第40話【窮地】

「!!??」


 アミのナイフはグレイブの右目に突き刺さった。


「グウァァァァアアアアア!!!!!!」


 グレイブはたまらず奴隷を離し右目を押さえた。


 アミは右足を庇いながらもグレイブの元へと走ると、近くにいた二体の兇獣きょじゅうにナイフを投げ、奴隷二人を立ち上がらせた。


「さあ早く逃げるのよ!!」


 アミは二人の背中を押して走らせた。


「!!!!」


 その時、背後からグレイブに蹴られ吹き飛ばされた。


「ああっ!!」


「このクソムシガアアアア!!」


 グレイブは前のめりに倒れたアミに飛び掛かり、背中に足を落とした。


「ぐはあああ!!」


 ティグが叫んだ。


「アミィィ!!」


 グレイブは鬼の形相でアミを踏み付けている足にさらに力を込めた。


「グウウ……このクソゴミムシガアア……!! よくも俺の目をおお!!!!」


 グレイブは右手指をアミへと構えると、指先から至近距離でオームを乱発した。


「あああ!!!! うあああああ!!!!」


 ティグは拳に力を入れ、怒りで震えた。


「ぐ! くっそぉぉ……!!」


 グレイブは手を止めた。


「ハアハアハアハア……」


 そしてぐったりしているアミの髪を掴み持ち上げた。


「う、ああぁ……」


 アミは意識はあるものの、もはや動ける状態ではなかった。


「このクソがぁ……ヴィルヘルムの人質は一人いればいい……」


 グレイブは爪を伸ばした。


「てめえはクソミソのミンチにして殺してやる!!」


 ティグが静かに呟いた。


「や……やめろ……」


 グレイブはアミへと爪を突き立てた。


「死ねえええ!!!!」


「やめろおおおお!!!!」


 次の瞬間、ティグは両腕両足から大量のアークを放出させ、瞬く間にグレイブの元へと突っ込んだ。


「なっ!!」


「うをおおおおお!!!!」


 ティグはグレイブを殴り飛ばした。


「グアアアアア!!!!」


 グレイブはとんでもない勢いで吹き飛ばされると岩に激突した、ティグは追撃し、グレイブの顔や胸や腹を殴りに殴った。


「おおおおおおお!!!!!!」


「ガァアアアアア!!!!!!」


 そして剣を抜くとグレイブへ振りあげた。


「!!!!」


 グレイブは咄嗟に両腕で身を守ったが、ティグの振り下ろした剣はグレイブの両腕を切り落とし、胸を切り裂いた。


「グアアアアア!!!!!!」


 グレイブは前のめりに倒れた。


「はあはあはあはあ……」


 ティグは剣をしまうとアミの元へ走った。


「アミ!!」


 ティグは倒れたアミの上半身を起こした。


「アミ!! 大丈夫か!?」


「ティグ、へへっ、やったね、凄いじゃん……」


「そんな事はないよ! アミの方が凄いって! た、立てるか?」


「う、うん……なんとかね」


 アミはティグの肩を借りて立ち上がった。その時、アミはなにかを感じ取った。


「…………」


「アミ??」


(オームが消えていない!!)

「ティグまだよ!! 気を抜かないで!!」


 ティグとアミが振り返ると、そこには立ち上がったグレイブの姿があった。


「くっ!!」


 アミとティグは構えた。


「グウウゥゥ……」


 その時、何体かの兇獣きょじゅうがグレイブの元へ駆けつけた。


「グレイブ様!! 大丈夫ですか?!」


「ウグググゥゥ……」


「グレイブ様!?」


「ガァアアアアア!!!!」


「!!??」


 するとグレイブは駆けつけた兇獣きょじゅうの上半身を噛みちぎった。


「なっ!?」


 グレイブは、近くで驚きしりもちをついたもう一体の兇獣きょじゅうにも噛みついた。


「ガウウウ!! グフゥゥゥ……」


 バリバリムシャムシャ


「ゴクン!! ゴアアアアア!!!!」


 咆哮するグレイブからオームが吹き荒れた。


「くっ!!」


「グオォォ……オオオオオ!!!!」


「なっ!? 何い!!??」


 その時、切り落とされたグレイブの両腕が再生された。


「ア、アミ!! あいつの腕が!? な、なんで!?」


兇獣きょじゅうを捕食することで自らのオームを補填した……」


「そ、そんな!?」


「実際……大分減っていた奴のオームがいくらか回復してる……」


「くっそ……!! それじゃあ切りがないじゃないか!!」


「そんなことはないわ、あいつが仲間を捕食し、完全にオームを回復させる前に、一気にケリを付ける!!」


 アミは構えた、そしてそれを見たティグも構えた。


「クックックッ……」


 するとグレイブはなぜか笑い出した。


「な、なにが可笑しい!?」


「やめておいた方が良い……」


 するとグレイブは檻の方を指差した。


「!?」


 二人が檻の方を見ると、なんと兇獣きょじゅうによってブンタ、ネル、ルシールが捕らえられ、首元には刃物を押し付けられていた。


「プンタ!! ネル!! ルシール!! くっ、おい!! 卑怯だぞ!!」


「クックックッ……まだズレたを言っていやがる……言っただろう? これは戦争だ、どんなことをしてでも勝てばいいのさ」


 グレイブは二人に近づいて来た。


「くっ!!」


 そしてティグは殴り飛ばされた。


「ティグ!!」


 そしてアミも殴り飛ばされた。


「ぐっ!! アミ!!」


「クックックッ!! 人間てのはつくづくわからねえ生き物だなぁ……あんな奴らの為に死のうってのか?」


 するとグレイブはティグとアミの胴を掴み持ち上げた。


「ぐっ!! は、放せ!!」


「ヴィルヘルムの人質は一人で十分……クックックッ……俺は慈悲深い男だ……選ばせてやる……どちらかは生かし、どちらかは今ここで食い殺す!!」


「なにっ!!??」


「クックックッ……さあどうする……?? 助かりたいのはどっちだ??」


「くうっ……」


「俺だ!!」


 アミが少し怯んだその時、ティグが叫んだ。


「食うなら俺を食え!!」


 グレイブは驚きティグに問いかけた。


「俺を食えだとぉ? 貴様……どういうつもりだ!?」


「どうもこうもない!! 食うなら俺を食え!!」


 それを聞いたアミも叫んだ。


「ティグ!! 駄目よ!! グレイブやめなさい!! どうせこいつらはあの人達を殺すわ!! もう諦めて戦うしかない!!」


 その時、グレイブはアミを掴む手に力を込めた。


「うああああ!!」


 アミの身体から、数本の骨の折れる音が聞こえた。


「アミ!! おいやめろ!!」


「この女の考え方は危険だな……よし決めた、こいつを食うことにしよう」


「なっ!? 待て!! アミはヴィルヘルムの古株だ!! 最近入った俺なんかよりずっと情報を持っているぞ!!」


「なに!? そうか……それは良い事を聞いた、いいだろう、ならお望み通り、お前を食ってやることにするか」


「くっ……ティ……ティグ……ま、待って……」


 グレイブはティグを持つ手を自分に近づけた。


「クックックッ……なにか言い残すことはないか?」


 ティグはグレイブを睨み付けた。


「お前こそ……覚悟して食えよ……」


「なにぃ……!?」


「俺は例え食われても!! お前のはらわたを噛みちぎって出てきて倒してやる!! 俺はお前みたいな汚い奴には絶対に負けない!! 絶対にだ!!」


「なにぃ……つくづく口の減らねえガキだ!! 馬鹿が!! あの世で泣いて後悔しやがれ!!」


 グレイブは大きく口を開けティグに迫った。


「くっ! ティ!! ティグ!!!!」







「おい、そんな奴を食ったら腹を壊すぞ」




 その時、檻の方から声が聞こえ、グレイブの動きが止まった。


「なっ!? だ 誰だ!?」

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