第84話 久しぶりの森
第1工場も稼働を再開し、ほとんど襲撃が起こる前の日常に戻ってきた。相変わらずドルネルの裏にいるかもしれない人物は見えてこないが、アルゼさんやローラン様が引き続き調べてくれている。
さて、今日は久しぶりに森へ入る日だ。あの襲撃以降はさすがに森へ入って食材を調達に行っている暇はなかったので、食材はすべて市場で買ってきていた。まあいろいろな商品が売れてすでに家計をあまり気にする必要はなくなったのだが、訓練にもなるし盗賊を狩りにいく理由にもなるし、森へ入るのはこのまま継続するつもりだ。
そして今日はいつも一緒に来ているリールさんだけでなく、マイルとサリアも一緒だ。ついに2人も森での食材調達のデビューとなる。
もちろん盗賊狩りについては2人には秘密にしているので、今日は行わない。というよりも今後も盗賊狩りには2人を関わらせない予定だ。これについてはアルゼさんやリールさんも同意している。
少しでも命の危険があるなら同行はさせたくない。本音を言えば森での食材調達も多少の危険があるので、2人を同行させたくはないのだが、屋敷にも襲撃があったことだし実戦を少しでも経験させた方がいいというのが俺以外の意見だ。
「いいか2人とも、絶対に油断だけはしては駄目だからな!少なくとも屋敷に帰るまで油断は禁物だ」
「わかっているよ、ユウキ兄ちゃん!魔物だけじゃなくてもう絶対に盗賊達に攫われたりはしないよ」
「ユウキお兄ちゃん、サリア達もすごく強くなったんだから!でも油断はしないから安心して」
そうか、2人は村の外に出ていたところを盗賊達に攫われたんだよな。俺が言わなくてもそのあたりは十分に分かっていそうだ。
「うん、特に2人は魔法をメインに使うからね。一瞬の油断が命取りになるから気をつけるようにね」
「「はい!」」
2人は基本的に遠距離から魔法を撃って戦う遠距離タイプだ。俺とは違って魔法の適性があるし、魔力量も多い。やはり魔法に慣れていないせいか、初めて魔法を発動させるまでには少しかかったらしいが、今ではかなりの魔法の使い手になっているそうだ。
ここまで魔法の習得が早いとなると、2人の資質があるだけではなく、やはりシェアル師匠の教え方が相当良いのだろう。確かに俺が魔法を教わっている時もかなりわかりやすく、なにより例を見せながら具体的に説明をしてくれていた。魔法を教える才能があるのかもしれない。しかしあの人はなぜ魔法に関してはここまで完璧なのに、それ以外はポンコツなのだろうか?
「リール様、これは食べられますか?」
「ユウキお兄ちゃん、これは大丈夫?」
荷馬車を森の入り口に置いて4人で森の中に入ってきた。俺が初めて森に来た時と同じように山菜やキノコ、山芋、木の実など集めていく。俺も何度も山に来ているため、すでに食べれる食材の見分けは付くようになっている。
「ふう、こんなものかな。やっぱり4人もいるとすぐに終わるね」
いつも2人で集めているくらいの量を集め終わった。確かにいつも2人で集めるよりも断然早い。だが、むしろメインはこれからだ。
「それじゃあまずは2人で周囲を探ってみてもらおうかな」
「はい」
「わかりました」
今回は2人に経験を積ませるということで、魔物の捜索から討伐まで2人で協力して行ってもらう。俺とリールさんは何かあった時のために控えている。さすがにそのあとの解体作業は俺とリールさんでおこなって2人には見ててもらう予定だ。
「「「万物のものよ我が前に姿を現せ、サーチ!」」」
2人がサーチの魔法を使い、周囲の状況を探る。ついでに俺も魔法を唱えて状況を探る。
「あっちにこれくらいの大きい生物がいます」
「こっちにはこれくらいの生物が3体くらいいるわ」
うん、俺の探知した魔法と同じだ。どうやら2人とも属性魔法を使えるが、サーチの魔法範囲はそこまで離れているというわけではないようだ。まあ、周りにこれだけしかいない可能性もあるがな。
「俺も同じ結果です」
「うん、そしたら大きいやつから行こうか」
「グオオ」
大きな捻れた角が2本に灰色の分厚い毛皮を持つ四足歩行の魔物。まるで鹿のようだが角の形が鹿とはだいぶ異なっており、鋭く尖ったあの角に貫かれれば大怪我することは間違いない。
「あれはガロノジカだね。見てわかる通り角はとても硬くて強力だから気をつけてね。それとあまり肉は痛めないようにね」
「「はい」」
まだ魔物はこっちに気付いていない。美味しそうに地面に生えている草をモシャモシャと食べている最中だ。
「それじゃあサリアちゃん、予定通りに行くよ」
「ええ!」
2人が前に出る。一応森での戦い方は2人で相談してすでに決めてあるようだ。今回はマイルが前に出てサリアが後ろから魔法を放つようだ。
「大いなる風の刃よ、我が敵を切り裂きたまえ!ウインドカッター!」
サリアが風魔法を唱え始めた。ガロノジカもこちらに気付いたようで視線がこちらに向く。だが、すでにサリアの魔法は完成し、風の刃が魔物を襲う。
ザンッ
サリアの風魔法の刃がガロノジカの正面を捉え、首から肩にかけてを切り裂いた。ドス黒い血液が傷口から吹き出している。
「グオオおおおおお!」
大きな雄叫びをあげるガロノジカ、だがまだ絶命してはいない。苦悶の表情を上げながらもこちらを睨みつけている。
「アルシールド!」
マイルが障壁魔法を展開する。ガロノジカのほうは放っておいてもしばらくすれば失血死しそうだが、最後の力を振り絞ってこちらに突進をしてくるようだ。まだ両角は折れていないし、もしあれが突き刺さったら間違いなく大怪我を負う。
「グルオ!」
大きな怪我を負っているにも関わらず、かなりのスピードで突進をしてきた。
ガギンッ
「グオ!?」
突如ガロノジカの足が止まる。いや、ガロノジカが止まった先には半透明の壁があった。その自慢の角はその強固な壁に弾かれ、左側の角に関しては根本から折れている。手負いとはいえかなりのスピードで突っ込んで来たが、マイルの作った魔法による障壁は破れることなくその場に今も存在している。
「グオオオオ…」
ガロノジカが悲鳴を上げながらが崩れ落ちた。失血に加え、最後の特攻も障壁に突進してしまい大ダメージを受けてしまったようだ。しばらくしても動く様子はない。まあさすがにもうあれは立てないだろうな。
「うん、2人とも見事だったね」
「はい、俺達が手助けする必要も全くありませんでしたね。すごいよ2人とも!もう立派な魔法使いじゃないか!」
「えへへ〜ありがとう、リール様、ユウキお兄ちゃん!でもまだ一撃で倒せなかったわ」
「シェアル師匠はもっと大きくて強固な障壁を長時間張れるんだよ。発動時間も短いし、僕たちなんてまだまだだよ!」
2人ともまだまだ満足していないらしい。屋敷が襲撃された時にあまり役に立てなかったことを悔しがっていたが、もう2人とも立派な戦力だ。とはいえ危険もあるし、戦力にしたくないというのが本音だけどな。
そのあとはガロノジカを川辺まで運び、リールさんと2人で解体した。マイルとサリアも解体を見ていたのだが、それほど気持ち悪くはならなかったようだ。2人の村でも解体作業を手伝ったこともあるらしい。こんな子供の頃から解体作業を見たことあるとか、やっぱりこの世界はなかなかハードモードだ。
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