第91話 遠征3日目


 遠征も今日で3日目である。今日は目的地の村の途中にある小さな村まで進む予定だ。そこの村も小さいながらフローレン家の領地とのことだ。


 そこで馬の餌や、俺たちの分の水や食料を補充する。さすがに1週間分の水や食料を乗せて進むのは結構な荷物になるからな。多少割高であったとしても道中で補充する方が楽らしい。


 昨日と同じように朝早く起きて昼と夜の仕込みをしておく。10人分の食事となると結構な量になるが、毎回エレノアさんが手伝ってくれて大助かりだ。


 エレノアさんにも味付けを試してもらっているが、今のところは大丈夫そうだ。最初は塩とか醤油とかの調味料を適当に手掴みで入れようとしていたのだが、そのあたりを注意して改善してもらったらだいぶ良くなってきた。まだ複数の料理を同じ味に調整するのは難しいが、あとは経験をひたすら積めば上達するだろう。料理も練習と積み重ねが大事だからな。




「「「「戦争!」」」」


「ぐわっ、なんで俺がキングの時にエースが出てくんだよ」


「日頃の行いというやつじゃな!ほれさっさと次に行くぞ!」


「「「「戦争!」」」」


 相変わらず今日も道中は馬車の中でトランプである。いやさすがにずっと遊んでいるわけじゃないよ。揺れる馬車の中でトランプをやり続けると酔うからな。合間合間に休憩をしながら、魔法の訓練をしたり、次に販売する商品についてを考えたりしている。


「また妾の勝ちじゃな!しかしこのゲームも面白いが運だけの勝負で駆け引きがないのがちと物足りんのう」


 いや知ってたよ。トランプの戦争というゲームはシンプルに数字の強いカードが強いだけだから駆け引きもクソもない。純粋な運だけの勝負でこのお嬢様に勝てる気はしなかったが、やはり駄目だったか。


「これは運だけのゲームだからな。くそ、もうローラン様に勝てそうなゲームが思い浮かばない……」


 おかしいな、リバーシの時みたいにルールを知っている俺が一番強いはずだったんだが……


「しかし、このトランプという娯楽はすごいのう。たったひとつの遊具でこれだけの楽しみ方があるとはのう」


「確かに今考えるとすごいよな。これだけいろいろな数のゲームができるなんて……」


「ローラン様!前の馬車が急に止まりました!停車します!」


「「ヒヒーン!」」


 うおっと!


 急に馬車が急ブレーキをかけて止まった。前で何かが起きたようだ。


「のわあああ!」


「「ローラン様!」」


「おっと、大丈夫か!」


 結構な急ブレーキだったため、横にいたローラン様が、その時隣に座っていた俺の方に倒れ掛かってきた。さすがに普段から訓練で鍛えているだけあって、咄嗟に反応して受け止めることができた。


「ユウキ殿、ありがとうございます」


「いえ、たまたま隣にいただけなんで。ほら大丈夫か?」


「う、うむ!おっ、おかげで助かったぞ。褒めて遣わす!」


 だいぶ上から目線だな。だがまあ礼をいうだけまだマシなったのかな。それにしても受け止めた時にかなり近くでローラン様の顔を見てしまったが、やっぱりこの人ってすごい綺麗だよなあ。


 って、そんなこと言ってる場合じゃない!いったい何が起きたんだ?


「ちょっと外を見てきます!フィジカルアップ、プロテクト!」


「ちょ、ユウキさん、お待ちを!」


 エレノアさんが止めるが身体能力強化魔法と硬化魔法をかけて外に出る。とりあえず現状を把握しないことには始まらない。


 この馬車の周りには異常はない。とすれば、何かあったとしたら前の馬車だ。とそこで前の馬車からルーさんが出てきた。


「ルーさん、何があったの?」


「……ユウキか。前の馬車で魔物が出た。ローラン様は無事か?」


「後ろの馬車は大丈夫。それよりも魔物の方は大丈夫なの?」


「……問題ない。だが少し数が多く時間がかかるため私が報告に来た」


 どうやら前の方で魔物が出たらしい。だが、ルーさん達で対処できるとのことだ。


「サーチ!」


 確かに馬車の前に十匹近くの小型の生物がいるのが確認できた。一匹がどれくらいの強さなのかは分からないが、ルーさんがそう言うなら大丈夫なんだろう。


「なるほど、ちょっとだけ様子を見てくるよ」


「……ああ、だが手を出す必要はない。私もローラン様に報告次第すぐに戻る。」


「了解!」




 ルーさんと別れ、こっそりと馬車の後ろから前方の戦いの様子を伺う。


「ウギャキャ!」


「ウキャ!」


 すでに戦闘は始まっていた。馬車を襲おうとしているのはサル型の魔物の群れだ。すでに何体かは地面に倒れており、残りはあと半分くらいといったところだ。


「おらぁ!」


「ファイヤーボール!」


 前の馬車に乗っていたローラン様の護衛の人達が戦っている。ラウルさんともう2人が前に出て、1人の魔法使いが後方から魔法を放っている。お互いをかばいつつ、常に魔物達を後ろに通さない見事な連携だ。


 ルーさんの言うようにサル型の魔物も数が多いだけでそれほど強くはなさそうだ。これは俺が突入した方が邪魔になってしまう可能性が高いな。


「……待たせたな」


 おっと、ルーさんも合流したようだ。ルーさんも前衛に入り、前衛4の後衛1で戦うようだ。そう考えると俺達が戦う時は、俺とアルゼさんとリールさんが前衛でマイルとサリアとシェアル師匠が後衛となり、だいぶ後衛が多いような気もする。いやまあ、今はどうでもいいか。


 どんどんと敵の数が減っていく。ルーさん達はあまり敵の方には突っ込まずに、後ろへ通さないことと連携を維持することを心がけて戦っているように見える。なるほど、俺は大人数で連携して戦ったことはないからとても参考になるな。




「……よし、終わったぞ」


 しばらくして戦闘が終わったようだ。結局俺は戦闘に参加せず、馬車の後ろで戦闘を見ているだけだった。そこには10体以上の魔物の死体があった。見る限りではルーさん達に怪我はほとんどなさそうだ。






「うむ、よくやったぞ。この魔物達の死骸はどうする?」


 無事に戦闘を終えてローラン様達も合流した。


「はっ!この魔物は食べることもできませんし、大した素材にもなりません。よってそのまま土に埋めるのが良いかと」


 この遠征のリーダーであるニアさんが答える。どうやらこの魔物は食べることもできないし、素材にもならないようだ。


「ではそのようにしよう。準備ができ次第出発じゃ。日が暮れる前に村に着かんといかんからな」


 確かにだいぶ無駄に時間をとってしまった。この危険な世界で夜に移動をすることは避けなければならないので、日が暮れる前には村に到着したいところだ。


「それでは作業を任せるぞ」


 そういいながら馬車の中へ戻っていくローラン様。俺も穴を掘って埋めるのを手伝うと言ったのだが、お客様扱いだから大丈夫だと言われた。




「おいユウキ、お前は一応客扱いなのだから先程のようなことが起きてもお前は動かなくてよい。妾達はお前をアルガン家から料理人として借りている身じゃからな」


「ああ〜そうだな、勝手に動いて悪かった」


「そうですよ、ユウキさん。私達にとってはあなたも護衛対象なんですからね」


「はい、エレノアさん、気をつけます」


 今回は俺も護衛対象らしい。そりゃ護衛対象が勝手に危険な方に向かったらまずいわな。


 無事に魔物を埋め終わり、村へ向けて出発した。このまま日が暮れる前に村へたどりつけることを祈ろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る