聖魔剣の謎②

  それを聞いたティオロは、自分の手を見つめる。


  「1つ聞きたいのですが…良いですか?」


  「なんだね…?」


 「その…不思議な短剣を持った彼女、あの子は一体何者なのですか?」


  「ふむ…そうだな、まあ…敢えて言うなら、世界を救ったお姫様の生まれ変わり…かもしれないと、だけ言っておこうか…」


  成る程…と、ティオロは頷く。


  「御主はテリオンの剣の事を知っておるか?」


  「100年前国を襲った魔獣の群れを、一瞬にして消し去った剣の事ですか?」


  「それもあるが…その短剣は、それよりも遥か前に存在して居るのだ…短剣と消滅したリムア姫も、古文書を読み解いて…王家の山へと封印された短剣を取りに行ったに過ぎ無い。あの短剣は遥か1000年以上も昔に所有者テリオンが自らの手で作った剣で、あらゆる武器よりも強く、どんな強力な魔術にも耐え得る業を秘めた、史上最強の武器なのだ…それが示されたのが、リムア姫が命を犠牲にした先の100年前の出来事なのだよ…」


  それを聞いてティオロはゴクッと生唾を飲んだ。


  「しかし…その短剣が、世間では…聖なる武器、聖剣と言われない理由があっての…。所有者の命を奪い、その所有者に呪いを掛けてしまうからなのだ…」


 「呪いですか…?」


 「そう…呪いだ、リムア姫が消滅したのも呪いの効果で、彼女は短剣と同化して現世に転生して来たのだよ」


  彼女がリムア姫の生まれ変わりだった…とティオロは確信した。


  「やっぱりリーミアは、王女の産まれ変わりなんですね!」


  ティオロの言葉に老婆はニヤけた表情しながら「さあ…どうだろうねぇ」と、答える。


  「姫本人と思える題材は揃っているじゃないですか、何故世間に知らせないのです?」


  「これまでも姫の生まれ変わりかもしれない…と言う人物は、何人も現れて来たよ。珍しい魔法剣を持ってな…そんな彼等に対して最終的な判断を下すのが大神官アルメトロスの勤めなのだ。どんなに神秘的な魔法剣を手にしていて、祭壇の上で産声を上げようとも。赤子だった頃…池の側で拾われたとしても…大神官が首を縦に振らなければ意味は無い…」


  「そんな…」


  ティオロは少し落胆した表情で老婆を見た。


  「考えてみよ、迷信紛いの理由で王女様かもしれない…なんて言う者が玉座に就かれたとして、それが何処の馬の骨かもしれない者だった場合、何百年も保って築き上げた王位や国家を好き勝手に貪り尽くして王権そのものを奪われてしまうのだぞ。そんな輩に国の財を奪われてしまうのを防ぐ為に現在の王位継承権があるのだ…。継承権を得られる者も…また、神殿側がそれに相応しい人物かを見極めた上で、継承権を与えるのだよ」


  老婆の話を聞いてティオロは複雑な気分になった。


  「ただ…唯一本当に姫の生まれ変わりかどうか…見極める術があるのだよ」


  「それは一体?」


  「リムア姫にしか扱えない魔術が存在するのだ…天変地異と言われる程強力な魔術で、過去の文献でリムア姫が生前に3度だけ使った…と記載されている。かのリムア姫は、清楚美しく大人しい姫では無く、武芸や魔術に特化した女性で、幼くして父王亡き後は国の争いには必ず先陣を切って戦場に赴いた程だよ。そんな彼女が古代の遺跡で石碑に記された文献を読み解き、強力な魔術を手にしたのだ…。後の時代…様々な大魔術師を名乗る輩が、その魔術を手にしようと勤しんでおるが…それを見事解読し自分の者にした者は未だにいない程なのだ…」


  「つまり…リーミアがその魔術を唱える事が出来れば、リムア姫の生まれ変わりだと証明出来るのですね」


  「そうだが…しかし、その魔術は強力過ぎるらしく、その辺で一般的に手に入る魔法の杖では扱えない。姫が自ら研究して開発した魔法の杖で無ければ、その魔術は唱えられないらしい…その魔法の杖も現在城に保管されていて、一般には公開されていないのだ。まあ…ギルドで階級を上げて、城に招待される様になれば、彼女にも自然とその魔法の杖に近付けるだろう…」


  その話を聞いてティオロにはふと…一握りの疑問が脳裏を横切った。


  「なぜ…そんな強力な魔術が使えるのに、魔獣が襲って来た時に、その魔法で魔獣を退治しなかったのですか?」


  「魔獣の数が圧倒的に多かったからだよ。その頃…国に残った騎士団の数も僅か数千人しか残っておらず、数万規模の魔獣に対して彼女が魔術で大半を倒しても、残った兵力では全ての魔獣を倒す事は不可能と考えたのだ。国の存続が危ぶまれていた事もあり…それならば全ての魔獣を追い払う為にリムア姫は聖魔剣を手にした…と、伝えられている」


  生前リムア姫は危険な賭に出た…と、言う事をティオロは知る。複雑な想いが彼の中に駆け巡り、少し顔を俯かせた。


  「御主が先程から呼んでいるリーミアと言う娘だがな…」


  老婆の声にティオロは顔を上げて、老婆を見た。


  「今日、店に来たよ」


  「え…彼女何か話しをしたのですか?」


  「王位継承に付いて聞いて来たのだ。彼女はギルドに参加すると言っていたよ」


  それを聞いてティオロは彼女が本気で王位を奪還しようとしている事に気付く。


 「御主が彼女に協力してくれるのなら、彼女の負担も少し和らぐかもしれないがな…」


  「僕は…彼女の期待に応えられるとは思えないですよ…」


  そう言ってティオロは、湯呑みを口に付ける。


 「まあ…確かに、彼女の短剣を盗む者には負担が大きいかもしれないな」


  それを聞いたティオロは、ゴフッと茶を喉に詰まらせて、ゴホッゴホッとむせる。


  「知っていたのですか?」


  「最初に掌を見た時に分かっていたのだよ」


  ニヤつきながら老婆は言う。


 「さてと…話も済んだし、そろそろお開きにしないかな…?私もちょっと済ませたい用があるので…」


  それを聞いたティオロは席を立つ、その時彼はひと握りの不安を老婆に伝える。


  「貴女の話を聞いて思ったのですが…もし、彼女が王位継承権を得られなかったら…どうなるのですか?」


  「それは…今の私にも解らない事よ、まあ…かつての様に自らの命を引き換えに強力な術を行えば…消滅する事は考えられる。ただ…彼女が生きて居れば…何らかの形で王位継承を得られる事はあるだろう。ただ…あの娘が必要以上に聖魔剣を使わせるのは本人にとって大きな負担へとなるのは確実だと思うがな…」


  それを聞いたティオロは少し身震いを感じた。最強の剣と呼ばれる物は…所有者の生命さえ奪ってしまう恐れがある…と言う事。彼はリーミアが王位に復活する前に消えてしまうかもしれない…と、不安に思った。


  占術師の店を出たティオロは、夕方のそよ風に肌寒さを感じた。

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