第7話 そのモブは、陰キャ。友人キャラ昇格を目指す②

「な、なんでしょうか?」


 ヒロインから話しかけられると、ちょっと緊張する。てか、美少女だなぁ……。


「あ、あのねっ、私がこんな事を言うのは、その……失礼だと思うけど……」


 手をもじもじして、何やら言いにくそう。はーん、察した。


「振られた事は気にしてないから、変に気遣わなくていいぞ?」


「なんでそれを!? じゃあなくて……き、君が気にしてないならハッキリ言うよ……! 振られたのはとても悲しかったと思うけど……あの時、どっちが好きだんだ、って、いーくんに問いただしてくれてありがとう、ございました……」


「……」


 お礼を言われると思っていなかったので、しばし固まる。


 応援しているヒロインにお礼を言われるなんて、人生で経験できるのは俺くらいだろう。


 この笑顔を守るために、寝取りルートをぶっ潰して主人公と恋人関係を続けてもらわなければ。


 ふと、遙が近寄り俺だけに聞こえる声で言う。 


「ここだけの話、いーく……勇臣くんは誰にでも優しいから私が本当に彼女として相応しいか不安で……」


「なるほど。モテモテの彼氏を持つと大変だね」


「そ、そうなんだよ〜! すぐ優しくしちゃうから相手の女の子はみんな勘違いしちゃって〜。って、ごめんね、呼び止めたのに長話しちゃって」


「全然いいよ。これも何かの縁だし、俺で良ければいつでも話聞くから」


「ほんとっ、ありがとう!」


 遙はペコペコお辞儀し、そのまま去っていった。


「やっぱり朝月さん、可愛いよな〜」

「スタイル抜群、運動神経抜群、好感度良し! 勉強は……そこまで得意ではないらしいが、そこがまた良いよな。完璧って感じしなくて親近感が湧く」


 友達1号と2号が見惚れている間、俺は少し危機感を覚えた。


 ……この時点で遙が不安を抱いているって事は、寝取りルートが着実に近づいてきてるな。





 2日目となればある程度、勇臣たちの行動やら情報が入ってくる。


 勇臣は、朝月遙という彼女がいながら、相変わらずどの女の子にも優しいらしい。密かにモテていると主人公お決まりの設定。


 七香は、毎月、違う男と付き合っている噂が流れているが、まぁ所詮は噂。信じている人は半々。ボディータッチが多く、勘違いした男子から良く告白されてるとか。


 遙は、流石メインヒロインと言ったところだ。悪い噂を聞かず、勇臣とラブラブでこのままお幸せにと周りは祝福ムード。


 俺はというと、みんなからなんか面白い人認定され始めた。




 放課後になり、みんなが帰路につくか部活をする中、俺は少し待っていた。


「いーくん、今日の放課後はどうする〜?」


「そうだなー」


 勇臣と遙が教室を出て行くのが見えた。俺は鞄を背負い、後をつける。


 校門前では七香が待ち構えていた。


「せんぱぁ〜い! 帰りましょう〜♪」


「……おい七香、お前なぁ」


「いいじゃないですかぁー! 可愛い後輩が一緒に帰ろって言ってるんですから〜」

 

 遙が隣にいることもお構いなしに、七香は勇臣の腕にくっつく。

 その巨乳が柔らかそうに形を変えて、腕を圧迫する。

 勇臣は一瞬、ノックアウトされたように言葉を詰まらせた。


 おい、勇臣。いくら彼女より少し大きいおっぱいだからって負けるな。おっぱいはデカさが全てじゃないんだぞ!!


 このままじゃ七香に流されると思った俺は、一言声を掛けようとしたが……


「ダ、ダメっ!」


 勇臣の空いたの腕にしがみつく遙。

 予想外の行動に、勇臣も七香も驚く。


「は、遙……?」


「い、いーくんは私の彼氏なのっ。だから……だから今日は……今日からもいーくんは私と2人っきりで帰るんだからっ。も、もちろん朝も! いくら七香ちゃんがいい子でも、可愛くても、いーくんと仲が良くても、いーくんが私の彼氏である事は変わらないんだからっ。そこは譲らないよ……!」


「……遙」


 彼女がここまで勇気も出して言い出したんだから、彼氏も黙っていないだろう。


 勇臣は腕をほどき、真っ直ぐ七香を見つめる。


「七香、俺は遙との時間を大切にしたい。だからこれからはあまり構ってやれなくなる。ごめんな……」


「へぇ、なるほど、そうきましたかぁ……」


「七香?」


「まぁ、恋人ですもんね……分かりました。お2人の幸せを一歩後ろから見守ることにします。ですが、これで最後にするので今日だけ付き合ってください。学校の近くに新しいカフェができたそうなので……3人でいきましょう♪」


「ま、まぁ最後なら……」


 新しいカフェ……。


 その時、記憶がフラッシュバック。

 この後の光景に見覚えがある。


『彼女さんがいない間に〜、しちゃいましょ』

『しちゃいましたね〜。あーあー、そんなに悲しい顔をしないでくださいよぉ〜』

『バレなければ浮気じゃないんですから』

『意識しちゃダメですよ〜。私はただの後輩。貴方の彼女ではないんですから』



 あのシーンか! マズイぞ……この後の出来事がシナリオ通りに進んだら、寝取りまっしぐらだ。


「……♪」


 ふと、七香と視線が合った。

 こちらを挑発するように笑みを向けている。


「……やってやろうじゃねぇか」


 この世界での最初の分岐ルート。


 ぶっ潰すぞ、寝取りルート。

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