第42話【与える力】

「隊長すみません!! 今回の件は!! 今回の件はどうか見逃してもらえないでしょうか!!」


 アミは驚いた表情でクムルを見た。


「クムル……」


 ローガンもまた驚いていた。


「おいおい……」


 そして土下座するクムルを見下げウィザードは呟いた。


「随分、らしくない真似をするな……」


「こいつや、アミの、なによりも、人を、仲間を守りたいと思う気持ちは本物です……」

 

 ティグもまた驚いていた。


「クムル……」


「確かに感情的な行動は仲間を危険にさらす……けど、仲間を強く思う気持ちは、時に計り知れない力を発揮し、与える事もある……俺はグレイブ戦で、こいつにそれを感じました……」


「…………」


「命令違反がどれだけ危険な事かは、この先俺が、俺が責任をもってこの二人に教えていきます、だから今回は、今回だけは見逃して下さい!! お願いします!!」


 クムルは再び頭を床に打ちつけた。


「…………」


 そしてウィザードが再び口を開こうとしたその時、部屋の扉が開いた。


「やいお前! お兄ちゃん達をイジメるな!!」


 なんとそこに、ブンタやネルやルシールと、ティグにグレイブから助けられた人達が現れた。それを見たティグは驚いた。


「!? ブンタ!?」


 ブンタがウィザードへ拳を上げて走って行くとティグは慌てて抱き止めた。


「お、おい、まて!」


 そして暴れるブンタを抑えるティグの前にルシールが立った。


「ル、ルシールさん?」


 ルシールはウィザードへと話しかけた。


「私は、生きることを諦めていました……」


 ウィザードは黙って話を聞いた。


「次々と仲間が出荷されて行く中、あと二日、二日後に私もカーガモゥに出荷される……もう、それを受け入れていた……逃れられない運命ならば、いっそ受け入れた方が楽だと……」


「…………」


「そんな私に彼は、ティグはまっすぐな目で言いました、必ず、助けると」


 アミは不安気にウィザードを見ていた。


「その言葉の通り、ティグはあんな恐ろしい怪物を相手に、たった一人で立ち向かい、諦めずに戦ってくれました」


「ルシールさん……」


「…………」


「そんな彼を見て私は……いや、ここにいる全員、気が付いたら無心で怪物に石を投げつけてました、生を、生きる事を諦めていたのに……」


 ブンタが叫んだ。


「俺達も一緒に戦ったんだ!」


「ティグには人に力を与える力がある、少なくとも私達は、今回その力の、ティグ達のおかげで救われました」


 アミはルシールを見た。


(ルシールさん……)


「隊長さんのおっしゃる事は確かに正しい……けど、ティグのとった行動が間違っているとは私は思わない、正解なんて、決して一つだけとは限らない」


「…………」


「ティグの、このかけがえの無いない力は、いつかきっと、あなた達の隊にとって大きな力となる日が来るのではないでしょうか?」


 そう言うとルシールは床に両膝を付き、そして両手を付き頭を下げた。


 それを見たティグは驚きルシールへ声を掛けた。


「ルシールさん!?」


「今回の件、私からもお願いします、ティグ達を、許してあげて下さい……」


 するとネル含む残りの人達も全員、両手両膝を付き頭を下げた。


「私達からもお願いします!」


 するとさっきまで暴れていたブンタも同じ様に両手両膝を付き頭を下げた。


「おねがいします……」


「ブンタ、ネルさん、みんな……」


「…………」


 するとウィザードは頭を下げる人々の間を通り部屋の扉へと向かった。


 クムルは立ち上がりウィザードへ叫んだ。


「隊長!!」


 ウィザードはノブに手を掛け立ち止まった。


「ふんっ……これだけの人々を助けたのもまた事実……手柄と相殺し、今回の件は不問としてやる……」


「え……隊長……」


 するとブンタが頭を上げ飛び上がった。


「やったあ!! お兄ちゃんやったね!!」


「え……? あ、ああ……」


 そして皆も一様に喜び、アミやローガンも驚きながらも安堵の表情を浮かべていた。


「だがしかし!」


 ウィザードの声で皆が静まった。


「貴様やそこの女の言う、その小僧の根拠のない力などは、一切当てにすることはない、力とは、日々の鍛錬によりのみ生み出されるものだ、決して人から与えられるものではない……」


 そう言うとウィザードは部屋を出ていった。


 それを聞いたブンタはふてくされた様子で言った。


「なんだい! いちいち感じの悪い奴だな!」


 ティグはブンタの頭に手をあてた。


「ブンタ、ありがとな……」


「お兄ちゃん……」


 ブンタは満面の笑みを見せた。


「ルシールさん、ネルさん、みんな、本当にありがとう!」


 ネルが答えた。


「お礼を言うのは私達の方よ、感謝してもしきれないわ……」


 ルシールもまた声を掛けた。


「あんたがこの先どんな男に成長するのか、楽しみにしてるよ、がんばんな!」


「ルシールさん、ありがとうございます!」


 そしてティグはリラに額の治療をしてもらっているクムルの元へと行った。


「クムル……その……あ、ありがとう……」


「…………別に、お前の為に頭を下げたわけじゃねえよ、俺は、お前みたいな奴を助けに行っちまった自分の行動に対して否を感じたから頭を下げただけだ」


「……そ、そっか……」


 ティグがその場を去ろうとすると、クムルが声を掛けた。


「ん、ああ…………ティ、ティグ!」


「え?」


 ティグは振り向いた。


「お前のアークの出し方は荒い、あんなんじゃすぐに体力を消耗しちまう、今度教えてやってもいいから、暇な時、声かけろ……」


 ティグは驚いた表情を見せたが、笑顔で答えた。


「…………ああ! ありがとう! 頼むよ!」


 それを聞いたクムルとそれを見ていたリラは微笑んだ。


 そしてそんなティグに両手を後ろで組んだアミが近づき、肘でティグを押した。


「へっ、へへ……」


 ティグもまた両手を後ろで組み、肘でアミを押した。


「へへへ、へへっ……」


 二人は何度も肘で付き合った。


「がっはっは!! どうなることかと思ったが、一件落着だな!」


 ローガンの笑い声が響いた。





 ――別室



 ウィザードが別室で椅子に座っているとウォルが部屋へと入ってきた。


「いいんですか隊長? あんなの許して」


「ふんっ、切り捨てる事などいつでも出来る、むしろあの小僧が、いつまであの戯言を貫けるのか……すこし興味が出てきた」


「僕は面倒な事になる前に、切り捨てたほうが良いと思いますけどねー」


「……そうかもな」


「で、どうします? このあとは? 一旦サムさん達と合流しますか?」


「…………さっきのルシールとかいう女、気になる事を言っていた……」


「気になること? なんか言ってましたっけ?」


「ああ、二日後にカーガモゥに出荷される、と……」


「そういえば、たしかにそんな事を言っていたような」


「その出荷先……カーガモゥがスカールの本拠地である可能性が高い……」


「たしかに! さすが、よく聞き逃しませんでしたね」


「ウォル、お前がカーガモゥの調査に行け、その間に私達がサム達と合流し、スクラードを叩く」


「わかりました! 面子はどうします?」


「ローガン、それと、あの小僧を連れて行け」


「えー!? ティグさんをですか? だったらローガンさんと二人でいいですよー、絶対足手まといだし……」


「そう言うな、これも訓練と思え」


「どんな訓練なんですか……まあ、良いですけど、なんかあっても僕は特に助けたりはしませんよ?」


「ああ、構わんよ」


「はぁ……、わかりましたー、じゃあみんなに伝えてきます……」


 そう言うとウォルは肩を落とし、ティグ達のいる部屋へと向かった。


「…………」


 ウィザードは天井を見上げ、なにか物思いにふけた。


「与える……力……か……」


 ウィザードはゆっくりと目を閉じた。

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