魔王を倒したら娘をよろしくと頼まれたので一緒に帰還しました〜自重は異世界に捨ててきたので妖怪や悪魔やら相手に無双します!でもこれだけは言わせてほしい、魔王の娘が可愛いすぎて困る!〜

WING@書籍発売中

プロローグ

「勇者、貴様の負けだ」


 魔王が俺、朝桐勇夜あさぎり ゆうやにそう告げて嗤った。

 だが、俺は手に持つ剣の切っ先を魔王へと突き付けた。


「――いいや、まだだ! 託された仲間の想い、こんなところで潰えさせるものか! ここで絶対に倒す!」

「面白い、ならば抗ってみせよ、勇者!」


 俺と魔王は互いに聖剣と魔剣を構え睨みあう。

 両者、戦う力は残っていない。

 故に、今残っている力の全てを使い、目の前の魔王宿敵を倒すのみ。

静寂の中、瓦礫の一部が崩れるのと、両者が駆け出すのは同時だった。

互いに交差し、魔王城の玉座の間に静寂が訪れる。


「――ガハッ」


 魔王が剣を落とし、膝を突いた。

 口から吐かれる血が、床に染みを広げる。


「やるではないか。だがこの程度で我は――」


 俺は魔王の言葉を遮るかのように、振り返って剣を眼前に突き付けて告げた。


「いいや、終わりだよ。言っただろ。ここで絶対に倒すって」


 俺の持つ聖剣が光り輝く。

 消えゆく魔王が俺を見て笑みを浮かべる。


「フハハハッ! 面白い、これでこそ戦いはやめられない!」


 そこに物音がし、俺はその方向へと視線を向けた。

 ピンクの髪を腰まで伸ばし、魔王と同じ金色の瞳が特徴の美少女だった。

 見た目は14歳くらいだろうか。


「お父さん!」

「アウローラか。逃げろと言ったはずだ」


 アウローラと呼ばれた少女は、消えかけている父である魔王へと近づき、泣きそうな表情で抱き着いた。


「魔王と勇者は共存できない。それは、アウラも知っているはずだ」

「でも! そんなのあまりに理不尽だよ!」

「理不尽、か。確かに世界は不条理で理不尽だ。勇者、一つ頼みがある」


 魔王は俺の顔をじっと見つめる。


「……なんだ?」

「娘を、アウローラを頼む。どうか、お前の世界へとつれて行ってほしい」

「何を言っているのお父さん! 私もお父さんと一緒に――あぅ……」


 アウローラは魔王によって眠らされてしまった。

 眠った娘を見た魔王はその頭を優しく撫でる。

 俺は幼い頃、父さんに撫でられたのを思い出した。いつも厳格な父さんは、優しくするのが苦手だったが、俺が寝た後にあのように優しくなでていたのだ。


「頼む、勇者。このままではこの子まで殺されてしまう」


 魔王の言う通り、魔王の娘というだけで脅威と思われ、見つかって捕まり、殺されるだろう。

そんなことあってはならない。俺はこれ以上の犠牲は望んでない。


「分かった。勇者の名かけて誓おう。俺がこの子に降りかかる理不尽を全て薙ぎ払い、守り抜くと」


 俺の言葉を聞いた魔王は、満足そうに、それでいていままで見せることなかった優しい笑みを向けた。


「ありがとう。勇者宿敵よ。娘を、アウローラをどうか――……」


 そう言って魔王は光の粒子となって消え去った。

 残ったのは魔王の娘であるアウローラと、魔王の愛剣であった魔剣のみ。

 俺がアウローラを抱えるのと同時、足元に魔法陣が浮かび上がり光り輝いた。

 そして俺の視界が切り替わった。

 そこは真っ白な何もない空間であり、俺が召喚された時と同じ場所。

 俺は抱えていたはずのアウローラがいなくなっており、焦る。

 周囲を探すが見当たらない。


「朝桐勇夜さん、お久しぶりですね」


 焦っていると、この世の者とは思えないほど美しい女が、俺の前に現れた。

 俺はこの人を見たことがある。それは召喚された時だ。


「お久しぶりです。女神様。召喚の時以来ですので、3年ぶり、でしょうか?」

「よくぞ魔王を倒してくれました。魔王とは存在するだけで世界の崩壊を招く者。それを討伐するのが勇者の役目です」

「ですが、納得がいきません。どうして共存ができないのですか?」


 俺の問いに、女神様は悲しそうな表情をする。


「私も幾度となく、共存できないかを模索しました。ですが、世界の秩序、理を変えることは私にもできないのです」

「そう、ですか……」

「本当に申し訳ございません」


 頭を下げる女神に、俺は慌てる。


「頭を上げて下さい! 女神様は悪くありません。世界の理というのなら、仕方がないことです。それと一つ、魔王の娘は、アウローラはどこに?」


 俺が一番心配していた疑問に、女神様は答えてくれた。


「安心してください。大丈夫です」


 聖母のような優しい言葉に、俺は心の底から安堵する。

 安堵している俺に、女神様は告げた。


「ではこれより帰還に役目を果たした勇夜さんに、一つだけ願いを叶えて差し上げましょう」

「なんでも、ですか?」

「はい。ですが、死者の蘇生はできません。世界に干渉することになりますから」

「分かっています。では一つ、アウローラも一緒に地球へ連れていきたいです」

「一緒に、ですか? あなたは彼女になんの思い入れもないと思いますが?」


 尤もな言葉だ。

 だが俺は諦めきれない。


「彼女は悪くない。被害者の一人だ。彼女が見つかれば、捕まり殺されるのが運命です。それに、魔王との約束したんです。彼女を無効に連れて帰り、絶対に守ると。この約束だけは違えたくありません」

「なるほど。ではもう一つ」

「なんでしょうか?」

「あなたは魔王を倒した英雄です。権力に地位もありますが、手放すのですか?」

「確かに尤もな意見ですね。でも、俺は向こうで待たせている家族が、妹がいるんです。一人にはさせたくありません」


 女神様に見つめられる俺は見つめ返す。

 この意思は変えられないと。

 数秒、あるいは数分経ったのだろうか。それ以上長くも感じた。

 女神様がふふっと微笑んだ。


「分かりました。あなたの覚悟、意思、それに家族思いだということは伝わりました。ではその願い、叶えて差し上げます」

「ありがとうございます」

「サービスに勇夜さんのステータス、持ち物はそのままにしておきますね。お金は日本円に換金しておきます。きっと豪遊できますよ?」

「ありがとうございます。豪遊、できるかな? 元々貧乏性ですから」


 俺は苦笑いしてしまう。

 女神様はコホンとわざとらしく咳ばらいをする。


「では彼女を守ってあげて下さいね?」

「もちろんです」

「では、勇夜さんの人生に、幸多からんことを」


 言葉と同時、俺の体が光り輝き、視界が切り替わるのだった。

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