第23話 ジェミニに話を聞きました

「なにゆえジェミニが!?」

「ジェミ姉!ズルい!アタシだってシューくんと一緒に寝たこと無いのに!!ましてや裸なんて!!」

「あら?ズルいのはあなた達二人な気もするけれど?」


 一体何が起こったって言うの!?

 なんで裸のジェミニが僕のベッドの中に!?

 でも・・・


「とにかく服を着てぇ!!」


 言い争っている美嘉とクォンとジェミニを尻目に、僕は目をつぶって叫ぶ。

 

「・・・別にシュンくんなら見られたって・・・」

「ジェミニ!こちらに早う来い!」

「そうだよ!ジェミ姉さっさと服着て!!早く!!」

「・・・んもう・・・二人ったら・・・」


 ・・・ベッドからジェミニが降りる気配がする。

 気配はそのまま美嘉の部屋へ。


 ・・・ふぅ。

 これで落ち着ける・・・

 しかし、一体なんでジェミニがここに居たんだろう?

 まったく気が付かなかったんだけど・・・






「さて、それでは早う説明せい。」

「・・・それが、久しぶりに再会した幼馴染みへの言葉かしら?」

「やかましい!妾ですらしておらぬ同衾を先にしおって!裸まで晒しおってからに!!」

「そうそう!ジェミ姉ズルい!」

「そういうアルフェミニカとクォンこそ、私達を置いてさっさと異世界に来てるじゃないの。特にクォン?私、一言もそんな事聞いてないんですけど?」

「うっ!?・・・それは、その」 


 目の前で喧々諤々けんけんがくがくとしている3人。

 ・・・話が進まない。


「・・・ジェミニ。久しぶりだね。また会えて嬉しいよ。」

「あら?それはこちらのセリフよ?シュンくん。変わってないみたいで良かったわ。」


 僕が見かねて話しかけると、ムスッとした美嘉とクォンを横目に、ジェミニは綺麗な笑顔を見せた。


「それで・・・どうやってこちらに?それに、美嘉・・・魔王とクォンがこっちにいるのを知ってたみたいだけど・・・」


 僕がそういうと、「そうだ!」「それ!」と、美嘉とクォンも叫んだ。


「ああ、それね、あのね?」


 こうして、ようやく経緯を聞くことが出来たけれど、それは驚きの展開だったんだ。







 sideジェミニ


 私が次元跳躍魔法『ワールドゲート』の使用を終えると、そこは真っ白な世界だった。

 ・・・失敗、したのね・・・

 私は・・・死んだのかしら・・・


 その、絶望に押しつぶされそうになる。


 しかし、そんな時だった。


『大賢者ジェミニよ。』


 声が聞こえたの。

 その声は、意識を失う直前の声と同じものだったわ。


「だれ!?」


 周りを見回すと、そこには、一人の・・・いえ、正確には、人形ひとがたに光るナニカが居たわ。

 すぐに、身構える。


『怖れる事は無い。私は、この世界・・・グランファミリアを管理する者だ。』


 ・・・管理?

 それって・・・まさか・・・


『そうだ。神とも呼ばれている。』


 思考を!?

 この存在からは、凄まじい存在感を感じる。

 いずれにしろ、かなわないのは間違いないわね。

 ・・・取り敢えず、信じるしかないようね。


「・・・私は死んだの?」

『否。・・・本来はそうなる予定だっただろうな。そなたの魔法は失敗し、魔力が底をついたそなたは、あの愚王の軍に蹂躙されるところだった。だが・・・』

「・・・あなたが、助けてくれた・・・?」

『そうだ。』

「何故かしら?私は・・・ただの魔族の筈・・・」


 私にはせない。

 神ともいう存在が、何故たかが個人に肩入れするのかが。

 しかし、その答えは驚愕の答えだった。


『それは、かの者・・・勇者からの願いであったからだ。』

「シュンくんの!?」

『そうだ。かの者は、魔王を討った後、戻り際に、自分の事よりも、そなた達仲間の身を案じておった。そして、私に見守って欲しいと頼んだのだ。』


 ・・・シュンくん・・・あなたって子は・・・

 目から涙が溢れた。

 あの子は、どこまでも優しい・・・やっぱり・・・好き・・・愛してる・・・


『私は・・・間違っていた。あの世界を救うため、一度は拒絶したかの者に頼み込み協力を依頼した。だが・・・救うべき世界の人の王とその取り巻きが、あのような恥知らずな行為をするとは・・・かの者がどんな想いで戦ったのか・・・魔王にすら憐憫を抱くほど優しいかの者が、その止めを刺す時に、どれほど悲しんだか・・・それを・・・己らの欲望で踏みにじりおって・・・』


 神と名乗る者の表情は見えない。

 しかし、その身からは、底しれぬ怒りを感じるわ。

 ・・・でも、私もそう思う。


『大賢者ジェミニよ。そなたはかの者に会いたいか?』

「・・・ええ、勿論よ。そのために、私はあの魔法を作り、使ったのだから。」

『もう、二度とグランファミリアに戻れないとしても?』

「ええ。」


 それだけの覚悟はしている。


『ならば、その願い、聞き届けよう。ただし、頼みがある。』

「・・・何かしら。」

『・・・かの者を支えてやって欲しい。かの者は、自らの世界では、辛い立場にある。私は、その状況を打開する為に、報酬として、力に応じた財貨を与えようとした。しかし、魔王の横槍により、それを与える事が出来なかった。・・・もっとも、現在は特殊な状況下にあるようだが。』


 どういう事かしら?

 でも・・・


「むしろ喜んで。頼まれなくてもそうするつもりよ。」

『・・・そうか。』


 私がそういうと、神と名乗る者は、ここに来て初めて雰囲気を和らげたわ。

 

『一つ、言っておく事がある。』

「何かしら?」

『かの世界・・・かの者のかたわらには、現在、魔王アルフェミニカの転生体と、そなたの仲間だった獣人の娘がいる。』

「えっ!?」


 アルフェミニカとクォンが!?

 どうやって!?


『魔王は、その魂を救済することをかの者に約束しており、魔王がそれを望んだからだ。どうも、今際いまわきわに、かの者の優しさと強さに惚れたらしい。』


 ア、アルフェミニカが!?

 あの、どれだけ他の魔族に求婚されても応じないどころか、歯牙にもかけなかったアルフェミニカが!?


『そして、獣人の娘・・・クォンは、ある神代ダンジョンを、ボーナス報酬がもらえる単独での踏破に成功し、その報酬としてその世界に渡り、無事合流した。・・・あのダンジョンの報酬は、世界を渡るものではあるが、完全にランダムでつながる為、希望した世界に飛んだ成功例は無かったのだが、私が干渉してかの者の世界に飛ばしたのだ。』


 ・・・クォンが・・・そんなダンジョン知らなかった・・・あの子、黙ってたわね?

 神代のダンジョンだから、難易度は凄まじく高いし・・・絶対に止められるから。

 まったく・・・


『大賢者ジェミニよ。このままかの者に会っても、その寵愛を一心に受けることは出来ないかもしれぬ。それでも、それを望むか?』


 そんなの決まってるわ。


「ええ、勿論よ。幼馴染みに、パーティメンバーがいるんでしょう?アルフェミニカには謝罪と・・・文句も言いたいし、クォンにもお小言がある。それに・・・」


 私は、にっこりと笑う。


「シュンくんに会えるのだから。」

『・・・そうか。ならば・・・』


 なんとなく、神と名乗る者が笑った気がした。


『今から、かの者の世界に送ろう。な。送る場所は、かの者が寝ている寝室だ。隣の部屋に、魔王とクォンがいるが、私が干渉するから起きる事はない。堂々と、かの者の隣にはべって休むが良い。それが、私の世界の者がそなたにかけた迷惑料と思え。』


 ・・・うふ♡

 それは面白そうね!

 アルフェミニカへの文句の代わりになるし、クォンの抜け駆けへの罰になるわ。

 ・・・シュンくん、どんな顔するか、今から楽しみね。

 それに・・・魔法の成功率を上げるために、余分な物は極力持っていかないように、何も着ていないから・・・インパクトは抜群ね!


 あっ!?

 そう言えば・・・


「あの世界はどうなるの?」

 

 私がそう言うと、神と名乗る者の雰囲気が変わった。


『・・・それは、そなたの想像通りだろう。』


 ・・・そっか・・・でも・・・


『・・・案ずるな。そなた達の仲間は悪いようにはせぬ。』


 そう。

 リリィとラピスの事も気にかけてくれているのね。


「・・・ありがとうございます・・・なら、思い残す事は無いわ。」

『ふむ・・・かの者をよろしく頼む。』

「任されたわ。」


 周囲が光る。

 そして、光が収まった時には、そこは見たことが無いものばかりの部屋だった。

 そこで見つけた。

 

「・・・シュンくん。ようやく、会えた・・・」


 目の前では、スヤスヤと眠るシュンくんの姿が。

 思わず涙が出る。

 隣の部屋には、アルフェミニカとクォンの気配があるのにも気がついた。

 彼?彼女?どちらかわからなかったけれど、あの存在が言う通り、三人とも起きる感じは無い。


「・・・さて、それじゃちょっと失礼するわね。・・・ああ、シュンくん・・・ようやくこうやって抱きしめられる・・・朝が楽しみだわ・・・」


 私は、想い人を抱きしめられたその心地良さで、心の底から安堵し、そのまま眠りについたの。








side瞬


「・・・ってわけね。」

「「「・・・」」」


 ジェミニの話は、衝撃ばかりだった。


 まず、ジェミニが僕をその・・・好きだってのもそうなんだけど・・・


 ・・・まさか、あの国がジェミニを殺そうとするなんて・・・

 とても悲しくなってくる。


 でも、神様が約束・・・というかお願いを聞いてくれて良かった。

 心配なのは、リリアーヌとラピスの事だけど・・・神様にも何か考えがあるみたいだし・・・大丈夫、と信じたい。


「・・・なるほどの。そういう訳だったか。」

「ええ・・・アルフェミニカ、あなたを止められなくて、ごめんなさい。」

「・・・いや、ジェミニ、そなたは妾を止めたぞ?シュン達と共にな。」

「・・・そう言ってくれると、嬉しいわ。それに・・・こうして、また話が出来て嬉しいわ。」

「・・・妾もだ。」

「もっとも、勝手に送還の秘術を使ったのは、まだ許して無いけどね?」

「・・・すまぬ。クォンにもシュンにも謝ったが、妾も生まれて初めての嫉妬だったのだ。許してたもう・・・」

「うふふ。仕方がないわね。じゃあ・・・分かるわね?」

「・・・むぅ。まぁ、仕方が無いのう・・・クォンも良いか?」

「・・・うん。アタシも、黙ってこっちに来たし、ジェミ姉の気持ちも知ってるしそれに・・・ジェミ姉なら。」

「ありがと♡」

「「むぅっ・・・」」


 ・・・二人は何を納得したんだろう?

 美嘉とクォンは複雑そうな顔、ジェミニはすっごくいい笑顔をしているね。

 僕にはちょっと分からないや。

 

 でも、またジェミニに会えて本当に良かったよ。

 僕は心の底からそう思った。

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