第5話 せめて救済と書いて

 意欲までたどり着けないだけなのだ。その途上で藻掻もがき、のたうち回っているんだ。


 遠くでぼやっと光って揺れている螢みたいなものがそいつだろう。真っ暗闇に浮き上がっては揺れ、消えて、またあらぬ所に幽かすかに現れ、また揺れている。あそこに自分が居るはずだ。いやあれが本当の僕かも知れないのにと、蒲団の上、横向きに寝転がりながらずっとその光を眺めていた。見えてはいるが、ただ眺めるしかない。仕方がない。

 自分にまでたどり着けない、なんて。


 意欲までには果てしない道がある。一生かかってもたどり着けそうにない。そこで裸足はだしで迷子になっている。



「道には標識もなにもありませんでした」

「そこにたどり着かなければと焦るばかりで。焦れば焦るほど、慌てれば慌てるほど迷子になってゆくような感じがしました」

「たくさんの死体が転がっていました」


「実は最近判ってきたことだがね、君が感じたとおり一般に<意欲>、俗に<やる気>と呼ばれるものとの間に、まだ名前のついていない多くの段階があるんだよ」

「みな一足飛びに意欲というが、そこまでには段階、というかとにかく長い道がある。そこにたどり着けずに命を落とすものは想像以上に多い」

「雨が突然、降ってもくる」


 そこで救われるものなどひとりもいない。そこでは救済と書いて「許さない」と読むこともある。救済と書いて「復讐」と読むこともある。救済とかいて「死体」と読むこともある。ただ「救済」と書けるだけだ。嘲笑あざわらいか、せめてもの情けか。どちらでも良いが。

「救済と書いて・・・。せめて救済と書いて」



(つづく)


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