第18話

 彼のやさしさの根源にふれて、わたしは。彼の側にいてはいけないと、思った。


 彼のその話を聞いて、すぐ。


 彼の恋人のところへ。

 行った。


「話せたのね」


「はい。なぜだか分からないのですけど、あなたと話すときだけは、言葉がすらすら出てきます。こんなことは初めてです」


「感情が動かないから、かしら。好きな人の恋人だもんね」


「今、そんなことは」


「関係あるわ。私もね。ちょっと、限界が来ちゃってて」


 彼女。さびしそうに、笑った。


「私ね。浮気してるの。彼以外の人と、仲良くしてる」


 自分でもびっくりするぐらい。

 素早く身体が動いた。

 彼女の首を掴んで。

 腰に手を回して。

 回転させる。

 投げ。

 そしてすぐ、背中に肘をあてて、圧迫。

 制圧完了。


「彼がいるのに。彼以外の人と」


 言葉は、すらすらと、出てくる。おそろしいほどに。冷静。感情は動かない。


「ありがと」


「なにを」


「このまま。このままがいい。このまま話させて」


 肘に、少し力を込める。

 彼女。みしみしという音。


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