漆黒の魔剣士①

 人の身の丈よりも数倍大きい魔物が彼等を睨みつける。

 魔物は大きな棍棒を手にしていて、それを大きく振り下ろした。


 ズバンッ!


 棍棒は湿地帯の水飛沫を大きく跳ね上げて、周囲に飛び散る。


 一同は、魔物から逃げ始める。


 リーミアは魔物を見て、フォルサ、カルファ、アメリに向かって話す。


 「私がヤツを倒すから協力して!」


 「おいおい、正気か?いくら嬢ちゃんでも、ちょっとそれは…」


 「勝てる秘策があるの、ただ…数体程魔物の生き血を剣に与える必要があるから、少し時間稼ぎが必要なのよ。お願い、やらせて」


 「勝てる自信はあるのか」


 カルファがリーミアに尋ねると、彼女は黙って頷く。


 「全く、こんな化け物を、相手にすることになるとは…」


 「仕方ない、やってみろ!だがな…負けは許されないぞ」


 「分かったわ。ありがとう」


 リーミアはフォルサに礼を言うと、短剣を抜き出して、湿地帯に残っている魔物達を切りに向かう。


 ギャアッ!


 生き残った魔物達はリーミアの攻撃によって一匹ずつ息絶えて行く。


 途中、彼女は魔物が使っていた弓矢を手に入れて、弓矢を担いで魔物を倒す。剣の魔力が増強されるのを感じた彼女は、魔物と同じ高さの木へと登って、魔物に向かって矢を放つ。


 それに気付いた魔物は、リーミアを見付けて突進して来た。


 彼女は短剣を抜き、物腰が長剣の長さになった剣に祈りを込めると、剣は光り出した。


 光輝く剣を振りかざし「ヤアアー!」リーミアは一閃、一撃で巨体な魔物を切り倒した。


 ズウウン…


 巨体な魔物が湿地帯の沼に横たわる。主を倒して、皆がリーミアの処へと向かった。戦勝を祝おうと皆が集まって話している時だった。


 ゾクッとリーミアは、不気味な殺気を感じた。


 「皆、危ない!」


 リーミアが叫んだ瞬間だった。


 ザンッ!


 激しい斬撃と共に、巨体な主の亡骸の胴が真っ二つに切り裂かれる。


 「何だ?」


 フォルサが顔を上げると、裂かれた主の胴体の上には、不気味な漆黒の鎧を身に纏った剣士の姿があった。


 顔を隠し角が生えた仮面からは、シュウ…シュウ…と呼吸の音が聞こえる。彼は、ジッとリーミアを見ていた。


 「まさか、ヤツが現れるなんて…」


 カルファが怯えながら言う。


 「アレは何者なの…?貴方達は知っているの?」


 アメリは突然現れた異様な気配を巻き散らしている者に、恐怖を感じていた。


 「漆黒の魔剣士と異名を持つヤツだ。元々…ギルドのメンバーだったけど、強い敵と戦いたくて、魔法剣を手にしたら、徐々に魔法剣の魔力に心を蝕まれて、何時しか魔法剣を持つ者だけを襲う様になったと言われている、呪われた魔剣士…」


 「そんな…」


 ティオロが震えながら言う。


 そんな周囲の反応を他所に、フォルサが魔剣士の近くまで行く。


 「ルディアンス。こんな場所まで何しに来た、お前は既にギルド集会所から永久追放された筈だ。まだ無益な流血を好み、殺戮を繰り返すなら、王国に申し立てて、貴様を処刑させるように申し立てるぞ!」


 「俺ハ、貴様ト話二来タノデハ無イ、引ッ込ンデロ!」


 魔剣士は、波動でフォルサを弾き飛ばす。


 「グワッ!」


 巨体な筈のフォルサは、まるで赤子の様に仲間達の近くまで飛ばされる。


 「オイ、オ前」


 魔剣士はリーミアを指しながら、しゃがれた声で叫ぶ。


 「何者なの貴方は…私と決闘するつもりなの?」


 「貴様ノ魔法剣ヲ頂クゾ」


 「奪えるものなら奪って見なさい!」


 彼女が右手を短剣の柄を握りしめた。それを見たフォルサが「ダメだ!」と、叫んだ。


 「え…?」


 リーミアがフォルサが居る方へと振り向いた。


 「ギルドのメンバーは、非公式の決闘は御法度だ。如何なる理由で在ろうと、公式以外で決闘した場合、条件次第では王位継承権すら剥奪されてしまう。武器以外で応戦しなきゃダメだ」


 「そ、そんな…」


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