第4話 スキルってなに
「ひええええええっ‼︎」
情けない声を上げながら、私はどたどたと走る。持病のせいで普段は走らないようにしてるけど、今はそれどころじゃない!方向的にまたこちらに来そうなので、身を隠せそうな場所を探して岩沿いを必死で移動する。
ど、どうしよう。巻き込まれたらひとたまりもないぞ。お互いをやっつけるのに夢中でこっちなんて目もくれて無さそうだけど、でっかいしあの炎はヤバイだろ。
どどーん、と音がして、後方で砂埃が上がる。その中心からまたあの鳴き声がして、長い首が見えた。い、移動して良かった。
取り敢えず岩の影に隠れるが、激しい攻防はまだ続いているようだ。生き物が出しているとは思えない鳴き声が響き渡り続ける。
こ、こわい。命の危機なんて、持病を除いたら感じたの始めてだ。めっちゃ心臓どくどく言ってる。……発作起こさずよく持ってるなぁ、私の身体。
一旦危機を脱したけど、全然安全な気はしない。なんたってあっちの移動距離が半端ない。ここまでくらい一瞬で飛んでこれる。あ、また移動した。うわぁ、あんなとこまで。ひぃいい火の玉飛んでるぅうう。
じっとしていた方がいいのか、出来るだけ遠ざかった方がいいのか分からない。怖くて足がすくんでる気もする。ここまで動き回って、体力も限界だ。
「ど、どうしよう。」
『何が。』
と、唐突に声が響いてびくついた。見渡して、肩口にあのガラス球があったことに気づいた。ええっ、もしかして一緒に移動してたの⁉︎ 動けるんだ……。っていうか –––
「な、何がって?」
『だから、何をどうしようと?』
……はぁ?
「何をって⁉︎ 危ないからどうしようって言ってんじゃない‼︎ このままじゃ巻き添えになっちゃうかもしれないでしょ⁉︎」
相手が得体の知れないガラス球だと分かっていても、つい感情的になってしまった。
『スキルを使えばいい。』
「は?」
『君のスキル。君は、生きていくためにそれを与えられた。』
スキル。あのでっかい方の球がくれたっていう。
「って、私それがまだ何か聞いていないんですけど⁉︎」
『君のスキルは、時空操作系。新たな時空を創り出し、意のままに作る能力。』
詰め寄る私に、ガラス球は淡々と答える。今の私にはまどろっこしいことこの上ない。もっと焦ってくれ!ひゃぁあ近くに火の玉飛んできたぁ!
「それはどうやって使うんですかね⁉︎」
『まずはある程度隔離された空間を作る。』
「んんんもうちょっと分かりやすくっ!」
『手っ取り早いのは、光を遮られる素材で囲いを作る。』
「かこい……。」
『その中に欲しい環境、つまり希望する気温や湿度の空間を想像すればいい。』
「ええと……ええとっ。」
まずはかこい、囲い。光を遮る素材。……ってこんな荒野でどうしろと⁉︎
どごぉん、と、また轟音が響くとともに、熱を持った風が吹き付けてきて、私はその場にうずくまった。今度はあっち⁉︎ 乱れた髪がばちばちと頬を打ち、長いスカートがばさばさと
ああこの服装は不便だ。スニーカーだったのは不幸中の幸だけど、せめてズボンを履いてくれば……
あ。
光を、遮る素材。
私のスカートは、厚手のウール製だった。
……っあーーーーでもこの下レギンス履いてないぃいいいい……。
どごぉおおおん。
「ひゃあああーーーーっ!」
また轟音と振動が響いて、砂埃に包まれる。ええいっ、背に腹は変えられん!どうせ誰も見ていない!
私はロングスカートを脱いだ。
裾をすぼめた状態で、地面に広げる。輪っかみたいに形を保って広がるウエスト部分の中に、スカートの裏地が見える。
そのウエストを、両手で袋みたいにぎゅっと絞る。
ええと、なんだっけ。欲しい空間を、イメージする……。
えっと、寒くなくて、快適で、安全で……?えーと、えーと、とにかくあのドラゴンから逃げられる場所!
重なった2つの鳴き声が、こちらに向かってくるのが聞こえる。
私は手早くスカートのウエストを開いた。
そこには、裏地の代わりに白い空間が広がっていた。
ギャアアアアアッ!!
キィイイイイイイイ!!
白い光に驚く余裕もなく、私は背後から迫る轟音から逃れる為に、スカートのウエスト部分に頭から身体をねじ込んだのだった。
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