失われた力②

 リーミアは意識を失ったままだった。ティオロが彼女を抱き抱え、ロムテスを連れて皆はコテージへと戻った。


 コテージに入る前にロムテスは甲冑を脱ぎ、魔法の袋の中へと入れて、彼等一同の中に同席した。


 寝室に運ばれたリーミアの衣類等をアメリが脱がし、身体を綺麗に拭いて看病した。

コテージの中央の間にロムテスを招き、テーブルを囲んで、男性達が顔を見合わせる様な感じで座る。カルファが剣士に飲み物を差し出した。


 湿地帯の魔物狩りを聞いて剣士は「そうか、なるほど…」と、頷いた。


 「彼女が、最近巷で噂になっていた少女だったとは…」


 「魔法剣を奪われて、転生者の能力も封印された様でもあるし…今後は今まで見たいな戦いは出来ないであろうな」


 「まあ、魔法剣は何とかして我々が奪い返して見せるが…転生者としての能力を封じられると、これからは少し荷が重くなるかもしれない…」


 剣士は眠っているリーミアの部屋を見て言う。


 魔物狩りをして、意気揚々と凱旋する予定だった筈のメンバーは、突然の予想外の敵に襲われて、消沈した状態だった。


 「それ程落ち込む事はない。むしろ魔剣士と遭遇して助かっただけでも喜ぶべきだ。ヤツと遭遇して全滅された連中だっているのだ。しかも…君達は、たった数人であの湿地帯の魔物達や主を倒したんだろう。もっと自信を持つべきだ」


 「湿地帯の魔物はほとんど彼女が倒したんだ、それが今あれじゃあ…」


 ティオロは残念そうに、眠っているリーミアを見ながら言う。


 慰めの言葉が見付からないロムテスは1人席を立つ。


 「どちらへ?」


 フォルサが剣士に向かって声を掛ける。


 「取り敢えず、私は城に戻って、今回の事を国に報告する。魔剣士は我々騎士団が何とかして捕らえる。奪われた聖魔剣を取り返すつもりだが…可能性は低いと思ってくれ」


 そう言って剣士はコテージから出て行く。残った者達は気落ちした様子で広間に座っていた。


 その傍ら、ティオロがコテージを出てロムテスを追い掛けた。


 「聖魔剣は必ず取り戻せますか?」


 「分からない、ただ…ヤツは、何故か強力な武器を欲しがって、地方を歩き周っている。どうやら…裏でヤツを操っている者がいるらしい。君達も気を付けたまえ。今回は運良く助かったが、ヤツは必ずもう一度彼女の目の前に現れる筈だ」


 「それは何故ですか?」


 「特殊な魔法剣は契約した者でしか扱え無い…聖魔剣となれば尚更だ。契約していない者が聖魔剣を鞘から抜け出せないのは君は知っているかね?」


 「ええ…勿論知っています」


 ティオロは、初めてリーミアと出会った時の事を思い出した。彼がリーミアから聖魔剣を奪って、剣から鞘を抜こうとしても、剣は抜け出せなかった。


 「契約解除するには、所有者が聖魔剣を封印するか、若しくは死ぬしかないのだ」


 それを聞いてティオロは背筋がゾクッとした。


 「え…それって、つまり…」


 彼は震える声で言う。


 「ヤツは自分の根城へと戻った筈、そして封印解除が出来ないと判断して、必ず再び彼女の前に現れる。その時ヤツは確実にリーミアちゃんの命を奪いに掛かるだろう。現在の聖魔剣の所有者の命を奪って、自分が新たな聖魔剣の所有者になろうと企む筈だ」


 それを聞いてティオロは震えが止まらなかった。せっかく現世に転生した彼女が王位継承すら出来ずに、魔剣士によって殺されてしまう可能性があるかも知れないと、気付き恐ろしくなった。


 「ギルドに戻ったら、一度彼女を神殿に連れて行くと良い、殺戮者に狙われて居る事を伝えれば、神殿は護衛役を派遣してくれるはずだから」


 そう言うと、彼はピーと口笛を吹く。口笛の音に呼応するかの様に遠くから怪鳥が羽ばたいて来た。彼は怪鳥が低空飛行した瞬間に飛び乗った。


 「またな、気を付けて帰れよ」


 ロムテスはティオロに手を振りながら、怪鳥にと共に飛び去ってしまった。

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