22話:山頂の古びた神社で②

 俺は気配察知を使いながら夜の山道を駆ける。

 山道は真っ暗で、一般人なら走ること自体危険だろう。

 だが、俺にはスキルで暗所でもいつも通りの視界を確保しているので、暗所での戦闘も可能だ。


「はあ、動物以外の気配はないか」


 そこから俺は山道を走り、山頂へと到着した。

 周囲に人の気配はない。

 このまま歩きながら鳥居を潜り抜けると、結界を通り抜けた感覚があった。


「やっぱりか……」


 恐らくこの鳥居以外も調べないと意味がないだろう。

 再び、社の周りを注意深く調べていると、気配察知に反応があった。

 それは一つじゃなく、複数もだ。


「――誰だ!」


 俺の言葉に驚いたような反応があった。

 気配は動こうともしない。

 こちらの様子を探っているようだ。


「そこにいつまで隠れているつもりだ? 居場所は分かっている」


 隠れている場所へと顔を向ける。

 数秒して四人のフードを被った者が現れた。

 こんな時代にフードを被っている者などいない。

 加えて、手には獲物が握られている。


「少し物騒じゃないか? こっちは武器も持ってないのに。何か言ったらどうだ?」


 ……返答なしか。

 倒すしかないだろう。だが、後ろに控えている一人が気になる。


「仕方がないか。来い、少しだけ相手をしてやる」


 相手からの怒気を感じる。

 恨まれる覚えはないのだけど……


 一拍。俺は、襲い掛かってくる面々の攻撃を躱し、その際に相手の武器を叩き落し、腹部を掌打する。


「がぁっ⁉」


 掌打されたことで、一人が地面に崩れ落ちる。

 続けて襲い掛かってくる者たちを次々と倒していく。

 俺はここで、決して相手に深手を負わせることはしなかった。


 理由として、相手がどのような思惑で攻撃してくるのかは不明ということ。

 それに、もしかしたら俺が、勝手に相手の領域に入ってしまったことも考えられる。

 だからこれ以上の怪我を相手に負わせることはできない。


 だが、相手は武器を持っているのだ。

 命を奪わないだけいいだろう。


 程なくして襲ってきた者たちは地面に倒れ、俺は奥に隠れている最後の一人へと顔を向けた。


「隠れていないで出て来いよ。そこにいるのは分かってる。出てこないなら敵と見なすが?」


 反応がないので、俺が動こうとして、その者は口を開いた。


「――お待ちください」


 そう言って現れた者を、月明かりが照らし出す。

 俺は思わず目を見開く。

それは和装姿の少女だったからではない。頭に狐耳を生やしていることに驚いたのだ。


 つまりは人間ではなく、妖の類であるということ。

 ということは、俺を襲ってきたこの者たちも同類ということだ。

 そこで俺は幼少期の記憶を思い出す。


 あの時の少女も、狐耳を生やしていたと。

 だが今はそんなことを考えている時ではない。

 目の前の者が何者かということだ。

 狐耳を生やした妖の少女がそう口を開いた。


「私たちはあなたに危害を加えるつもりはありません」

「先に攻撃を仕掛けてきて、出る言葉がそれか?」


 ビクッと震える少女は、頭を下げ、説明した。


「私はここの管理を任されている者です。定期的に確認をしに来ております」

「なるほど。この結界を維持している。そういうわけだな?」


 少女が目を見開いた。

 恐らくは、どうしてそれが分かったのか、聞きたいのだろう。


「俺はちょっと特殊でね。まあ、普通の人間じゃないってことだ。それで理解はできるだろ?」


 少女は俺の説明で警戒を露にする。


「そんなに警戒してほしくないんだけどな。別に俺が陰陽師で、妖とかの退治をしているわけじゃない。まあ、陰陽師の知り合いはいるけどな。とにかくだ。俺は危害を加えられない限り、こちらから攻撃することはないってことだ」


 それでも警戒している少女は、倒れている者たちを一瞥する。

 心配しているのだろう。


「安心しろ。気絶させただけだ。直に意識を取り戻す。まあ、痛みはまだ消えないと思うが。すぐに回復するはずだ」


 それを聞いて安堵する少女に、俺はどうして襲ってきたのかを訪ねる。


「話してもいいですが、他の人間に話さないとは限りません」


 尤もな意見だが、俺は襲われた身だ。

 話してもらわなければ引き下がれないというもの。


「俺は一方的に襲われた。それも複数人の妖に。それで信用できないと? 都合がいいと思わないのか?」

「そ、それは……」


 口籠り俯く少女。

 そんな中、倒れていた者たちが次々と起き上がった。

 そして武器を手に取り、少女を庇うように前に出た。


「カエデ様、この人間は危険です! 早くお逃げください!」

「ですが……」

「早くお逃げください! この人間は我々が倒します!」


 どうやらこの少女の名前はカエデというらしい。

 だが、少女は逃げないようだ。

 いや、何かを悟っているのだろう。

 一歩前に出て鎮める。


「武器を下ろしなさい」

「ですが!」

「いいから、早く下ろしなさい」

「はい……」


 渋々と武器を下げるが、その目には敵意が宿っている。

 あの戦いで俺はこいつらの実力は見抜いている。だが妖ということもあり、なんかしらの妖術は使ってくる可能性はゼロではないだろう。

 俺は少しだけ警戒することにした。


「私はカエデと申します。御覧の通り、私たちは妖です」

「俺は朝桐勇夜。勇夜とでも呼んでくれ。さっきも話したが、俺は人間だ。だが、陰陽師とは知り合いがいるってだけで、この件とは関係ない。ただ気になって見に来ただけだ」

「気になって?」


 カエデの言葉に俺は頷く。


「昼にここへ来たが、その時に結界を潜った感覚があってな。それで色々と調べたら、裏手の祠が気になった。それで何かあるんじゃないかと思って、人気がいないこの時間に調べに来ただけだ」

「祠、ですか。勇夜様はあれが何なのかご存じなのですか?」

「さあ? ただ、『封印の祠』ってだけは知っている。山を下りたところの集落に住んでいるじいちゃんに聞いたら、なんでも昔に何かを封じたって。俺が知っているのはこれだけだ」


 カエデの瞳が俺を見据える。

 真実か嘘かを見抜いているのだろう。

 瞳に妖力が集まるのが分かった。


「……どうやら本当のようですね」

「へぇ、妖力を目に集めて心臓や相手の目を見ることで、嘘を言っているか見抜けるのか」

「――っ⁉ どうしてそれを!」

「なに。相手の妖力の動きを見れば誰でもわかる。まあ、こんな話はどうでもいいさ。聞きたいのは一つ。お前たちは何者で、この地に何を封じている?」


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