十三王の決議 ー迷子の白い子ー

九々理錬途

第1話〈序説〉

死んだ人間は何処へ行くのか。 

死んだらどうなってしまうのか。


現世で死んだ人間は三途の川を渡し舟に乗せられ、天国か地獄へ行く、もしくは、死んだら何も無い「無」になる、はたまた生まれ変わって別の人間の赤ん坊として産まれる、様々な言い伝えがある。

人々がそう思うのは、宗教的な観念や昔話、言い伝え、本や映像からの情報、または、臨死体験をしたという人間の体験談などの影響が大きい。

生まれ変わりは願いもあるかも知れない。不遇な死を遂げてしまった者が、次に生まれてくる時こそは……という切実な願い。


しかし実際の死後とは。


三途の川はあるが、バス停がある。駅があり、電車が地下鉄並みの頻度で走っている。なので、死者はどちらか都合が良い方法で地獄の入り口にある窓口まで来てもらう。未成年は未成年の窓口へ、成人は成人の窓口へ、という具合だ。世界各国、土地に合わせた数だけ窓口がある。バス停と駅もしかりだ。窓口まで来るのに料金は必要無い。良く死者の棺に幾らかの舟賃を入れるという話があるが、実際は無料での送迎になる。死んでいるので、更に死ぬという事態にはならないが、安心安全をモットーに掲げる、死後の公共交通機関があるのだ。


ここで言う地獄とは要するに国の名前で、無限地帯と呼ばれる広大な地獄国の上部に位置する都市が、一般の死者が暮らす、所謂「天国」なのだ。大抵の死者はここへ来ることになる。


この制度が始まった当初、「「地獄の入り口の窓口」って不穏な感じがするので、日本の入り口は「職業安定所窓口」にしよう」と提案したのは、日本国の地獄を管轄する責任者、つまりは神様の中の一人だった。


どのみち窓口では、仕事はするかだとか、起業はするのかだとか、永久に睡眠状態になるかだとか、毎月の給料がどうだとか、今後の死者生活についての希望を聞いたり、実施されている講習会への参加を促したりするのだから、やってることは職安と同じだろう、と。そして言われてみればそうだなという事になり、命名されるに至ったのだ。


死後の世界、天国は地形以外は現代の発展と同調しており、死した者は、今度こそ、自ら好きな様に個人として死生活を送ることになる。病気に怯えることも、子孫を残す必要も無く、食わずとも餓死する心配も無い。家族という柵も無くなり、労働の強制も無い。

気の合う死人と笑って過ごす、楽しく穏やかな毎日が待っている。


文字通り個人として永久に自由になれるのだ。


ここまでが通常の死者についての話だ。

通常の死者には、老衰、病死、自死、事故死、他殺、突然死も含まれる。


生前に罪を犯し、現世の法に基いて裁かれた者は、死と共に罪が軽くなり、通常の死者と同様に情報が与えられ、指示される場所は三途の川だが、通常の天国行きのバスや電車の乗り場とは別の場所へ向かうことが思考に差し込まれる。行先は天国では無く、地獄であるからだ。

通常とは別の「地獄行き」のバスか電車で、天国の裏門、つまりは現世で良く言われている本当の意味での地獄の入り口へ来てもらう。こちらで受付をすると、地獄一周ツアーに強制参加となる。一周回って罪の分だけ痛い目に合ってから天国にある職安窓口へ行く。


さらに罪の重い者は、下層の八大地獄へ送られる。こちらは大体で二万年の刑期を終えれば天国へ執行猶予付きで迎えてもらえる。


どちらの地獄も、「被害に遭ったもの」の苦しみや恐怖を物理的な痛みとして受ける。現世で最も裁きの法が曖昧である、「虐め、嫌がらせ、精神虐待」の罪は人のみに限らず動物への虐待も含まれ、痛みを物理的な苦痛として味わって貰う。


簡単に言うと、「相手にやったことなんだから、自分が受けても大丈夫だよね?だって相手にそれをしたんだから」と言うことになる。

罪人は苦痛の中で、自分がしでかしたことをについてよくよく考えて貰うことになる。現世の法と違う所は、「嘘を付く」と言うことが全く出来無いことである。事実としての事柄から地獄へ行くことが決められているので、無罪の主張や異議異論は認められない。

死人であるから死ぬことは無く、刑期を終えるまで延々の苦痛と苦悩が続く。


その更に下層の無間地獄むげんじごくは無期懲役で、門番が開門して投獄する特殊な地獄である。人害をもたらした妖や生前にたらふく罪を犯しながらも裁かれ無かった人間を、生きた状態のまま捕縛し、投獄する。

こちらは対象の人物の死期が確定している事、対象者本人であることの確認が済んでからの投獄となるが、異議異論は通用しない。問答無用である。


◇◇◇◇


通常、死者は死亡した後、数時間はそのまま魂が身体から抜け出たまま、空中を浮遊する。魂のみになった状態に馴染む為だ。後悔や恨みなんかの思い残すことはこの時点で記憶から浄化されてしまう。


その後に情報として、『最寄りの三途の川へ行かねばならない、自分はバスか電車に乗らねばならない』『あの山の麓の駅まで行かねばなら無い』などの情報が差し込まれ、条件反射の様にこの情報は遂行される。最寄りの三途の川の場所もこの時点で記憶に差し込まれる。


ちなみに、地獄へ行くのか、天国へ行くのかの采配を決定しているのは、日本国の場合は、地獄国、天国市、日本支部を管轄する十三の神様、「十三王神じゅうさんおうしん」という面々である。生前の状態を加味してそれは決定される。


地獄と天国の創造主は別にいるのだが、こちらは裁定に関わっては来ない。

地獄国と言う国を安定して存続させる為に存在している。


その十三王の直属の部隊が、「秘匿課ひとくか」と呼称さる職務に就いている死者達だ。要するに生者の世界の役所や警察等の組織と同等の部隊であり死者の管理をするのが常である。


「秘匿課」の職員は、職安窓口の業務、死者の送迎、事務仕事、講習会の実施、天国での喧嘩の仲裁、悩みや困りごとの相談聞き、等を請け負っている。


秘匿課の人員は数百名いるが、直下の部隊、「実働隊じつどうたい」もしくは「地獄の門番」と呼ばれる者だけは、「十三王神」が選び、苗字、もしくは名前を与え、氏名とする。苗字と名前が揃っているのは「門番」のみの特権である。


そして地獄門と呼ばれる深層に位置する牢獄の門の開閉を許され、命令が下れば死にながら魂の状態で現世へ赴く事を許可されている。


現在秘匿課実働隊は二名のみ

五道転晴明ごどうてん はれあき

十王祐天じゅうおう ゆうてん

適正人員は稀であり、つい最近までは晴明が一人で仕事を捌いていた。



◇続

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