プレゼント ~アナザーストーリー~
武城 統悟
1
親の自分が言うのもなんだが、
よその娘は年頃になると、父親から離れていくと聞く。ひどいところじゃ無視されるといったこともあるらしい。
由香はそんなことはない。話だって普通にするし、一緒に出かけるときだってある。
いや、娘の場合、父親にというよりは、誰に対しても分け隔てなく接しているというべきなのかもしれない。学校ではよく学級委員に選ばれていた。そんな面倒くさそうなことをよく引き受けるもんだと思うのだが、本人はまったく苦にしていないようだった。
世話好きなところは女房に似たのだろう。
世話を焼くのは人間にだけじゃない。
中学にあがったばかりの頃、子猫を拾ってきたことがある。うちでは動物を飼うことはできないぞと言ったのに、娘は頑として聞き入れず、面倒は自分がみるからと言って子猫の世話をはじめた。
頑固なところは俺に似たのかもしれない。
ナナと名付けられた子猫は今ではすっかり家族の一員だ。
女房から娘に彼氏ができたと聞いたのは高校に入ってからだった。
ショックだった。が、仕方がない。
俺は瓦職人だが、娘の交際を禁ずるほど古臭い考え方じゃあない。相手のことは気になった。ただ、根ほり葉ほり聞くのも性に合わないから、ふざけた奴なら付き合うなとだけ言っておいた。
ユウジくんという娘の彼氏の家に不幸があったのは、娘が大学に入った年だから、五年ほど前になる。親御さんが交通事故で亡くなられたのだそうだ。
ユウジくんは大学を辞め、知り合いの飲食店で働き始めた。
あとから娘に聞いた話だが、当時彼から、親もいなくなってしまったし、このまま一緒にいても楽しい思いをさせてあげられそうにないと別れ話を切り出されたことがあるらしい。
しかし娘は、こんな時だから一緒にいるんでしょと彼を一喝したのだそうだ。
娘の大学卒業を待って二人は結婚した。
ユウジくんはたしかにいい青年だった。いまどきの子にしては真面目で、娘を大事にしてくれている。
ただ、話をしたことは数えるほどしかない。
彼はタバコを吸わないし、酒もほとんど飲まない。話すきっかけが少ないのだ。俺もあれこれ話すほうじゃないし、話したところでたいした話題もないからすぐに途切れてしまう。
そんなわけで話はもっぱら女房に任せていた。
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