第2話 リアコードで見える世界
放課後。
俺は
辿り着いた先は、霞ヶ丘陸上競技場。
いつもなら周辺に人影は少ないけれど、この日は一際目立つ集団が目に入った。性別は男性が多め。年齢はバラバラ。社会人も入れば、学生もいる。
「じゃあ早速リアコード付けて、準備しちゃおっか」
「そうだな」
互いにポケットに入っている折り畳み式機械を手に取った。
俺は蒼色で、橙乃は橙色。
広げて左耳に装着する。形状はイヤホンというよりかはインカムに似ている。耳に嵌めた時の感覚は一体化しているような気分である
すると俺の視界に突如、様々なアイコン──アプリや時計など、まるで空中に一世代前に流通したスマホのホーム画面のような映像が映し出された。
リアコード。
それは、ARマシン。
拡張現実。
現実に近未来的な映像を投影させることが出来る機械。
左耳にはめるだけの装着型。
しかもその性能は前世紀のARマシンにはなかった日常生活関連の性能やゲームアプリ、さらにはまるで自分の体でゲームの中に入ったような感覚が味わえるARゲームまでもが搭載されている代物である。
そして周囲を見渡すと、先程まで視界に入っていた人々の服装がいつの間にか変化していた。
個々に色彩が微妙に異なるものの、一つだけ共通しているポイントがある。
それはサバイバルゲームでよく使用される迷彩服だった。
ただし本物の迷彩服のように背景を溶け込めるような地味な緑の衣装と比較すると、明らかに目立つ。完全にオシャレに特化したコスチュームである。
やっぱり、RFって人気なんだな。
通称──リコシェ・フォース。
AR機能とサバイバルゲームを組み合わせたリアコードのアプリゲーム。武器は基本的に銃のみ。手榴弾などのサブアイテムを多量に実装されており、そのカスタム制の数は五百通り以上を超えるらしい。
ゲームシステムは、バトルロワイヤル形式の個人戦や最大四対四のチーム戦。それからポイント形式。
ちなみに今日はポイント形式のチーム戦だ。
鞄の中から、黒い銃型の物体を取り出した。
拳銃を模した形状。
電源を付けると、ブルーライトの線が二本浮かび上がる。
gam modeling。
運営やゲームプレイヤーからは略称として頭文字を取ったGMと呼ばれている。
GMはRFを行う際に欠かせないウエポンマシンである。
ゲームに参加し、プレイヤーが武器として使用するのがこの機械。
リアコードを装着していない状況であれば、ただの黒い物体にしか捉えられない。
しかしAR化し、RFで武器の設定をすることによってGMはまさに本物の銃と化す。
最後に俺はRFのアプリをタップする。
すると──。
『ブート──リコシェ・フォース。トリガーコンバージョン』
という女性AIのアナウンスが流れた。
その途端、足元から徐々に俺の外見が変わっていく。上昇する水面かのように揺れる青い線が境界だった。パソコンでいうローディングをしている最中なのだろう。
初期に必ず一つ貰える装備。
茶色のザ・迷彩服といったコスチューム。
これがリコシェ・フォースをプレイする時に俺が現在使用している装備であった。
「
橙乃も俺と同じ手順を踏んで、ゲームにログインしていた。
彼女のコスチュームはオレンジ色を基調にした戦闘服。白く細い足が露出する短パン。明るい人柄を持つ橙乃に似合った色合いをしている。
「今日も一位目指して頑張るわよ」
「俺は遠くで見守ってるよ。足引っ張るだけだし……」
「ダーメ。そう言って、ただサボりたいだけなんでしょ? あんたのことは分かってるんだからね?」
むくっと頬を愛らしい膨らます橙乃。
そうしてしばらく経つと、試合開始時刻になり──RF・ポイント制・チーム戦が開幕した。
・相澤蒼葉
①プレイヤーネーム aoba
②コスチューム ブラウン:001
③ウエポン HK417アーリーバリアント
※アサルトライフル
④ サブウエポン P226
※片手銃
⑤?????
・橙乃美咲
①プレイヤーネーム misaki
②コスチューム オレンジ:354
③ウエポン ACR
※アサルトライフル
④サブウエポン 手榴弾
※周囲を巻き込んで爆発させる
⑤?????
***
『これよりRF・チームポイントマッチを開始致します。ステージ設定──砂漠A・真昼』
AR化によって、世界が変わる。
ここはまるで錆びた街中。付近で瞳に映っていた競技場がいつの間にか、ボロボロになったコロッセオと化した。
立派に生えている木々も枯れ木になれ果て、足元にあったコンクリートの地面もサラサラの砂になっている。
挙句の果てには、空模様も変わっていた。そろそろ街頭の光が目立ち始める時間帯にも関わらず、空を見上げると水色のキャンパスに白色の雲が混じっていた。
いわゆる日中の時間帯の明るさだったのだ。
「そっちに一人行ったぞ!」
各地で銃声が鳴り響く中、俺はとあるチームに追われていた。
エリア内に解き放たれた総勢二十人、刻んで七チーム。
相手にしている敵は男三人組のチーム。
俺は彼らに何発か反撃すると、銃と化したGMを抱えて逃亡していく。
クソッ、一人で四人を相手にすんのは無謀にも程があんだろ……。
後方からバンバン射撃され、狙われる。
徐々に目的地として定めていたコロッセオ、現実でいう競技場に値する建物が見えてきた。
俺は敵を確認しながらも建物の中に入ろうとするが──。
突如、俺の右肩に青色のボールのようなマークが出現した。
バレットホール。
プレイヤーから標準を合わされている事を示し、弾が発射されると消える補助機能。
基本的にそのマーク範囲内のどこかへ発砲されるため、入らなければ命中されない。
つまり避ける事も可能。
ただし上手いプレイヤーほど、それは困難を極める。機能上、バレットホールが出現される時間はスコープを合わせてから発砲するまで間のみ。
そしてバレットホールが消失した。
つまり狙っていたプレイヤーは引き金を引いたということ。
しかし俺のHPは減らない。
弾丸が襲ってこなかったのだ。
その代わり後ろを振り返ると、俺を追っていたプレイヤーのうち一人がダウンを取られていた。
ババババババッ!
コロッセオの上から銃声が耳に入る。
上空を見上げた先には、チームメイトであるミサキがプレイヤーを発砲している。
そう、俺は囮として意図的にこのコロッセオに逃げ込んだのだ。
流石ゲーマーだけあるな。
「ハッハッハッハッ! ノコノコやって来て良い気味ね! アオバ! 良い囮よ! 褒めて遣わす!」
そりゃあ光栄だ。
危機を感じ取ったのか、相手プレイヤーの一人が煙幕を発生させる。
深追いはしない。
ミサキと合流するため、俺は建物の中に逃げ込んだ。
***
俺とミサキはコロッセオの内部にあるスペースで、先程対面した三人組チームと銃撃戦を交えていた。
俺たちは二人で、相手は四人か。やっぱり大分人数的に不利だな。
俺は客席の下側。
そしてミサキは上側を担当しているのだが、その直線上に敵がいた。出入り口の窪みと柱の裏側。二手に分かれている。
俺は塀に隠れつつ、アサルトライフルの引き金を引いた。
出入り口に潜むプレイヤーのゲージを僅かに減らす。
しかしその瞬間、柱側のプレイヤーに狙われ、俺の身体に青点のエフェクトが映し出された。ダメージを受けたという合図。残りHPは約半分といったところだろうか。
俺は即座に射線から外れた。
あっぶね。この人たちめちゃくちゃ良い連携を取ってくるな。どちらかを狙えば、違う方が攻撃してくる。これじゃあ身動き取れねぇぞ。
「あ"ぁぁ! 全然攻めてこないくせに隙があれば打ってくるとか卑怯なんですけど! アオバ、ここは一旦引くわよ!」
「りょーかい、後ろの出入り口から先に逃げてていいぞ。俺も追うから」
「分かった! 無茶だけはしないで!」
俺が頷き返すと、発言通り、ミサキは後方にある通路に向かって走り出す。
ミサキが体制を整えられるように俺は四人のヘイトを集めるため、その場を大胆に駆け出した。
案の定、四人から弾丸の嵐を浴びる。そのおかげでミサキが無事に逃亡を完了した。
俺は一先ず柱に隠れて何とかやり過ごす。
どうする。さっきは結構距離があったから何とか出来てたけど、こんだけ囲まれてたら逃げようにも逃げられない。
チラッと左上にあるマップを見た。
そこにはチームメイトの位置情報が載っている。ミサキはコロッセオの外、内部を視認出来る小さな高台の上にいた。
しかもミサキのマークが黄色に光っている。
俺はとある作戦を閃いた。
こうなったらやるしかねぇな。
考えた末、強攻策を選択する。
相手の位置は下に二人、右に一人。
その情報を再認識すると同時に、俺は勢いよく右方向へ飛び出す。
正面には一人のプレイヤー。
彼にダメージを与えられながらも強引に突破し、撃破していく。その流れのまま近くの出入り口へ向かい、左へ曲がった。
だが、そこは行き止まりだった。
残りの二人に追い付かれ、俺は背中から無数の弾丸を食らってしまった。
ダウンしてしまう。
よし、今だ。
──その時だった。
『ユニークアグレッション
──バレットオブサーカス』
そんなボイスとともに、俺を討ち取った二人のプレイヤーの上空に光源が現れる。そして無数の槍が降り注ぐかのように凄まじい攻撃が二人を襲った。
八割残ってたHPバーがみるみる減少していき、最終的には撃破されてしまった。
「これが私の必殺技! バレットオブサーカス! アオバ見たわよね⁉︎ やってやったわ!」
ガハハハハハッっと高台で高笑いしている橙乃が見えた。
言っとくが、俺の犠牲あっての成果だからな?
試合中に一度だけ使用出来るスキル。
ユニークアグレッション。
マップに表示されていた黄色のマークは、スキルを発動する準備を整えたという意味。
そのスキルを発動したのは、高台からここを狙っていたミサキだった。
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