第20話
「彼が、あの事故の生き残りだと知ったのは、本当にたまたまだった。彼の頭には、大きめの傷があるの。髪で隠れてるけど。左の後頭部」
「その傷を、調べてもらったの。彼自身も傷については知らないらしくて、もし何か大きなことがあって、彼が死んでしまったらと思って。それがこわくて。だめね。それが、だめだった」
「私ね。顔が広いの。だから、そういう、表側で出てこない情報も扱うところで、とても腕の良い友達なのだけど、その友達に、診てもらったのよ。彼の頭の傷を」
「そして、分かったわ。分かってしまったの。あの事故の検証作業も、彼女がいくつか請け負っていたから」
「彼は、あの爆発事故の。それも、非常ボタンを押した勇気ある子供だった」
「でも、彼は。それを曖昧に覚えている。いや、本当は分かっているのかもしれないけど、それをなんとか押し留めている」
「だから、私も。彼がそれを、悲しい記憶を、思い出さないように。なるべくできる限りのことをしたわ。なんでもした。なんでもしたの」
彼女。なみだを、こらえているようだった。
「でも、だめだった。彼の周りから不安要素を取り除いていく度に、彼は。彼は」
一筋だけ。
なみだが、彼女の頬を。
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