ONE

名波 路加

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「恐竜は、一つになったんだよ」


 私の膝で眠るこの子が言っていた意味を最初から分かっていたとしても、結局私にはどうする事もできない。目の前の光景を、ただ受け入れるしかない。この子は私の弟で、恐竜の化石が大好きだった。博物館で初めて恐竜の化石を見てから、毎日恐竜の図鑑を読んでいた。読みながら、早く恐竜に会いたいと言った。会いたいって、どういう事?恐竜はもう絶滅したんだよ。まだ幼かった弟は、私の言葉を否定した。


「恐竜は生きているよ。だって石になったじゃない。ちゃんと形を残して。石はいろんな形があるのに、自分の姿を残せるなんて、やっぱり恐竜は強いんだね」


「死んじゃったから、石になっているんだよ。何万年も地層に埋れて、骨が化石になるんだよ」


「知ってるよ、お姉ちゃん。でも、石は一つだよ。どの石もみんな同じ石。恐竜の化石みたいに大きな石も、その辺に転がっている石も、みんな同じ。だから、恐竜は一つになったんだよ」


 それは何年も前の話だ。弟も幼かったし、私も大人ではなかった。どうして弟が石の全てを知ったのかは分からない。もしかしたら、本当は何も知らなくて、適当な事を話していただけなのかもしれない。それでも、今目の前に広がる光景を見ると、弟が言った事が嘘だとは思えなかった。

 私達は何処にでもいる普通の姉弟だ。弟も私も特別な人間ではない。ただ、この世に生きる最期の二人であるというだけだ。そして弟は私の膝の上で眠り、石化した。不思議と、重くはなかった。

 辺りは石だらけだ。それらは元々植物だったり、動物だったり、人間だったり、或いは、恐竜だったり。それらに共通しているのは、命であるという事。命が次々と石化していく中で、私は恐れを感じなかった。先に石化していった周りの人間も、落ち着いたものだった。誰もがその異様な光景を静かに受け入れ、石となった。




 どれくらい経っただろうか。




 いつしか、私の呼吸はこの星の呼吸となっていた。目に映るもの、聞くもの、匂い。全てをこの星と共有した。わたしを生んでくれた母、守ってくれた父、飼っていた猫、学校の友達、道端に咲いていた小さな花。出逢った命、出逢う事のなかった命。その全てが漣のように広がり、一つになり、私になった。


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ONE 名波 路加 @mochin7

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