第4話 彼女を寝取られ、チームを追放されたのは自分のせい
俺がこのゲームを始めるきっかけになったのは、クラスメイトからの勧誘だった。
【よし、これでメンバー四人揃った事だし、早速本格的に練習するか】
俺を含めた男三人、女一人。
計四人組のチームである。
チームの成り立ちは、当時中学一年生だった男二人の会話らしい。
ザ・王道イケメン系の男A。
そして目付きが悪く多少ヤンチャな男B
部活動体験期間の最中、彼らはなかなかどの部に入部するかを決められずにいた。
どれも微妙。
心の底から入部したいと思える部活が見渡らなかった。校則で必ず部に所属するルールはないが、中学生になったからには何かを熱中したいという想いだけはあったため、この先どうしたものかと真剣に悩んでいたのだ。
そしてそんな時、
リコシェ・フォースがリリースした。
偶然ゲームの情報を確認した男Aが「大会に出場してみないか」と提案すると、元々二人はゲーム好きの共通点で意気投合した仲だったため、男Bは流れるように承諾した。
しかしチーム戦は基本的に四人制。
そこで勧誘されたメンバーがクラスメイトの少女と、彼らと同じくどこの部にも所属していない俺の二名だった。
【もっとこうした方が上手く撃てるぞ】
結成当時の実力は成立メンバーである男二人が圧倒的に強かった。
俺と少女は彼らほど様々なゲームをしてきたわけじゃない。
当然、その分経験値の差があり、俺と少女は彼らに技術を教えてもらいながらプレイしていた。
こうして迎えた中学初の冬休み。第一回RFチーム戦の大会が開催された。
結果は見事予選落ち。現実は甘くないと押し付けられた。
【クソ! あと少しだったのに!】
大会が終わった帰り道、男Bが怒りの感情を込み上げながら自動販売機を蹴り付けた。
【そうだね。確かに悔しいな】
【ごめんなさい。私がもう少し頑張っていれば……】
三人と同様に、俺も相当悔しかった。
この日のためにそれなりの努力はしてきた。
ゲームを毎日欠かさずプレイし、運動不足だった自分を追い込むために筋トレだって始めた。
何より今まで何にも夢中になれず、平凡な暮らしを送ってきた俺にとって、初めて熱中出来る物事を発見させてくれたチームメイトのこんな姿を目の当たりにした途端、胸の奥が締め付けられたのだ。
(もっと強くならないと)
次の日以降、俺は以前よりもさらに努力を重ねた。
走り込みや筋トレの量を倍に増やし、時間が許す限り積極的に個人戦へ参加した。
頭の中は常にゲームのことばかりだった。
もちろん自分のためもある。
だけどそれ以上にもう揃って辛い想いをしたくない。自分の力でみんなを守れるくらい〝最強〟になってみせようと一つの目標に向かってとにかく頑張った。
そうして月日が流れ、俺たちは中学二年生になった。
久しぶりに四人で集まった。
【今年また大会がある。もう一度出場してみないか?】
敗北した日を境にチームのモチベーションが低下し、集合する機会が少なくなったけれど、リーダーの男Aが提示した新たな目標でチームの活動が再開された。
だが、今にして思えば、おそらくその初日からすでに団結していた絆に亀裂が走ったと考えるのが妥当かもしれない。
手始めに総当たり戦をする流れになった。
協力して参加することがあっても、真剣勝負の一対一は半年ぶり。お互いの実力を再認識する良い機会だろうと、男Bの提案で始まった。
結果は俺の全勝。今まで彼らに手も足も出なかったにも関わらず、俺の圧勝だったのだ。
【お前いつの間にそんな強くなったんだ?】
【やっぱり僕が見込んでた通り、俺には才能があったんだね】
【私だけ置いてきぼりにされた気分で少しだけ悔しいわ】
と、賞賛の嵐が巻き起こる。
素直に嬉しかった。
努力してきた成果がこうして形になり、大切な仲間から信頼と尊敬を受け取っているような感覚で、ようやくこれでスタートラインに立った気がしていた。
ついにはOceanというプレイヤーネームで、チーム戦より大分前に行われる個人戦で優勝まで成し遂げた。
仲間からだけでなく、全プレイヤーから実力を認められ、〝蒼い迅雷〟という二つ名まで得た。
(やっと俺が誰よりも強い事を証明できた。これならチーム戦も俺が頑張れば優勝だって夢じゃないぞ)
何より──。
俺には中学一年の頃から付き合っていた彼女がいた。
【やれば出来るじゃん! 流石私の彼氏!】
好きな人に認められる。
それが一番嬉しかった。
気分は上昇。
あの頃の俺は間違いなく調子に乗っていた。
そしてそこからチーム戦の大会に望んでいく──と思いきや、
半月後、俺はチームを脱退した。
きっかけはほんの些細な出来事だった。
俺が個人戦で優勝した日以降、突然男BがあまりRFをプレイしなくなった。
誘ったとしても何かと言い訳をして顔を出さない。まるで俺を避けるかのように会話が減っていった。
「あいつのまた来ないのか?」
「ほんとどうしようもないわね。無理矢理連れてこようかしら」
正門前で待ち合わせをしていた男A、少女と合流する。そろそろ大会だというのに全く顔を出さない男Bを気にしている二人は、彼を待ち受けるかのように校舎へ視線を向けた。
しかし俺は止まらず、そのまま突き進んだ。
「やる気がないならほっといた方がいい。今年こそ優勝するんだろ?」
揺るぎない熱量の影響か、勝利にしか意識が向かっていなかった。
「それに今の俺なら、あいつの分まで戦える」
個人戦で優勝している実力者の自覚が一層そんな自己肯定感を増幅させる。
彼がいなくたって、その分自分が頑張れば良い。本気でそう考えていたのだ。
また、チーム内で変化したのはそれだけではない。
今まで設立メンバー二人を起点にして作戦を練っていたものの、現在は俺を中心に全てが回っていた。
強い人間が撃破を狙う。
個人戦最強の俺だからこそ可能な、至ってシンプルな作戦が効率良く勝利出来る事実を結果が証明した。
ところが数日後、少女が強引に男Bを連れ出し、四人でゲームを参加した日に問題が起きた。
「さっきのプレイ、どういうつもりだよ」
試合が終了すると、俺はベンチに腰掛けた男Bにはっきりとそう告げる。
「は? 何が?」
「お前が陣形を崩したせいで負けたんだぞ」
内容は散々だった。
七組の中で真っ先に全滅した最下位チーム。
男Bがいない間、前衛は俺と男Aが務めていた。しかし今回の試合、男Bが連携を崩し、その隙を狙われて敗北したのだ。
男Bは元々一人で突っ張りやすい体質だが、今回は見逃していいレベルを超えていた。俺の指示どころか、最も仲の良い男Aの指示も無視する始末だった。
「うるせぇーな。悪いって謝ったろ」
「謝ればいい話じゃない。ほんとに大会で勝つ気あるのか?」
男Bが不敵な笑みで俺を見た。
「お前変わったな」
「変わった?」
「あぁ、最初の頃は後ろを追いかけていたくせに、いつからか偉そうにこのチームを指揮し始めて、挙げ句の果てに暴言を吐く。……本当に変わったぜ」
「いや、全然そんなこと……」
反発しようとした瞬間、男Bが残り二人に問うた言葉で防がれる。
「お前らもそう感じてるんだろ? 自分の事しか考えてない。自分が勝つ事しか考えてない。仲間を頼る行為を放棄して、このチームを自分の物だと思っている。なぁ、違うか?」
「そ、それは……」
二人とも否定しなかった。俺と目線が合うと、気まずそうにそっぽ向く。
「確かにお前はここにいる誰よりも強い。それは認めてやる。けど、個人戦で優勝したからって良い気になり過ぎなんだよ。俺たちはお前の私物じゃない」
「違う。俺が努力して強くなったのは、自分が頑張ればチームが勝てると思い続けて……」
「そういう考えが迷惑っつーか、それってチームである必要ねぇーだろ。……そういうのをなんていうか知ってるか? 自己中って言うんだよ」
絶句以外の何物でもない。
今にも腰が抜けそうなほど身体全身の操作が効かず、何も言い返せなかった。
【やっと俺が誰よりも強い事を証明できた。これならチーム戦も俺が頑張れば優勝だって夢じゃないぞ】
個人戦で優勝した時に思ってしまったこの思考。まさに男Bが言っていた自己中心的な考え方が明らかに露呈していた。
いつからなのだろうか。あの瞬間、いいや、もしかしたらそれ以前からそんな独り善がりな感情を抱いていたのかもしれない。
仲間のためと思って行ってきた言動と、他人から受け取られる印象。
この時初めて、俺は二つの相違、そして無意識に自分がエゴイストに成り果てていた事実に気が付いた。
しかし冷静になる猶予を与えてくれない。
男Bが続けて追従してきた。
「そんなんだから彼女に見捨てられるんだ」
「見捨てられる?」
「あれ? お前ら別れたんじゃねぇーの?」
俺が不思議そうに見つめていると、男Bはケラケラバカにするように笑い始める。
「なんで笑う」
「いや、そうか。そういうことか。……お前、彼女に浮気されてるぞ」
「浮気? なんの話だ?」
「高校生とこの前歩いてるの見掛けたぜ。疑ってるなら本人に聞いてみたらどうだ?」
俺は素直に受け止められなかった。
確認するべく、即座にリアコードで彼女へ電話を掛ける。
『なに〜? 蒼葉から電話なんて珍しいじゃん〜』
『誰と電話してんだよ。いいから早く続きしようぜ』
見知らぬ男の声音が耳に入った。
俺の心臓が途端に激しく動く。頭痛とめまいが襲い掛かり、心なしか、身体が震えていた。
「い、今誰といるんだ?」
『もしかして聞こえちゃった? あんねー、私今新しい彼氏と一緒にいるんだ〜。だから今更だけど、私たちいい加減別れよ〜』
「……ど、どうして?」
『私だって最初は本気で好きだったんだよ? カッコいいし、優しいし、私から告ったの覚えてるでしょ? ──けど、蒼葉って付き合い悪いじゃん。いつもゲームのことばっか。デートにも行かないし、キスすらも求めてこない。なんかつまんなくて愛想尽きちゃったんだよね』
まるで心を銃に撃たれ続けるかのようにボロボロにされていく。
『ってことだから、じゃあねぇ〜』
彼女との電話はそこで途絶えた。
全身の力が抜け、思わず俺は地面に崩れ落ちてしまう。
あぁ、俺は今まで何をやってたんだ。
自分が強くなればそれでいい。何もかも手にして、全て上手く行くと思ってた。
でも実際は何もかも失って、残ったのは最強という称号だけ。
俺はただ、誰かの大切な人になりたかっただけなのに……。
こうして、
俺はチームから脱退し、最強まで昇り詰めたリコシェ・フォースを引退したのだ。
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