第15話

 それだけで、よかった。


 それだけが、聞きたかったのかも、しれない。


 立ち止まって。


 急いで紙とペンを取り出そうとしている彼女に、抱きついた。それだけでよかった。最初から、こうしていれば。


「いたたた」


 彼女が取り出そうとしていた紙とペンが、見事に刺さってきた。


「あぶねえ。しぬとこだった」


 それを見て。


 ララーニアが。

 笑う。


 いつもの、にこにこした笑顔で。


「そうか」


 彼女は、処世術で笑っていたんじゃ、なかったのか。


 こうやって。


 いつも。


 こころから。


 笑っていたのか。


 喋れなくても。

 考えていることが伝えられなくても。

 つらくても。


 それでも、心から、笑えていたのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る