【朗読台本】単発
ゆずしおこしょう
第1話
登場人物:
主人公:現代日本から気がついたら異世界に送られていた。
魔法使い(魔女):現代日本から数十年前に送られてきた。不老不死の呪いから転生したころの姿を保っている。
気がつくと、そこは異世界だった。
なぜかわからないが、ここが異世界だと直感的に感じた。
眼前には見たことのない平原、そしてその先にキラキラと輝く湖が広がっている。
さらに、その奥には巨大な看板で「ようこそ異世界へ」と日本語で書いてある。
認めたくないが、なぜかわからないが、ここは異世界だと直感的に感じた。
明らかに数100m以上離れているにも限らず、裸眼でギリギリ生活できる程度の視力でも
はっきりと見えるほどには巨大な文字だ。
どうやら看板の下にはなにか(比較的)細かい文字が書いてあるようだ。
とにかくこの場所の情報を知るために看板のもとへ向かおう。
暖かい日光に包まれ、穏やかな風を浴びながら、緩やかな傾斜になっている平原を下っていく。
優しい風が辺りの草木を静かに揺らし、湖に近づくと徐々に小さな波の音が耳に入ってくる。
そして、徐々に近づいていくと、細かい文字が読めてくる。
「湖には巨大な蛇がいる。近づくと危険。『キーン』という音が聞こえたらすぐに10m下がれ。そして、右の林へ逃げろ」
親切なような不親切なような看板だ。とりあえず、いますぐ10mは下がったほうがいいようだ。
耳なりのような高音を背に受け、水面が異様な形で盛り上がっているのを尻目に走って逃げて、右の林に飛び込んだ。
林の中はとても穏やかな風が流れ、木の葉がざわざわと揺れている。
かびや苔の湿っぽい匂いに混じって、風に乗って甘い匂いが漂ってきた。
匂いを辿っていくと動物たちの作ったと思われる獣道にぶつかる。
獣道を辿っていくとそこには小さなお菓子の家が立っていた。
随分とファンタジーな世界にやってきたらしい
建物の中は童話のような魔法使いが大釜で鍋をかき回していた。
鍋のなかは茶色とも黒ともつかないドロドロとした液体で、そこから漂う甘い香りが部屋を満している。
鍋をかき回す魔法使いが「ククク……」と妖しく笑う。
「よく来たね。選ばれし、勇者よ。これがなにかわかるかい?」
鍋をかき回していた棒をすっと抜き取る。
細い棒の先には何か小さなものが刺さっており、どろりとした液体がダラダラと滴っている。
「ククク……チョコフォンデュだよ。おいしいよ」
こちらが返答に困っていると、空いている方の手でローブのポケットをまさぐり始めた。
「飴ちゃんもあるよ」
おいしいコーヒーも出してくれた。
話を聞くと、彼はどうやら数十年前に日本からこの世界に送られ、不老不死の呪いを受けたそうだ。
「それからは異世界転生者のスポーン地点の横に居を構えることにした。そして、日本から来た若者を支援しつつ、話し相手になってもらうのがいまの私の支えなのだ」
魔法使いは焼きたての抹茶クッキーを差し出した。
小さくもやや厚めの見た目のクッキーは表面がサクサクでありながら、なかは少ししっとりとしている。
一口齧ると口のなかにふわっとバターの甘く柔らかい香りが一気に広がっていく。
そして、舌の上で崩れたクッキーはあっという間に溶けてなくなり、それと同時に閉じ込めていた濃厚な抹茶のさわやかな香りが口のなかを満たしていていく。
バターの優しい香りと抹茶の厳かな香りが一気に混ざりあっていき、さっぱりとした上品な印象を与えてくれる。
さらに甘味を控え、ビターな味わいでありながらも抹茶特有の強烈な苦味を強く感じることがない。
何より、チョコフォンデュでチョコの香りと甘味になれ、少し疲れていた口を最高のタイミングでがらりと変えてくれた。
「あの看板の文字を読み、音を聞き分けられ、指示に従い、獣道の安全性を理解でき、匂いから民家の存在を探り当てることができ、危険を追う覚悟のある人間」
この魔法使い……できる!
「君は選ばれたのだ」
にやりと笑う魔法使いは席を立ち厨房に向かった。
「どうするかね?」
戻ってきた彼の手には、瓶に入った牛乳と小さな鍋が納められていた……。
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