居酒屋②

 ~現在……


 彼は、少し前の事を思い出して発泡酒を飲んでいると、カウンターの向かい側に居る店の店員が「君、初めて見る顔だね」と、声を掛けて来た。


 彼の言葉にセフィーは顔を上げて店員を見る。


 「この辺では、あまり見掛けない容姿だ。旅の途中かね?」


 「まあ……ちょっとね」


 「こんな辺境に近い場所に来ても、見る物も無いし、この辺に住む人達の雑談しくらいしか話題がないよ」


 「そうですな、まあ……自分は、ちょっとこれから北へと向かうので、その道中に立ち寄ったまでですよ」


 「ほお、ここから北へ行くとなると……王家の墓所にでも向かうのですか?」


 「そうです。ちょっと、王家の墓所を見て見たいと思いまして」


 「でしたら……表参道を通るのをお勧めしますよ、少し前なら森を抜けて近道出来ましたが、最近は魔物が巣食う様になりまして…先日も魔物狩りに来たギルドのメンバーが、2人だけ残して、他は魔物に喰われたらしいので……」


 彼はそれを聞いて、先程飲み屋で大声で話をしていた男性達を見る。


 「不思議な魔法剣を持った男性が助けてくれた……と言う話ですか?」


 「ええ、そうです。もしかして貴方ですか?」


 その問いに彼はフッと笑いながら自分の所有する剣を見せる。


 「残念ながら、自分の持っている剣は無名の安物です。ずっと使い続けている為、最近は刃も痩せて来ていてね……」


 「そうだったんですね。もしや聖魔剣の使い手かと思いまいたよ」


 「俺も、その人物が気になりますね。一体どんな者なのか……」


 「話だけなら、現在医者で治療受けている少年から話は聞けます。ただ……もし聖魔剣の使い手なら、国を救った王女様の生まれ変わりなのでは…と、皆が噂しています」


 その言葉にセフィーはフフ……と軽く笑った。


 「本物の王女様の生まれ変わりは、現在神殿に居ますよ」


 「え、そうなんですか?」


 店員は大声で驚き、周囲の人はそちらに目を向ける。


 「色々と事情があって、現在は光の魔法の鍛錬を受けています。俺が王家の遺跡に向かうのも、それに関連した事なのですよ、多分……ギルドのメンバーを救ったのは複数あると言われる聖魔剣の一つだと俺は考える」


 「なるほど…そうだったのですか……」


 彼が席を立とうとした時だった、彼の側に1人の中年男性が来た。


 「本当に王女様は復活したのですか?」


 「ええ、先日神殿で光の洗礼を受けて、光の文様を授かりました」


 セフィーの言葉に飲み屋に居た男性が「アッ!」と、大声を出す。


 「そう言えば、俺の友人が純白城のある方向を何気なく見たら、夕暮れ時に城の方が輝いたと言っていたよ!」


 「それが、光の洗礼を受けた時の事だ。俺もその場に居たんだ。とてつもない輝きだったよ」


彼の言葉に周囲の人は唖然とした表情で彼を見る。


セフィーは、勘定を払って店を出ようとした、その時、中年男性が更に声を掛けてくる。


 「な……なあ、王女様が復活したなら、王位は彼女の物になるのだろう?」


 その言葉にセフィーは首を横に振った。


 「残念ながら王位継承権の競技は続く。姫様の生まれ変わりで在ろうとも、国や神殿は競技に参加させて、最終競技を勝ち抜いてもらう方向で考えているのだ。更に言えば、そのお姫様の転生した子は、現在その競技に参加出来るのか難しい状況にある。俺が王家の遺跡に向かうのも、彼女が光の魔法を習得した後に、光の聖魔剣を手にする為に、その間……良からぬ者が立ち入らない為の結界を張るためだ」


 「そう言う事なら、我々も喜んで協力するさ、この国の為に身を犠牲にしながらも護った方の王位復活を遮る輩が居るのなら、我々が彼等を許さないさ」


 「そう思って頂くのは光栄だが……その反面、暗躍も蠢いているのも事実。国の何処かで、侵略を練っているのが居るらしい。だから、俺の行動もここだけの話にして欲しい。下手に外部に情報が流れて、彼女を襲う者が現れかね無いからね。現在の王女様の生まれ変わりは、転生した時に持っていた力を失っているから、普通の少女と変わりない状況だ。今もし……仮に襲われたら、多分……エルテンシア国は、正統な王位を永遠に失う事になるだろうな……」


 「そう言う事なら、誓って我々は誰にも言わない。お前達もこの事は誰

にも言うなよ!」


 それを聞いた周囲の人達は皆「オオッ!」と、威勢良く黙って返事をした。


 彼等の勇ましそうな表情を見たセフィーは、軽く微笑んで手を振って店を出て行く。

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