舞い散る花のロマンス (カルテット)

椎堂かおる

第1話

 月が満ちるのに合わせて、白く透ける蕾は、一面に咲きそろうのだという。誘い招くようにゆれる、夢心地の白、また、白。

 母さんがシェレネを授かった日、母さんが父さんと初めて出会ったその夜にも、花は、戦場を埋め尽くすほどに、ほの白く咲き誇っていたのだそうだ。

 夢見るようにそう言い遺して、母さんは息を引き取った。

 薬もなく、枯れ枝のように痩せ細って、ひとり娘の他には看取ってくれる者もなく。

 それが七日前。

 今日になって、自分の境遇がこんなふうに変わっているなんて、シェネレは想像もしていなかった。ぼんやりと甘く夢にみることはあっても。

 シェレネは昨夜、王子様のウエラになった。

 母さんと同じ歳、同じ花の咲く夜。

 月明かりに浮かび、ぼんやりと光る、その花の名前は────。

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