一日目:羽田空港発旭川行AIRDO87便
ボーイング767-300機は定刻通りに羽田空港を離陸した。
以前に一度乗ったことあるし、離着陸だけクリアすれば後は楽勝でしょ、と思っていた。甘かった。
滑走路というのは意外と凹凸があるのか、飛ぶ前から何やらガタガタと機が揺れた。
何の前触れもなくいきなり加速すると、ふわりと浮き上がり、足元でタイヤを収納しているらしき音が聞こえた。窓の景色が斜めになった。旋回しているようだったが、斜めになっている感覚はなかった。
離陸しても、妙な揺れは続いていた。シートベルト装着のサインがなかなか消えなかった。離陸してすぐに消えるものだと思っていた。
窓を覗き込むと、遥か下方に街の灯が見える。人間がこんなに高い位置にいるなんて信じられない。
昔乗った時も、気流の影響とやらで、フライト中延々と揺れていたが、そこまで恐怖は感じなかった。これは歳のせいなのか。
確率からいえば自動車より飛行機の方が安全とはよく言うが、人間はそこまで合理的にはなれない。怖いものはどうしても怖い。
妙な揺れやスライドも怖いし、機内が無言なのも怖い。機外から響く『ゴーっ』という音も怖い。全てが怖い。おまけに耳が痛くなってきた。
航空会社が『快適な空の旅』をやたらと強調する理由がわかった気がした。この状況で毎日フライトしてるなんて信じられない。CAさんたちは凄いと思う。
旅客機でも怖いのに宇宙に行くとか、それまで大して関心もなかったが、改めて某社長にも尊敬の念を抱いた。
やっとベルト装着のランプが消えると、少し落ち着いた気分になった。本もなく、他にやることもなかった。緊急時のマニュアルと情報誌で時間を潰していると、CAさんが無料のドリンクを配り始めた。
『水』と言ったはずが、渡されたのは明らかにアップルジュースだった。実は間食を一切しない主義で、水以外のドリンクも飲まないのだが、まあ仕方ない。カフェインじゃなくてよかった。
情報誌を読み尽くし、旭川での行動予定を頭の中で整理していると、アナウンスが入った。
旭川空港での除雪作業のため、着陸が三十分ほど遅れるという。
そもそも、着陸自体出来るのか。横風で煽られてクラッシュしたりしないのか。羽田空港に引き返すことになるのか。シートベルト装着のランプが点灯し、降下を始めたと再びアナウンスが入った。左耳が音を立てて抜けた。
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