうだった・・・は?なんだと?・・・おい、冗談はやめろ!そんなわけ・・・な・・・に・・・?馬鹿な・・・映像を送れ!すぐにだ!!」


 最初は呆けて、すぐに信じられない、信じたくないという表情に変わり、最後は焦ったように電話を繋ぎながら近くにあったタブレットを操作している。

 そして・・・


「・・・な・・・壊滅・・・だと・・・?」


 どうやら、あのヤクザの本拠地が壊滅している映像を確認したみたいだ。


「おい。」


 ビクッ


 美嘉が、少しだけ威圧をしながら、美咲さんのお父さんを見た。

 美咲さんのお父さんが美嘉を見た。

 そこには、少しだけおそれの表情が見える。


「なんと言ったかな?たしか、とことんやらせて貰う、だったか。勿論、こちらがやっても問題はあるまいな?」

「・・・い、いや、君達がやこれをったとは証明できてはいない。だから・・・」

「ほう・・・証明、ね。なら、美咲?悪いけど、この家壊して良い?どうも、信じてくれないみたいだから。可愛い娘のあなたの言うことよりも、あたし達を憎い方が大きいんだってさ?」

「・・・仕方がありませんね。お父様、あなたがそれほど愚鈍だとは思いませんでした。美嘉さん、この家は諦めました。存分に。」

「み、美咲?冗談だよな?そんな事を出来るわけ・・・」


 すがるように美咲さんを見る美咲さんのお父さん。

 美咲さんは・・・黙って首を振った。


「自分のおっしゃった事には責任を取って下さい。」

「な・・・」

「では・・・『絶望の黄昏』アルフェミニカ


 世界の色が変わっていく・・・

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