第3章 光花
もう1人の魔剣士①
~エルンシア国、山岳部の密林地帯
魔物狩りをしているギルドの数名のチームが魔獣討伐として、山に入ったのだが…彼等は何かに遭遇したらしく「ウワーッ!」と、大声を叫びながら必死に逃げ出した。
「に……逃げろー!」
チームを牽引していた。グループリーダが怯えながら退散する。しかし…その中で、逃げ遅れた者が、次々と何者かに寄って、体を切り刻まれ、絶命して行く。
数十名を数えるギルドのグループは森を抜け出る頃、数える程までに人数を減らしていた。
付近を偵察していた王国騎士団が、直ぐに事態の変化に気付き救命に駆け付ける。
「如何成された?」
見事森から抜け出した生還者の男性が騎士団に駆け寄る。
「ば……化け物だ!あんな者がいるなんて話、聞いて無かったぞ!皆…ヤツに殺されてしまった!」
「化け物?取り敢えず、貴方は近くの村まで避難して下さい。私が見に行きます」
そう言って、彼は森に向かおうとした時だった。男性は騎士団の腕を掴んだ。
「だ……ダメだ、行くのは危険だ。ヤツと遭遇したら、誰も勝てない……俺は見たんだ。あれは…人間では無い!いや…人間の姿をした魔物だ、あれは……!」
「魔物?」
そう彼等が話していると、ガシャッガシャ……と、甲冑の金属音を響かせ森の奥から赤黒く染まった鎧に身を包んだ者が現れる。その者は背中にマントを垂らしていた。マントには綻びや返り血等が見受けられた。
赤黒い鎧に身を包んだ者は騎士団を見るなり「グゥ~」と、唸り声を響かせる。
「何者だ、名を名乗れ!」
彼は男性に逃げる様に指図する。男性は指示に従い逃げ出した。
「我が名は魔剣士セドラ。貴様はここで俺に殺される。何か言い残す事は無いか?」
「残念ながら、私はそう簡単に倒されたりはしない」
「クハハー。愚か者は本当に何も考えて居なくて愉快だ。忠告して置く、貴様はもう俺からは逃げられない。そして…最後に見た姿が俺の驚異的な力なのだ」
「ならばその力を証明して見せろ。私は王国騎士団に入って、数年未だ戦いの場で不敗を経験した事は無いものだ」
「そう言う輩を、俺は何人も切り刻んで来たのだ。貴様も俺の持つ聖魔剣の餌食となるのだ」
(聖魔剣だと⁈)
彼はエルテンシア国で話題になっている転生した少女の話題を知っていた。最近彼女が持っていた聖魔剣を魔剣士が奪ったと言う話を聞いた。
「まさか……それは、奪った物なのか?」
その言葉に、相手は少し首を傾ける。
「奪っただと?何を言うか……これは元々私の物だ」
彼は腰に携えている棒状の様な物を取り出すと、軽く一振りする。すると棒状の先端に片腕程の長さ位の刃が現れる。
刃は銀色に輝き、鋭い切れ味がありそうだった。
それを見て騎士団は少し安堵した素振りを見せる。
「聖魔剣というから、凄い物かと思ったら、単なる魔法剣の類では無いか」
「愚か者め、コレが聖魔剣と言う術を、貴様に見せてやるわ!」
セドラが軽く剣を振るうと、ピュンッと風切り音が唸り、それと同時に周囲の木々がザザーッと音を立てて崩れる。
魔法剣の驚異的な威力のカマイタチにより、木々が切り刻まれてしまった。
「何と言う威力の風圧なんだ!」
彼は再度、鎧の物に目を向けると「ウッ……」と、声を発してしまった。
鎧の者が手にしていた剣の長さがと形状が変わっていた。相手が一振りした時に、剣の形が変わり…まるで獣の牙の様に、刃先がギザギザに尖っていた。
(一般的な魔法剣は、基本的に形を変えられないのが特徴だ。現在代理王を務めるアスレイウが数種類に形を変えられる魔法剣を所有する程度で、それ以外は刃こぼれや折れたりするのを修復、若しくは所有者の魔法に呼応するのが魔法剣の特徴。この者の様に、瞬時に剣の形が変わるのは、あまり例が無い。やはり……この者の持つ剣は聖魔剣なのか……)
「ククク……どうしたのだ。もう怖気づいたのか?ならば俺が貴様を切り刻むぞ」
「ふざけるな!誰が貴様如きに!」
騎士団は盾を構えて、剣を鞘から抜き出して。相手に向かって走る。
「フン、単純な攻撃だ」
セドラが剣を振った。キンッと金属が裂ける音が響く。
「ナニッ⁈」
セドラは驚いた。自分が切ったのは盾であって、騎士団では無かった。
(ヤツは?)
瞬間ー
ハッとセドラは上空に舞い上がった騎士団に気付き、瞬時に避けた。
ズンッ
騎士団の刃が地面に突き刺さる。
逃げるタイミングが僅かに遅れて居たら、セドラは彼の剣の餌食となっていた。
「フゥ……フゥ……そこそこ出来るようだな」
「お前もな」
彼は立ち上がり、セドラを見た。
(素早いな。長期戦だとこちらが少し不利かも……)
セドラは更に剣を振った。すると次は剣先が赤黒く染まり、刃の中央に空間のある形へと変わる。更に刃には古代文字が刻まれた形状になっていた。
それを見ていた騎士団は相手のカラクリを見抜く。
(なるほど…剣先を振る事で刃が変わる魔法剣か…確か以前、何処か以前会った者で似たような魔法効果のある剣を持っていた者が居たな…)
等と彼が考えている隙にセドラが素早く動き出す。その俊敏さに騎士団は驚いた。
「速い、まるで先程までの疲れが嘘の様だ!」
ドスッ!
「グッ…!」
セドラの強烈な一撃を喰らい、騎士団が蹌踉る。
(おかしい……聖なる加護を受けている甲冑なのに、こんなに激痛が走るとは…それ以上に、何故奴は影響を受けないのだ?)
そう考えている時、自分が騎士団に入った頃に、集会で代表の神官が言っていたのを思い出す。
「貴方達の鎧は、聖なる加護を受けて、護られていますが…それで完全に敵の攻撃を防げる等と過信しないで下さい。世の中には、聖なる加護さえ抑えきれない憎悪や怒りに満ちた者がいます。その様な輩の攻撃での場面は加護の守りなど意味を持たなくなりますので」
成程、それが、今この場面か……等と騎士団は思い返した。
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