聖魔剣の謎①

- 市場 中心街


 マネニーゼ市場の中央道、毎日馬車が車輪の音を立てて石畳の道を往復する通り…。富豪貴族達が住み、街の命綱とも言える場所の片隅…大きな建物の反対側にある裏通りには表の華やかさとは異なる、やや冷え切った様な雰囲気が漂っていた。


 その裏通りに大きなバスケットに布を被せて歩く少年の姿があった。


 彼は裏通りの一角にある小さな扉を開けて、建物の中へと入って行く。建物の中に入ると細い造りで出来た木の階段を上る、小さな個室の様な部屋の前へと行き、部屋のドアを軽くノックする。


 コンコン…と、叩くとドアが開き、中から長い赤毛の少女が顔を覗かせた。彼女は見知った人物が来た…と知るとドアを大きく開く。


 「あら、ティオロ…しばらく振りね」


 「こんにちは、メイミ。今日は…お土産を持って来たんだ」


 ティオロは、自分の後ろに隠していたバスケットをメイミと言う少女に見せる。それを見た少女は驚いた表情で、バスケットを受け取る。


 「わあ…ありがとう。ねえ…みんな、ティオロがお土産を持って来たよー」


 そう言うと、部屋の奥から小さな子供達が一斉に飛び出して来た。


 「わあ、兄ちゃんありがとう!」


 そう言いながら子供達は皆でバスケットを受け取り、被せていた布を取ると美味しそうな果物が山盛りになっている光景に目を光らせる。


 「ちょっと、中に入っても良いかな?」


 「ええ…どうぞ」


 ティオロはメイミと一緒に小さな子供達の側へと行く。



 「ねえ…メイミ、君は確かエルテンシア国の王女様の物語って知ってたよね…?」


 「ええ、我が身を犠牲にして国を救った英雄リムア姫の話よね、私じゃ無くても皆誰もが知ってると思うけど…」


 「その姫様が、もし現在復活してたらどう思うかね?」


 「ん〜…。難しいわね、第一に100年前の姿と現在の姿が一緒なのか疑問だし…そもそもリムア姫が、生まれ変わる前の…前世の記憶が残っているか、気になるところよね」


 「そうか…」


 そう言ってティオロは腕を組み、溜め息を吐く。その姿を見ていたメイミは、少し呆れた表情をしながらティオロに言う。


 「どうしたのよ突然昔話をして来て…らしく無いわよ」


 「ん…ちょっとね、気になる事があって…昨日、不思議な剣を持っていた女の子に出会ったんだ」


 「どんな子なの?」


 「短剣を鞘から抜くと、長剣に変わったんだよね…」


 それを聞いたメイミは、唖然とした表情をしてティオロを見る。


 「それ…本当なの?」


 「そうだけど…、どうしたの?」


 「もし…本当なら、それは神秘の聖魔剣…テリオンの剣よ、きっと…」


 「凄いの…それ?」


 「選ばれた人にしか使えない聖剣だけど…その威力は凄まじく、かつてエルテンシア国を襲った魔獣の群れを一瞬にして消し去った伝説が残っているわ…。リムア姫は、その聖剣の威力によって消滅してしまったのだけど…100年の月日が経過して居れば復活して居ても不思議は無いわね…」


 その時、ふと…ティオロはリーミアが、昨夜話をしていたのを思い出す。


 「そう言えば…あの少女、不思議な事を言ってたな…」


 「どんな事?」


 「自分は、修道院の祭壇の上に現れた…とか、言ってたっけ」


 それを聞いたメイミは、驚いた表情でティオロを見ていた。


 「あ…貴方、それ…きっと間違い無くリムア姫の生まれ変わりよ、絶対に!」


 「そうなの?」


 メイミは少し考え込んだ表情をする。


 「聞いた話だけど…市場にレンティ占星術と言う風変わりな場所があるのだけど…そこの老婆に会って、詳しく話を聞いて見ると良いわ。多分…何か知ってると思うから…」


 「なるほどね…」


 そう頷くきティオロは、メイミ達が居る部屋から出て行く。


 市場の街並みに出たティオロは真っ直ぐにレンティ占術師の店がある場所を目指す。長年市場の街で生活してるお陰で小さな店の場所も詳しく分かっていた。狭い裏通りを抜けて、目的地へと近道で着いたティオロは占術師の店に着くと、少し足を緩める。


 過去…この店の前に来た時、お化け屋敷と言った記憶が残っていた。その時…店の主人を怒らせてしまった記憶があった。


 入ろうか…どうしようか…迷っていると、店の中から老婆が現れて、ティオロの顔を見て「フン…」と、溜息を吐く。


 「そこの人、ウチに何か用かね…用が無いなら店を閉めるけど…」


 「あ…ちょっと、聞きたい事があります」


 「じゃあ、入りな…」


 そう言われてティオロは、店の中へと入る。


 「で…何の用かね?」


 「ちょっと、聞きたい事があって…」


 「ふ…ん、まあ座りな」


 老婆に言われてティオロは席に着く。


 向かい合わせに老婆が席に着き、茶を淹れてティオロに差し出す。その時…ティオロが湯呑みを取ろうと手を出した時だった。彼の手を見た老婆が「ムム…!」と、何かに気付いた様子で険しい表情をする。


 「ちょっと、御主の手を良く見せてくれ!」


 「え…はい…?」


 ティオロは言われるまま、掌を老婆の方へと伸ばす。


 「フムフム…成る程…」と、老婆が頷く。


 「何か分かったのですか?」


 「御主…不思議な短剣を持つ少女と出会ったであろう…」


 老婆がニヤリと笑みを浮かべながら言うと、ティオロは驚きを隠せなかった。


 「分かるのですか?」


 「ああ…彼女の側に居れば、御主は今以上の地位と富を手に出来るであろう。しかし…今の生活で満足しているのであれば…それはそれで良いかもしれない…自身の運命だ…無理に焦る事も無いと思うが…」

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