30話:山頂の古びた神社へ①

「人間、本当にすべてを倒したのか? 嘘だった場合は……」


 長老から伝わる殺意に、嘘を吐いた場合、俺がどうなるか容易に想像ができる。

 でも残念かな。君たちに俺は倒せない。もちろん、アウラもだが。


「事実、言葉通りの殲滅だ。この里を襲った魔物の大群はすべて、一匹残らず倒した」

「半分以上倒したのは私だけどね?」

「今そんなことはいだろう⁉」


 俺はつい、アウラにツッコミを入れてしまった。

 視線が向けられるが、少しして長老がゴホンと咳払いして口を開いた。


「カエデ様、お前たちも。それは事実で?」


 向けられた言葉は俺にではなく、カエデと、それと一緒にいた妖に対してであった。


「長老、事実です」


 カエデに続き、一緒にいた妖が同意するように頷いた。


「信じましょう。それで巫女様、この者とはどういうご関係でしょうか?」


 瞑目していたサクラは、長老に問われて目を開き、説明した。

 それは幼少期の俺との出会いから、カエデと出会ったこと。昨日この場に招き入れて色々と話したことを説明した。

 最後に、俺の祖父母とサクラの母との関係についても。

 それらを聞き終えた長老たちは深く息を吐いた。


「なるほど。恩、ですか」

「はい。私は勇夜さんの祖父母に。勇夜さんは私に」

「分かりました。我々はこの者を信じましょう」


 代表の長老が俺を見つめてそう告げた。


「ありがとうございます。それで勇夜さん。そちらの女性は? 話していた妹さんでしょうか?」


 サクラはアウラを見て尋ねた。

 自分のことを言われていると気付いたアウラは、自己紹介をする。


「私はアウローラ・グラナティス。そうね、勇夜とは因縁の相手とだけ言っておくわ」

「因縁、ですか」

「色々と事情があってな。詮索はしないでくれると、こちらとしても助かる」

「分かりました。アウラさん、私はこの妖の里の巫女をしています、サクラと申します。よろしくお願いします」


 互いに自己紹介も済んだので、俺は本題に入る。


「今後についてだ」


 俺の言葉で、一同は真剣な面持ちとなった。

 このままの状態で、話し合いは始まったのだが、誰も何も言わない。


「この中で黒幕に心当たりのある者は?」


 俺の言葉に、みんなが互いに顔を見合わせて「知っているか?」と話している。

 話しているが、誰も心当たりのある者がいないようだった。

 そんな中、カエデと一緒にいた妖が手を挙げた。


「あの、そのことについてですが」


 そう言って一歩前に出る。

 視線が手を挙げた妖へと集まる。

 この里の重鎮たちの視線に緊張しているのか、一向に話そうとはしない。


「話せ」


 一人の長老の言葉で、ようやく口を開いた。


「一週間ほど前から、離れた里の妖らが、この里へと入ったのを確認しています。目的もなく、ただ旅をしている、と言っていたのですが……」


 カエデが唇に指を置き、何かを考えている。

 そして「あっ!」と何かを思い出したようだ。


「その一団が、何やら里の者を勧誘していたのを思い出しました」

「なるほど。その者らが『解放者』、ということでしょうか。言われてみれば辻褄が合いますね。昨日、カエデと一緒にいた妖は、その勧誘に誘われた者、と」


 サクラは今までの出来事を、まるでパズルを組み立てるかのように繋げていく。

 長老が申し出た妖に、その里に入ってきた者たちがどこにいるのか尋ねた。


「それが、数日前には里を出たようでして……」

「……そうか」


 そこで俺は、あの神社について聞いてみた。


「もしかして、『封印の祠』周辺にいるんじゃないのか? だって狙いはあの封印の破壊なんだろう?」

「では祠が壊されて今回の惨劇が!」


 俺は神社を通ってきていない。

 祠も確認していない。

 最悪、壊されているかもしれないだろう。


「可能性はゼロじゃないですね。勇夜さん、神社を通ってきましたか?」

「来てない。家から最短ルートで来たからな。悪い」

「いえ。では……」


 俺は頷いた。


「もしかしたら、その周辺にいるだろうな」

「行っていただけますか?」

「そのつもりだが、同行する者は? アウラは来るだろ? それとも残って万が一に備えるか?」


 俺の質問に、少し考えてからアウラは答えた。


「そうね。万が一に備えて私がここに残るわ」

「分かった。ということだ。アウラに任せておけば問題はない」

「ありがとうございます。では同行者にはカエデを」

「はい、姉様」


 頷くカエデ。

 それから速やかに、今後の話し合いが行われ、俺はカエデたちを引き連れて山頂の神社へと向かうのだった。



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