残響

夢乃間

第1話

轟音のサイレンの音が響く。それと共に僕の意識が暗闇の底へと沈んでいくのを感じる。

目の前は果ての無い暗闇が広がっており、目を開いているのか閉じているのかが分からない。

僕はどうしてここに?

考え、思い出そうとするが、すぐに頭の中が白紙に戻されてしまう。僕はこのまま、この暗闇の中に溶けてしまうのか?

そう思ってしまうと、自分でも驚く程にこの暗闇に身を委ねていくようになった。

暗闇の中、眠りにつくように目を閉じる。すると、いつしかあのサイレンの音が消え、静寂が訪れた。

目を開けると、そこには天井があった。汚れ一つ無い綺麗な真っ白い天井だ。先程までと全く逆の光景に、僕は四回瞬きをした。

ベッドから起き上がり、辺りを見渡すと、向かい側にもう一つ自分と同じようなベッドと、横の小さな棚の上には、一輪の白い花が挿されている。

まだ断言は出来ないが、恐らくここは病院か何処かだろう。

ベッドから出て、外の景色を見ようと窓に歩くと、外は自然で覆われていた。ある一つの木に目がいき、よく見てみると、その木は風で葉が揺れ動こうとしている所で止まっている。まるで時間が止まっているかのようだ。

この奇妙な光景に呆然としていると、後ろから女性の声が聞こえてきた。


「おはよう。」


振り向くと、そこには白いワンピースを着た銀髪の女性が立っていた。女性は室内だというのに、大きな麦わら帽子を頭に被っている。

何はともあれ、自分以外に人がいる事が分かって安心した。自分以外の誰かがいるだけで、こうも安心出来るとは驚きだ。


「あなたは?」


僕は女性に尋ねた。


「私は澪・・・やっぱり、忘れちゃってるよね・・・。」

「え?」


どうやら、僕は彼女とは初対面では無いようだ。だが、僕には彼女についての記憶が無い。

いや、違う。正確には、彼女についての記憶が思い出せないんだ。あるはずなのに、僕はそれを隠そうとしている。それがどこか恐ろしく、そして悲しくもあり、歯を噛み締めてしまう。


「そんな顔をしないで。」


彼女が僕の頬に手を当て、優しく撫でてきた。彼女の透き通った青い瞳が優しく僕を見つめてくる。その瞳に吸い込まれていきそうで、僕は目を逸らしてしまった。

すると、彼女は僕の頬から手を離し、部屋の扉の前に駆けていき、僕に手を差し伸べた。


「忘れてしまったなら、思い出しましょ。あなたと私の思い出を。」


そう言って、彼女は僕に笑顔を見せる。本当はこの場所について何か知っていないかを聞きたかったし、自分に何があったのかを知りたかった。

けど、どうしてだろう・・・僕は彼女の事を思い出さなければいけないような気がした。

僕は足を前に動かし、扉の前で待つ彼女の手を握り、部屋の外へと出ていった。

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