幼馴染と愛し合っているから婚約破棄ですか。彼女は遺産目当てみたいですが、本当にそこに愛はあるのですか?
下柳
第1話
「私は幼馴染と愛し合っているんだ。だから君との婚約は、破棄する! 財産目当ての君とは、これ以上一緒にいるつもりはない。今すぐこの屋敷から出ていけ!」
伯爵令嬢である私、スージー・オルバースは、婚約者である伯爵令息のダリル・ラフレームから婚約破棄を言い渡された。
彼の幼馴染というのは、アネット・ハートルのことである。
えっと……、つまり、浮気していたということですか……、最低ですね。
私は婚約した時から、ダリルの、というかラフレーム家の屋敷に住み始めた。
しかし、今思えば、この家には、まともな人物が一人もいなかった。
ダリルは幼馴染と浮気するし、彼の弟であるグリフ・ラフレームは、私とすれ違えば、憎まれ口を叩いてきた。
たとえば、こんなことがあった。
「おはようございます」
廊下ですれ違ったグリフに私が挨拶すると……。
「僕に気安く話しかけるな! 遺産目当ての性悪女!」
という元気のいい挨拶を返してきて、すれ違いざまに私の肩にぶつかってきたなんてことも、数えきれないほどあった。
そしてお義父様はというと……。
「べつに息子と婚約するのは構わんが、私の代では、貴様には一銭も相続させるつもりはないから、遺産目当てならさっさと婚約を破棄してこの屋敷から出ていけ」
なんて言われた。
廊下ですれ違った時に、私が挨拶しても無視して、肩にぶつかってくるという独特の返事をするだけだった。
この屋敷では、肩にぶつかるのが流行っているの?
そして、お義母様はというと……。
「私の息子にうまくとりいって、婚約したようだけど、どうせあなたは遺産を相続なんてできないわよ」
と厳しく非難してきた。
そして、廊下ですれ違った際に私が挨拶しても無視して、すれ違いざまに肩をぶつけてくるのだった。
えっと……、この家には、肩をぶつける風習でもあるの?
そして、どうして私が財産目当てだと思われているのかといえば、それは、ダリルの幼馴染であるアネットのせいだ。
ダリルと仲の良い彼女は、よくこの屋敷に出入りしている。
そして、私が財産目当てだという嘘の噂を、彼女がこの屋敷の人たちに流したせいで、私は毎日ひどい目に遭っている。
そんな彼女と廊下ですれ違った時に挨拶しても、無視されるだけだった。
肩にぶつかってくるだろうと思って、力を入れていたら、彼女はすれ違いざまに、足をかけてきた。
不意打ちを食らった私は、すってんころりん。
勢いよく顔を床に打ち付けるなんてこともあった。
長々と語ったけれど、何が言いたかったかというと、この家の人は全員、お世辞にも人がいいとは言えないということだ。
しかし、例外として一人だけ、私のことを気にかけてくれる人物がいた。
それは、ダリルの祖父である。
彼は、私のことを本当の孫のように扱ってくれた。
嫌がらせをされても、彼のおかげで、私はこの屋敷で楽しく過ごすことができた。
段々と親しくなって、私は彼のことをおじいちゃんと呼べるほどになっていた。
おじいちゃんが、そう呼んでほしいと言ったのだ。
「おい! 聞いているのか! この性悪女!」
私はダリルの叫び声で、我に返った。
そうだ、彼に婚約破棄を言い渡されたのだった。
婚約破棄?
あ、はい、喜んで受けます。
これで、この家の人たちともお別れなのね。
まあ、全然名残惜しくなんてありませんけれど。
おじいちゃんと彼女に会えなくなるのは、少し寂しいわね……。
この家の廊下は基本的には左側通行なので、私は右肩ばかりが腫れていた。
しかし、これからは肩にぶつかられる心配もない。
ようやく私は、左右対称の体に近づくことができる。
私は屋敷を出る前に、おじいちゃんに挨拶をしておこうと思って、彼に会った。
そして彼から、あることを言い渡されたのだった。
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