20話:ピクニック

「お兄ちゃん、今日は何するの~?」

「何をするって、そうだな……少し散歩でもしようか」

「散歩、いいわね」

「私も賛成!」


 元々アウラに案内するつもりだったのだ。

 そうと決まれば俺は祖父母に、どこかおすすめの場所がないか聞いてみた。

 すると祖母がいいところがあると言う。


「少し歩いたところに山があるのだけど、その山の山頂に神社があって、そこから眺めはいいわ。数年前までは行っていたのだけど、腰を悪くしてから行ってないのよ」

「ばあちゃん、あまり無理はしないでくれ」

「ありがとう。気を付けるわ」

「じゃあ、そこにでも行ってみるよ」

「折角だからおにぎりでも持って行ったらどう?」

「ならそうしようかな」


 祖母の提案に二人も賛成のようだ。

 これはちょっとしたピクニックだな。

 そう思いながら、俺たちはおにぎりを持って家を出て勧められた山へと歩き出した。


 季節は春。

 川辺に咲いている桜がとても綺麗だ。

 これなら山頂からの眺めも最高にいいだろう。


「アウラちゃん、楽しみだね!」

「そうね。陽菜、すぐに疲れたって言わないでね?」

「もう! そんなすぐに疲れるわけないじゃん!」

「そう? でも体育の時はすぐ疲れたっていうじゃない」

「そ、そんなことないもん! 見てない!」


 山を登り始めてから三十分後。

 後ろからぜぇ、ぜぇという荒い息遣いが聞こえる。

 俺とアウラは顔を見合わせて振り向いた。

 陽菜が呟いた。


「はぁ、はぁ……つか、れた……ちょっと、休憩、しない……?」

「ほら。私の言った通りじゃない」

「アウラの言う通りだったな」


 疲れた顔で陽菜は俺を見る。


「アウラちゃんもそうだけど、なんでお兄ちゃんは疲れてないの、よ……」


 そりゃあ、異世界で何度も戦ってきたからな。それに丸一日戦うことだってあったのだ。

 この程度で音を上げる俺ではない。

 これでも異世界で勇者をやっていたのだから。


「鍛えているからな」

「お兄ちゃん、帰宅部じゃん……」

「うぐっ、そ、それはほら! 帰るときに走ったりしてだな」


 アウラからのジト目が気になるが気にしないことにした。

 こんなの適当な言い訳が妹に通じるはずが――


「私も、走ろうかな……?」

「あ、うん……その方がいいかも?」


 俺の妹は、俺が思った以上に馬鹿なのかもしれない。

 少し将来が不安になってきたところだ。


 それから休憩を何度か挟みつつ、俺たちは山頂に到着した。

 古びた社があり、鳥居にはちらほら苔が付着している。


「古い神社だな」

「そうね。軽く見ても数百年以上は経っているわね」

「だな。それと少し、違和感を感じるな」

「勇夜も?」


 俺は後ろを振り返り、休憩して息を整えている陽菜を見てから顔を戻し、小声でアウラと話す。


「ああ。陽菜に何かあると怖い。悪いがアウラ」

「わかっているわ。任しておきなさい」

「助かる。昼を食べたら少し探ってみる」

「ええ。私は陽菜の気を引いておくわ。後で教えなさいよね?」

「そのつもりだよ。んじゃあ、先ずはお昼にしようか」

「待ってたわ!」


 日も高く昇っており、ちょうど昼時だ。

 少しは息を整え、楽になった陽菜へと声をかける。


「少しは楽になったか?」

「うん」

「ほら、水でも飲め」

「ありがとう」


 陽菜は水を受け取ると、ゴクゴクと飲んでいく。


「ぷはぁ! 生き返る~!」

「おっさんか。景色でも見ながら昼にしよう」

「うん!」


 俺たちは景色が一望できる場所を探すと、一本の大きな桜の木が咲き誇っていた。

満場一致でそこにシートを広げて食べ始めた。

 景色は祖父母の言う通り、周囲を一望できる最高な場所だ。


「いい場所ね」

「そうだね!」

「それにこんなに大きな桜の木があるとは驚いた。ばあちゃん、俺たちに黙ってたな」


 恐らくだが、この桜の木も見せたかったのだろう。


「綺麗だね」


 俺とアウラは、陽菜の言葉に頷いた。

 それから談笑しながらゆっくりと食べるのだった。


 食べ終わって片付けを済ませた俺は、アウラに陽菜を任せて周辺を散策することにした。

 鳥居を潜り抜けると、結界のような何かを通った感覚がした。


「これは……」


 振り返り、通り抜けた場所を触る。

 やはりか。結界が張ってある。

 どのような結界なのかは不明だが、害はないようだ。


「調べる必要が出てきたな」


 俺は謎に満ちた神社を調べ始めるのだった。



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