第23話 背中を押す。そして残る

「ねぇねぇいーくん! 凄いよこのウォータースライダー!!」


「そうだね、遙。2人で乗る人たちが多いけど……」


「もちろん私たちも2人で乗るよね〜」


 勇臣と遙がラブラブな雰囲気を出し、楽しそうに前方のウォータースライダーの客を見る。


 プールに来る客のほとんどが、ここのウォータースライダー目当てだろう。なめらかな滑りから始まり、ブラックゾーンと虹色になる部分がある、シンプルなウォータースライダー。タイプは他にもあり、浮き輪スライダーなど8種類ものウォータースライダーを楽しめる。


 勇臣と遙が楽しそうにしているのを見るとこっちもホッとする。なんたって、推しカプだからな。


 俺は視線を隣にずらす。そしてまた前を向く。ずらす。前を向く。ずらす……


「はぁ……」


 どうしたもんかねぇ……。


 隣の七香の元気がない。

 ある意味俺たちはライバルだ。その片割れがこんなに張り合いがないと……。


 でも、この結末が俺が目指すものだ。七香が2人から手を引いく。もしくは他の誰かの彼女になる。

 

 これが俺のハッピーエンドルート。


 けど………ああ、クッソ!!


「おい七香いいのか? 勇臣が遙とイチャイチャラブラブしてるぞ、邪魔しに行かないのか?」


「……私の事をなんだと思ってるんですか」


「寝取りマン」


「相変わらずムカつく人ですね。大体、本当の寝取りっていうのは、アイツみたいなことで……。私はアイツとは違うからっ」


「あー、お兄さんの事か? まぁあの人の寝取り癖はひでぇな。しかもヤリ口が詐欺師かよってくらい、慎重で上手い。アイツと比べたら七香がマシに見えるよなー」


「……なんでアンタがアイツの事を?」


「あ……」

 

 しまった……つい、うっかり……。


 七香は怪しげな瞳で、見上げてくる。


「そういえば色々謎だったわ。初めて会った時もいきなり私が勇臣先輩のことを好きだと見抜いたり、カフェの件だって、目当てのカフェに先回りするように働いてるし……もしかしてアンタ……」


 ……ゴクリ。

 え、なに? もしかして俺が前世の記憶を持ったまま翔太郎の身体に憑依していると——


「私のストーカ?」


「……あ? 違うわ!!!!」


 確かにそれっぽいことやってるけども!!


「次の方、前にお進みくださーい」


 係員がタイミングよく案内する。


「ほら、俺たちの番が来たぞ。あー楽しみだな〜」


「……」


 ジト目で見てくる七香の事は無視し、前へ進む。先に勇臣たちを滑らす。


「きゃっ、いーくんくすぐったいよ!」


「ごごご、ごめん!」


 後ろから勇臣が抱き締める形で2人で滑るようだ。うんうん、いいね。恋人って感じする。


「おい、なんだアイツ……めっちゃ美女連れてるぞ」

「うわっ、いかにもヤリチンそうだな……」


 後ろの客がそんな事を話しており、気になって振り向く。


 すると奥には……


「私が辰くんと一緒に滑るんです」

「いいえ私が!」

「おいおい、俺で喧嘩すんなよ〜」


 ……辰がいた。11人もの美女を侍らせてる。下手な鈍感主人公よりもハーレム気づいてね?

 

 って、唖然としている場合じゃねぇわ!!


「リア充ドーーーーーン!!」


「きゃぁぁぁぁ!!」

「わぁぁぁぁ!!」


 イチャイチャしているところ悪いが早く行ってくれ、勇臣、遙!

   

 もたもたしていた勇臣の背中を押した。

 ふぅ、これで辰にはまだ遙の存在が知られない。


「じゃあ俺は先に滑るから後からちゃんとついてこいよ!」


 設置してある棒を握り、スライダーにしゃがんで勇臣たちの後を追うように滑ろうとした時、係員に止められた。


「あの、お客様。こちら2組以上で滑っていただかないと回転効率が悪いので……」


 まぁ確かにそうだな。1人ずつだと時間が掛かる。


 ということは………

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る