彼女を寝取られ、チームを追放されてから三年後、俺は残念系少女のために最強へ復帰する

くるみ

第一章 蒼い迅雷の復活

第1話 バレットウィッチは厨二病

※1話から3話で一区切りです。



 梅雨前の六月上旬。

 俺──相澤あいざわ蒼葉あおばは霞ヶ丘高校に向けて自宅を出発した。寝起きの日差しは目に悪い。パッとしない目元を擦ると、ママチャリに身体を委ね、のんびりとペダルを漕ぎ始めていく。

 そして気付けば正門を抜け、学校に到着していた。

 徒歩で通学する生徒たちがいる中、校内の端に位置する駐輪場に自転車を止める。

 鞄を肩にかけ、下駄箱へと向かった。


相澤あいざわ! やっと来たわね!」


 脱いだローファーを上履きと入れ替えようとしていると、一人の少女に声を掛けられる。


橙乃とうの、朝っぱらから何の用だ?」


 少女の名は、橙乃とうの美咲みさき

 薄緑色のボブヘアー。その容姿は地味ながらも整っている。細身の身体に、可愛げのあるクリっと目元。うちの学校の指定服──青と白がベースのセーラー服が一層愛でてやりたい高揚感が際立っている印象である。

 しかしあくまでそれは印象で──。


「今日の放課後、我──偉大なるバレットウィッチとまた一緒に付いて来てもらうわよ!」


 堂々たる仁王立ち。堂々たる痛い発言。

 自己愛に満ちた空想や嗜好を極めた存在。

 いわゆる彼女は、

     厨二病という残念系女子だった。


「前々から思ってたんだけど、そのバレットウィッチってなに?」


「バレットウィッチ。人々は私をそう呼ぶの。銃を多彩に扱う魔女ってね」


 なんだそれ……。地味にカッコいいのがなんか腹が立つな。まぁ、嘘ってことは分かってるんだけど……。

 

「とにかく昨日FPSの調子が良かったの! だからこの感覚を忘れないためにも参加したいのよ!」


「一人で参加すれば良いだろ」

 

「残念ながら、今日はチーム戦。だからあなたの力が必要ってわけ。助手、理解した?」


 適当に投げ返した俺の返事に、橙乃は何故か自慢気に語り出した。


「誰が助手だよ。俺はな、お前みたいにゲームが好きじゃないんだ。そんなのに付き合ってられるか」


 棘の刺さる言い方をしながら教室に足を運び始めると、橙乃はいきなり俺の制服を引っ張って来た。


「お願いお願いお願い! あんたしか頼れる人いないの! 分かってるでしょ⁉︎ 私は万年ぼっち! 友達がいないの!」


「自分で言ってて恥ずかしくないの⁉︎」


「孤独の極め者は賢者になれる。だから私は友達を作らないだけ。要するに作ろうと思えばいつでも作れるから!」


「だったらさっさと作ってそいつと行けば良いだろ! 言ったからな⁉︎ 自分で友達作れるって言ったからな⁉︎」


 橙乃が引き留める力を押し退けてでも俺は強引に前に突き進む。相手は女の子。軽い身体を簡単に動かせた。


「あ、嘘です嘘です! でしゃばってすいませんでした! 友達が作れないからあなたに頼んでます! この通りですからお願いします!」


 橙乃の頑固な性格は俺の苛立ちを増幅させる効果があるようだ。

 しかし同時に往生際が悪い彼女を見ていると、一周回って呆れてしまう。引く気が毛頭ない哀れな態度が、橙乃らしいと思ってしまったのだ。


「はぁ、仕方ねぇーな。分かったよ」


 結局受け入れる。

 毎回同じような繰り返しだった。


「え、いいの⁉︎ やったー! 流石我が助手! 頼り甲斐がある!」


 一喜一憂。

 橙乃は俺の制服を離し、満面な笑みで手を挙げる。見た目は愛らしいのに、やっぱり中身は残念系が惜しいところだ。

 すると橙乃は少し前屈みになり、俺の顔を見ながらはにかむように微笑んだ。


「やっぱり相澤は優しい男だね!」


 率直な感謝の言葉と可愛い仕草を得て、俺は思わずドキッとしてしまった。

 彼女は見ての通り、外見こそ美少女だが、性格はとにかく腐った厨二病で自我強い女の子。

 しかし無自覚なのか、それとも意識的にしているのかは分からない。

 たまにこのようなキュンとしてしまうような言動をすることがあり、俺が橙乃を完璧に拒絶し切れない理由はそこにあるのかもしれない。


 そして橙乃のゲーム好きは今に始まったことじゃない。

 裁縫が好きと言いそうなほんわかした外見だが、高校一年生の時に初めて出会った頃から橙乃の趣味はゲームである。

 しかも暇な間に軽くプレイするにわか趣味ではなく、かなりゴリゴリにやり込むほどの熱中具合だ。

 ゲームといえば男子がするというイメージがあるかもしれないが、俺は橙乃以上にのめり込んでいる人間を他に知らない。

 それくらい橙乃は相当なゲーマーなのだ。


 そんな人柄と外見、それからゲームに対する姿勢が相まって──。 


 やはり彼女には敵わない。


 そう日々の確信を胸に秘め、俺は教室へ向かい始めた。

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