第66話 周防さんと新生魔王軍が協定を結びました
「まず初めに、瀬尾さん、皆さん、今回の件、本当にありがとうございました。」
「皆様、私もお礼申し上げます。ありがとうございました。」
周防さんと轟さんが頭を下げる。
「気にしないで。僕が・・・僕達がしたくてした事なんだから。」
僕の言葉に、みんなも頷く。
周防さんは、頭を上げて続けた。
「そして、フラレた事にも納得がいきました。瀬尾さん、あなたは、自分を追いかけてくれた桜咲さん方と共に生きるおつもりなんですね?」
・・・周防さんは、やっぱり強いな。
もう、自分で想いを受け入れられなかった事に触れられるなんて。
だったら、僕も正直にいかなきゃね。
「うん。はっきり言って、僕は周防さんに好意があるよ。それは友情だと思っていたけれど、君が攫われたって聞いて、辛い思いをしているかもって思った時気がついたんだ。多分、僕は女性としても君に好意を持ってると思う。」
「っ!あ、ありがとう、ございます。」
「でも、僕には美嘉達がいる。当然、義務的なものじゃなくて、僕もみんなと一緒にいたい、好きだという気持ちを持っている。だから、君と結婚する事で、みんなと一生を共にいられなくなるのは、できないんだ。」
また、泣かせちゃうかな・・・
僕は、周防さんの表情を伺う・・・アレ?なんか微笑んでる?
「いえ、やはりあなたは誠実ですね。」
そう言ってくれる周防さんこそ、優しいと思う。
「・・・瀬尾様。」
「ん?轟さんどうしたの?」
そんな中、轟さんがいつもの無表情で話しかけてきた。
なんだろう?
「好きです。」
「「え”」」
僕と周防さんの口から変な声が漏れた。
みんなは・・・アレ??
驚いてないの?
「まぁ、知ってたからね。」
「ええ。」
「シュン様?トドロキさんは、最初から強者であるあなたに敬意を評していました。その上で、あなたの人柄を見ていたのです。」
「そうだな。それに、トドロキさんはこの世界では強者だ。そんな自分を受け止められるだけの男性なんだ君は。同世代でそれだけの男性は居ないだろうしな。気持ちはよくわかる。ボクも、自分より弱い男と共にありたいとは思わないし。」
「そーそー。むしろ、スオウちゃんが気がついていなかった方に驚きだよ。」
そ、そうなの?
全然気がつかなかった。
「私は、このような性格です。感情を出すことも、苦手です。ですが、先程、お嬢様が攫われた時、私は瀬尾さんを頼ってしまいました。それは、私が貴方様を精神的に頼りにしているという事だと気が付きました。この感情・・・はじめてのものです。私は、この感情を貴方と共に育てたい。」
「え・・・う・・・で、でも・・・僕はみんなと一緒に生きる為に・・・」
「単刀直入に問います。私の事、お嫌いでしょうか?」
無表情のまま、そう言う轟さん。
でも、よく見ると、ズボンを握りしめて皺ができている。
・・・真剣に答えないと。
「勿論、嫌いじゃないよ。むしろ、友人としてだけど、好きだ。」
僕がそういうと、轟さんは微笑んだ。
思えば、轟さんの笑顔を正面から見たのは初めてな気がする。
あまりにも綺麗で、ドキッとしちゃった。
「ならば、問題はありません。私は、別に貴方様を独占しようとなんて考えていません。ですので、一緒に愛情を育てさせて頂けないでしょうか?どうか、私に愛を教えて下さい。お願いします。」
・・・ど、どうしよう。
確かに、それであればみんなとの関係には問題は無い。
でも、なんか不誠実な気もするし・・・いや、不誠実なのか?
肝心なのは、僕の気持ちじゃないのかな?
でも、みんなの事もあるし・・・僕だけで決めるのは・・・
「シュン。あたしは良いわよ?」
「そうね。私も良いわ。」
「え!?」
僕の心を読んだであろう美嘉とジェミニがそう言った。
「シュンが考えてるのは、あたし達に対して不誠実じゃないかって事でしょ?でも、そもそもあたし達は、複数での将来を考えているじゃない?なら、あたしは、自分が認めた人を受け入れるのに、不満は無いよ。あんまり沢山は嫌だけど。」
「そうね。トドロキさんなら申し分無いわ。彼女は誠実だもの。それに一途そうだわ。」
「そうですね。わたくしも構いません。」
「ああ、ボクもだ。トドロキさん、一緒に訓練しようか。」
「あ、そうだね!アタシも教えてあげたい技があったんだよね〜!」
「皆様、ありがとうございます。それと、ラピス様、久遠さま、喜んで!よろしくお願い致します。」
・・・あれ?
僕、まだ返事してないんですけど?
なんか、もう受け入れた事になってない?
目の前で、きゃっきゃと喜んでいる美嘉達+轟さん。
周防さんは呆然としていたけれど、ハッとして叫んだ。
「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい!?なんでそんな事に!?」
いや、本当にね?
「お嬢様・・・私、幸せになります。」
「美玲!?お待ちなさい!そんな・・・ズルい!だったら私だって!!」
「いえ、お嬢様には『周防』がありますので・・・立派な頭首におなり下さいね?」
「〜〜〜っ!わかりました!では、こうしましょう!桜咲さん!それに皆さん!もし私が、瀬尾さんと結婚するのでは無く、皆さんに受け入れて貰う方向ならば、了承して頂けますか!?」
「周防さん!?突然何を!?」
いきなりそう捲し立てる周防さんに僕は驚愕する。
しかし、美嘉達は冷静だった。
「ええ、勿論よ。あたしは・・・いえ、あたし達は既に、あなたを認めていたし、好ましくも思っていたから。だから、そっちなら問題無いわ。・・・ぶっちゃけ、あなたがあたし達の前から消えるって言った時、こちらでの初めての友達になれたのにって残念に思ってたくらいだから。」
冷静に、肯定していた。
美嘉の言葉にみんなも頷いている。
「でしたら!私には『周防』があるので、どうしても社会的な立場としての婚姻は譲っていただく必要が出てしまいますが、内部的には桜咲さんが正妻、私が妾としてはいかがでしょうか!?勿論メリットもあります!」
「・・・『周防』の力をシュンに使えるって事ね?」
「そうね・・・それと同時に、私達の力を『スオウ』にも使えるって事でもあるわ。それに、スオウさんにしてみれば、想い人と一緒にいられる、私たちもスオウさんと仲良く出来る・・・WinWinね。悪くないわ。」
「・・・流石ですね。どうでしょう?勿論、皆さんの力を無理やり使わせる事はありません。」
「それはスオウさんを信用していますよ?ねぇラピス。」
「ああ、そうだな。スオウさんの人柄は分かっているつもりだ。ボクも異論は無い。」
「良いよ〜。スオウちゃん、仲良くしようね〜?」
「はいっ!」
・・・えぇ・・・?
あれぇ?
僕の意見は?
僕、当事者じゃ無いの・・・?
完全に蚊帳の外なんですけど?
「何よシュン?どうしたの?」
「どうしたもこうしたも・・・僕の意見は!?」
「無いわ。」
「なんでぇ!?」
「だって、シュン、ふたりとも好きじゃない。」
「う”!?そ、それはそうかもだけど・・・」
「瀬尾さん、私の事、お嫌いですか・・・?私じゃ、駄目?」
「ぐっ!?・・・いや、その・・・」
「瀬尾、さん・・・」
「瀬尾様・・・」
怯む僕に、両手の指を胸の前で組んで祈るようにした周防さんが、上目遣いで詰め寄り、同じように悲しそうな表情をした轟さんが詰め寄る。
「・・・わ、分かったよ・・・僕も、二人のこと、好きだと思うし、君たちがそれで良いなら・・・」
「やったぁ!」
「ありがとうございます!」
二人がビョンビョン飛び跳ねる。
周防さんの目に、もう涙の後は無い。
・・・そんなに早く涙って止まるの?
演技?
「ふたりとも!良かったね!イェーイ!!」
「「「「「「イエーイ!!」」」」」」
そして美嘉の号令で流れるようにみんなでハイタッチ。
・・・ねぇ、僕やっぱり良いようにされてない?
こうして、新生魔王軍は、『周防』と手を組み、その勢力を拡大する事になった。
・・・主に、僕に対して、ね。
・・・とほほ。
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