第61話 捜索事情、ネタバラシ、神弓
「ところで、その姫巫女様を見つけたらどうなさるつもりなんですか?」
それぞれがキッシュを半分程食べ進んだ頃合いで、一つ質問を投げかけて見る。
個人的にはそこが一番気になっているところ。
リミューンはチラリとベラフィアへと視線を向けるのみで黙っているところを見ると、そういった部分に関してはベラフィアが一任されているということか。
ゆっくりとだが一定のペースで黙々と食事を進めるベラフィアがその手を止める事無く口を開く。
「私達の本音としては戻って頂きたいところですが……無理強いはしません」
「おや、そうなんですか」
それはちょっと予想外だった。
というのも、ルアセンの森から遥々カーネリアまで追いかける程なのだから、てっきり連れ戻す事が目的だと思っていたからだ。
そう言えばリミューンは連れ戻すんだと息巻いていたが……とそちらを見ればなんとも不満げな様子。
リミューンとしては戻って欲しいという気持ちが強いようだな。
上の意向と自分の意見が合致しないことはよくある事。
リミューンも大変そうだなぁ。
そう思っていた事が顔に出ていたのか、ベラフィアが小さく笑みを浮かべた。
「姫巫女様は一度いい出したら我々が何を言おうともやめるお方ではありませんから。それは貴方も良くご存知なのでは?」
「さて、何のことでしょう」
とりあえずはぐらかしてみるが、彼には完全に見抜かれているから意味無いか。
確かに、一度言い出したら曲げないところはあった。
俺とどちらが偵察に出るかで揉めた事もあったなぁ。
「それに、巫女の役を引き継ぐ予定のお方は他にもいらっしゃるのです」
「へぇ……兄妹とかですか?」
「今の巫女様にはお二人のご息女がいらっしゃいます。姉君のナーミツゥ様と妹君のウィツァリア様です。私達が探しているのは妹君のウィツァリア様なのです」
ウィツァリア……か。なるほどね。
「今回の捜索は巫女様の要望で行っておりますが、実はナーミツゥ様からはウィツァリア様の事は好きにさせて良いと言われているのです。巫女は私が継ぐから、と」
「そのウィツァリア様とやらはそのことは?」
「ご存知なかったでしょう。私達の気配を察知すると話をする暇もなく逃げ出されてしまっていましたので。私としても姫巫女様がお戻りにならないおつもりならばそれでも構わないのですが、せめて居場所くらいは明確にしておきたいのですよ」
「確かに、万が一の事があったときに所在不明では困りますからね」
これまでの話で事情は分かった。
これはもう、猫を匿っておく必要もなさそうだなぁ。
「と、いうことらしいが、どうする?アリア」
「ちょ、クラウス!シーッ!」
「諦めろ。それにべラフィアさんにはとっくにバレてたぞ」
「えっ、うっそ!?……あ」
本人、本当に気づかれてなかったつもりのようで、俺の言葉に思わず立ち上がってしまうのだが、当然そうなれば今まで気づかれてなかった人にも気づかれるわけで……。
「ひ……姫巫女様!?!」
「あ、あはは……リミューン……その……やぁ?」
「やぁ?じゃありません!」
「ごめん、ごめんってー」
アリアの姿を見るやいなや、カウンターを飛び越えてくるんじゃないかと思う程の剣幕でアリアへと手を伸ばすリミューン。
本気で怒っている事は怒っているんだろうが……なんだろう、怒っているだけではないんだろうなぁ。
先程までの落ち込んでいた時に比べ、心做しか声が明るい。
「とりあえず、アリアを匿っていた事はすみませんでした」
「いえいえ、こちらこそ姫巫女様がご迷惑をおかけしました」
「まぁ、昔なじみですから、その辺は気にしてませんよ」
「お名前を聞きもしやと思っておりましたが、やはり千変万化のクラウスさんでしたか」
「今はただのクラウスですよ」
そうでしたか、と一言だけ返すべラフィア。
こういう、個人的な話にズケズケと踏み込んでこないところに年季を感じる。
アリアにも少しは見習ってほしいところだ。
……まぁ無理か。
営業中の酒場に飛び込んできたと思いきや、開口一番に匿って!とカウンターに飛び込んでくるようなやつなんだしな。
その当人は、怒りの限界を突破したのか拗ねてしまったリミューンを宥めるためにカウンターから出て必死に謝り通している。
リミューン、意外と頑固なんだなぁ。
まぁそれはともかく、俺はこいつに聞かないとならないことがある。
「さて、アリア……いや、ウィツァリアさん?姫巫女がどうとかって話、俺も初耳なんだけど、どういうことなのかな?」
俺がそう問いかけると、ビクンと長い耳を動かしてから、ゆっくりとこちらへと向き直るアリア。
あはは、と乾いた笑い声だけがこちらに届く。
まぁ、別に本気で怒っているわけではないんだが、迷惑をかけられた事は間違いないのでその意趣返しだと思ってもらおうか。
リミューンの隣でオロオロしているこいつ、元銀翼の隼のメンバー、神弓の二つ名を持つエルフ、アリア。
俺の知っている情報はそれだけ……だった。
まさか王族……っぽい立ち位置だとは思わなかったわ。
……いや、よくよく考えればリカルドも領主の嫡男だし、別にもう驚く事でもないか。
「えーっと……まぁ、べラフィアさんの説明の通り、かな。アタシは巫女の次女、名前については……ほら、本名出してるとバレるかなって……えへへ」
頬を掻きながらバツが悪そうに引きつった笑みを浮かべるアリア。
……うん、そういう事じゃぁないんだよな、聞きたいのは。
「いや名前とか別にどうでもいいんだが、集落を飛び出したのはなにか理由があるのか?ってところを聞きたいんだが」
「あ、そっち?いやーだって集落の中って暇なんだもんー」
「……お前ならそう言うかなとは思った」
「あっ、ひっどーい。なんかアタシがアホの子みたいじゃん」
「間違ってないだろう」
「ちょっと!流石にそれは聞き捨てならないんだけど!?」
いつもならこの辺りで手が出てくるところんんだが、今はカウンターを挟んでいるので安心安心。
それに最終的にはバラしたとはいえ匿ってやった恩は忘れないでもらいたい。
あと、俺の脛、叩きまくったの忘れてないからな。
カウンターをトントンと小さく叩いてニヤリと笑みを浮かべてやると、口をへの字にするとプイッとそっぽを向いてしまう。
ははは、勝ったぞ!
とまぁ、お遊びはこの辺にして、とりあえず話を進めないとならない……が、そろそろ頃合いか。
「クラウスさん、焼き上がりましたよ」
いいタイミングだマリー。
マリーが厨房から持ってきてくれたのは、二人が食べているものと全く同じ、芋とアスパラガスのキッシュ。
二人が食べ始めた頃、これが必要になるだろうなと思いマリーに追加で焼いてもらっていたものだ。
「ほれアリア、どうせ腹減ってるんだろ。食え食え」
「おぉ!気が利くじゃんクラウス!やった、ホントお腹ぺこぺこなんだよ。いい匂いが漂ってきた時はクラウスの脛でもかじってやろうかと思ったよ」
「俺の脛はお前のイライラ発散棒でもないし、非常食でもないんだが?」
俺のそんな抗議なぞもはや聞いていないなこれは。
目の前に置かれたキッシュに一瞬で心を盗まれたようだ。
と、アリアのその姿に俺の予想外の人物が予想外の反応を示した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます