武器屋①
彼の腕を掴みながらリーミアは街を早歩きで行く途中だった…。
「ちょっと、何処まで行くの?」
「武器防具屋よ!」
「それは分かっているけど…」
「何が言いたいのよ?」
立ち止まってリーミアは振り返ってティオロを見る。
「場所は分かっているの?こっち方面には武器防具の店は無いけど…」
「え…でも、確かこっち側だったと思うけど?」
「逆方向だよ」
ティオロは反対方向を指す。
「え…だって、確か…こっちに行けばあるはずなのに…」
リーミアは、羊皮紙の地図を広げて見る。
「ちょっと貸して、ほら…良く見て」
ティオロは地図の向きを変える。
「城が見える方が北だよ、君はギルド集会所から逆方向に進んで来てしまったんだ。このまま進むと、城壁の方に行ってしまうよ」
「えぇ…何で先に言ってくれなかったのよ~」
「無理矢理、君が連れ出したじゃないか」
「ウウゥ~…」
困った表情をしながらリーミアは顔を俯かせる。それを見たティオロが彼女の手を掴みながら声を掛ける。
「この近くだと…武器防具屋の店は噴水通りの場所が1番近いかな…案内するよ」
「分かったわ、お願いね…」
恥ずかしそうに頬を紅く染めてリーミアはティオロの手を握りながら一緒に歩き出す。
〜噴水通り
市場の通り道の中央に位置する華やかな場所…街の中心部には青銅で作られた女神像が瓶を抱えた姿で作られている。その瓶から水が噴水している事から…噴水通りと言われる事となった。マネニーゼ市場では1番人気のある場所でもあった。
その噴水通りの一角に少し寂れた雰囲気を漂わせる小さな武器防具屋が佇んでいた。カルム武器防具屋と呼ばれる小さな店だった。
小さな店とは関係無く、店には毎日多くの人達が出入りしている。
大柄な体格の男性から、白ヒゲをのばした魔法使い、若き女性等…様々な人達が武器防具屋に訪れている。
その日…店に若い男性達が武器を見に店へと来ていた。
「最近はエルテンシア国内の武器って需要がすくないね…」
「全くだ…出て来る本数が少ない上、高価だから困るよ」
「異国の武器は派手な割に、耐久性が低くて直ぐに壊れてしまうんだよね」
「本当…自分は、もうずっと槍ばかり使っているよ」
「その槍は手作りなんだろう?」
「そうそう…」
「俺も手作りの槍で狩りするしか無いのか…」
諦めた様子で男性客達が立ち去って行く。男性客達が居なくなると、店内は静かになった。店の主人であるケトムは店内を軽く掃除し始めた。
50代半ばで顔に濃い黒ヒゲを生やした体格の良い彼は、店内に展示してある装備品を丁寧に磨き始める。
街の外が静かになると、店の中からも噴水の水飛沫の音が聞こえてくる、彼は噴水の水の音に耳を澄ませていた…。
しばらくして女性の甲高い声が響いて来た。
「ちょっと貴方、今…他の女性をジロジロと見ていたでしょう!」
「違うよ、珍しい物を背負って歩いているな…と思って、見てただけだよ」
「何が珍しいのよ?」
「肩にカエルが乗っていたんだ」
「ウソばかり!」
「だいたい何で、他の女性を見ただけで怒るの?」
「貴方は私の護衛だからよ、護衛なら主人に忠実でなければいけないのよ。他の女性に近付くのは許さないわよ!」
「そんな決まり知らないね」
外が賑やかだな…と思ったケトムは、店の窓から顔を覗かせる。
「そこの2人…店の外で痴話喧嘩かい?」
そう言われて手前にいた少女が振り向き様に柔やかな表情しながら挨拶をする。
「あら、どうも今日わぁ…本日はとても良い日和ですねぇ」
「フン…」
後ろにいた少年が呆れた様な表情をすると、少女は軽く彼の腹に肘打ちをする。
ボスッ…
「グエ…」
少年は腹を抱えながら縮こまる。
妙な客が現れたな…と思いながらケトムは2人を見ると彼等のどちらにも見覚えが残っていた。
「おや…君は、確か先日店に来た子じゃないか?」
そう言われて少女は少し前にギルドで出会った仲間達が魔法の杖を購入してくれたのを思い出す。
「あ…先日は、お世話になりました」
少女は一礼を交わす。
「確か…リーミアちゃんだったよね?」
「え…?私、自己紹介しましたか?」
「あの日の夕刻時にユウマ君等が…もう一度店に訪れて、君の武勇伝を語ってくれたんだ。マイリちゃんも新しい魔法の杖を買って行ったよ」
「そうでしたか…」
「で…今日は何の用かな?」
「彼に見合う装備品をお願いします」
リーミアは、後ろにいるティオロをケトムの前に差し出す。
店の玄関前に出て来たケトムがティオロを見るなり「おやぁ…」と、アゴヒゲを撫でる。
「何だ…ティオロ、お前さん彼女の付き添いを始めたのか?」
「ちょっと成り行きで…」
ティオロは愛想笑いしながら答える。
「こちらの方とは知り合いですか?」
リーミアがケトムに向かって尋ねる。
「まあ…なぁに、この辺でコイツの事を知らないヤツは居ないでしょうなぁ…」
ケトムは不信な目付きでニヤけながらティオロを見る。
「ケトムさん…そう言うのは失礼じゃないかなぁ…」
「おや…何か変な言い方したかな?」
素っ気ない口調でケトムは答える。
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