第88話 異世界でトランプ


「それではフローレン様、ユウキをお願いしますね。お気をつけて!」


「ええ、アルガン様。この度はありがとうございます。しばらくの間ユウキ殿をお借りしますね」


 いよいよ出発の日となった。エレナお嬢様、アルゼさん、マイルとサリアがわざわざ街の入り口まで見送りに来てくれている。


「それじゃあユウキ、フローレン様をよろしくね。くれぐれも無茶はしちゃだめよ」


「気をつけてくるのだぞ。無茶はせず、早く戻ってこい」


「はい、エレナお嬢様、アルゼ様。行ってきます!」


 2人とも俺を心配してくれているのはとても嬉しい。わかっているさ、絶対に無茶はしないよ。


「ユウキ兄ちゃん、行ってらっしゃい!気をつけてね!」


「うう〜サリアも一緒に行きたかったなあ。ユウキお兄ちゃん、気をつけてね!」


「うん、マイルもサリアも屋敷のことを頼んだよ。サリアも今度は一緒にどこかに一緒に行こうな。それじゃあ行ってきます!」


「ユウキお兄ちゃん、約束だよ!いってらっしゃい!」


 みんなからの見送りを受けて出発する。これから半月以上この街を離れるわけだが、屋敷の方はみんながいれば大丈夫だろう。むしろ問題は俺が無事に帰って来れるかである。まあドラゴンといってもそれほど大きくないワイバーンらしいから大丈夫だと信じたい。






「それにしても暇じゃな。ユウキ、何か面白いことはないのか?」


 出発してから10分後、同じ馬車に乗っているローラン様が早くも猫をかぶるのをやめて雑な口調で話しかけてくる。


 ローラン様の馬車は俺たちが子供達の村へ行った時の馬車よりも遥かに豪華な造りになっていた。中も広く外装も綺麗で、さすが領主が使っている馬車だけのことはある。


 そしていくら豪勢な馬車でもこの世界の馬車にはサスペンションという機能は付いていない。道もあるとはいえ現代の整備されたアスファルトとは違い、そこら中にある小石や木の根が馬車をガタガタと揺らしている。


 しかし、そこは金持ちである領主様の馬車である。馬車が揺れてしまうなら、その揺れごとなんとかしようという訳か、馬車の中に巨大で柔らかそうな椅子を設置している。俺も対面に座っているが、この柔らかな椅子のおかげで揺れをほとんど感じない。なるほど、椅子で衝撃を限りなく吸収するのはいいアイディアだな。


「……もう暇なのかよ。ほら、外の景色を見てるのも楽しいぞ」


「そんなものとうに見飽きとるわ!どこに行くにしても大抵はこれと同じ景色じゃ」


 そうか、都会っ子だった俺にとってはこういった自然あふれる道をのんびり進むだけでも結構楽しいものだったんだが、この世界の人たちにとっては見慣れた景色だったらしい。


「それじゃあ定番だけど、これで遊んでみるか」


「なんじゃそれは?」


「これはトランプといって俺がいた国での遊具だ。中には4種類の絵柄と1〜13までの数字、そしてジョーカーという札がひとつのセットになっている」


 俺はあらかじめ持ってきていた薄い金属の札の束を取り出した。この世界では厚紙というものがなく、薄い木では難しかったため、薄い金属に図柄と数字を彫ったものだ。もちろん俺には作るのが難しかったのでローニーに作ってもらった。


「ふむふむ」


「まあ細かいルールはやりながら覚えるのが一番いいかな。このゲームはみんなでやるものなので、ルーさんやラウルさんも一緒にやりましょう」


 一緒の馬車に乗っているルーさんとラウルさんも誘う。ローラン様も気を遣ってか、同じ馬車には俺が一番親しい2人を一緒にしてくれた。今回の遠征に参加している人数は計10人、馬車2台に分かれて1人が行者で残りの4人が後ろに乗っている。


「……いや、私は護衛の身であるから遠慮しておこう」


「私もやめておこう」


「そうですか、でも2人でやれるゲームってほとんどないんですよね」


 トランプは2人でやっても面白くないからな。というか2人でやるゲームなんてスピードくらいしか知らないぞ。


「ルー、ラウル、お主らも参加せい」


「「はっ!!」」


 ……うん、いいんだけどね。それにしても2人とも本当にローラン様を崇拝しているんだよな。ローラン様の奴隷の扱いはだいぶ良くなったらしいけど、それより前からこの人に従っているって本当にすごいわな。


「それでどうやるんじゃ?」


 まずは定番のババ抜きからだな。さすがに揺れる馬車の中で神経衰弱や7並べはできないからババ抜き、ポーカー、ダウト、大富豪とかなら大丈夫だろう。これなら酔うこともないと思うし。






「ふっふっふ、また妾の勝ちじゃな!ほれ、次も妾が大富豪じゃろ、早く最も強いカード2枚をよこすのじゃ!」


「ちくしょう、あんた強すぎるだろ!ああ、俺のジョーカーと2が持っていかれた!」


 一通りのゲームを行ったあと、ローラン様が一番気に入った大富豪で遊んでいたのだが、この人強すぎるぞ!もちろん戦略も上手いのだが、純粋に運が強すぎる。最初はルーさんもラウルさんも主人であるローラン様に接待プレイをしようとしていたのがバレ、本気でやるように言われていたのだが、その後も普通に勝ち続けた。


「くっくっく、トランプとはなかなか面白いゲームじゃな。特にこの大富豪とかいうゲーム気に入ったぞ。現実と同じで、持つものが持たざるものから強いカードを持っていくというところが特に良いのう」


「いい気になるのもそこまでだ!まずは8流しをしてからの、くらえ革命だ!」


 大富豪の定番ルールである革命。言わずともみんな知っていると思うが、同じ数字を4枚集めることで革命を起こせ、持っているカードの強さが全て逆転する。


「ふっ、甘いな!革命返しじゃ!」


「またかよ!」


 これだよ!さっきから何度か起死回生の革命を起こしているのだが、その全てをそれより弱い別の数字4枚で革命返しされている。確かにジョーカーを持っている分、革命返しはできやすいのもわかるのだが、それにしても毎回革命返しするなよ!少しでいいから革命した気分を味あわせてくれ。


「2を3枚で出せるものはいないな?ほれこれで上がりでまた妾が大富豪じゃ」


 くそう、革命に全てを賭けていた俺の手札にはもうろくな数が残っていない。また今回も大貧民に違いない。




「フローレン様、本日の泊まる予定の場所に到着しました」


「もう着いたのか。いやあ時間が経つのはあっという間じゃったな。のうユウキ、このトランプというのは販売せんのか?きっとリバーシや将棋以上に売れると思うぞ」


「ああ、今までは金属の加工が難しかったから量産できなかったけど、ようやく大量生産の目処がたったから今度から一般にも販売する予定だ。これは試作品だけどおいていくから、そのままローラン様のほうで使ってくれ」


「おお!気がきくではないか。これは良い娯楽になるのう。揺れている馬車の中でもできるというのが気に入ったぞ」


「あとは揺れている場所ではできないゲームもあるぞ。一組のトランプでいろんなゲームができるのがこの遊具のいいところだからな」


「ほう、まだ他にも違うゲームがあるのか。もう今日はここから移動はしないし、早くそのゲームも教えるのじゃ」


「いやいや、ここからが俺の仕事だからな」


 今回なんのためにこの遠征に連れてこさせられたと思っているんだ?ローラン様の暇つぶしの相手をするためじゃないぞ。


 さあ、俺の仕事を始めようか。

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