第39話【人質】

 アミは鬼気迫る表情をしており、身体からはアークが滲んでいた。


 ガレーラはアミを見て不敵な笑みを浮かべた。


「現れたか……待っていろ、今こいつの足を切り落としたら相手をしてやる」


 ガレーラは再び角を構えた。


「グアッ!?」


 その瞬間、ガレーラの腕にナイフが刺さった。


「な!? あの距離から!?」


 するとナイフが立て続けにガレーラに飛び、胸や足や腹へ、至る所に付き刺さった。


「グアアアアアッ!! ガッ!!」


 ガレーラは体勢を崩した、そして再びアミを見上げた時にはアミはそこにはいなかった。


「ど! どこだ!?」


 アミは背後からガレーラの首を切った。


「ア……アガ……」


 ガレーラは倒れティグがアミに声を掛けた。


「ア、アミ……」


「遅くなってごめんね……今、助ける……」


 ティグは剣を杖代わりにして身体を起こした。


「お、俺も戦う……」


 アミはティグにクレアルを投げた。


「ティグはこの人達を守ってあげて」


「ア、アミ……」


「大丈夫! すぐに終わらせるわ!」


 そう言うとアミはグレイブの方を向いた。


「久しぶりね、グレイブ……傷はどう?  痛む?」


「クックックッ……いいのか? お前一人で……? あの時の仲間達はどうした? まさか一人でこの俺に勝てると思っているのか……?」


「そうね……さすがに厳しいかもね……だから、今回は本気でやるわ」


 アミの身体からアークが噴き出した。


「なに?!」


 次の瞬間、アミはグレイブの前から消えた。


「!!??」


 そしてグレイブの背後に現れると後頭部を蹴り、グレイブを前のめりに倒した。


「グヲッ!!」


 そして背中に飛び乗ると、グレイブの背中に拳を連弾した。


「だあああああ!!!!」


「グオオオオオ!!!! ガアッ!!」


 グレイブが裏拳を放つとアミはそれを避け、グレイブの顔面を蹴った。


「グアッ!!」


「す、すげぇ……」


 ティグは茫然と見ていた。


「ググゥゥ!! ガアアアッ!!」


 するとグレイブは口から黒いオームの塊を吐き出した、アミがそれを避けるとオームは壁に当たり辺りが揺れ、檻内の岩が崩れ破片が人質となっている人達に落ちた。


「きゃあああ!!」


「うわあああ!!」


 ティグはそれを見ると叫んだ。


「ブンタ!! ネルさん!! ルシールさん!!」


 それを見たアミは外の広場へと飛んだ。


「グレイブ!! こっちでやるわよ!!」


「ググウウウ……」


 グレイブは怒りの表情を浮かべアミの元へと飛んだ。


「ガアアアア!!!!」


 グレイブはアミへと飛びかかり拳を突き出した、アミはそれを難なく避け、グレイブの顔面に蹴りを当てた。


「グアッ!!」


 グレイブは踏みとどまるが、口からは血が流れた。


「あんたの動きじゃあたしにはついてこれないわ」


「グウウウ……」


 グレイブは指をアミへと向けた。それを見たティグは叫んだ。


「アミ!! 気を付けろ!! とんでもない速さで飛んで来るぞ!!」


 その瞬間グレイブは指先からオームを放った。


「!!??」


 アミは放たれたオームへ向かい高速移動すると、首を捻りオームを躱し、瞬く間にグレイブの眼前へと迫った。


 そして前に出した指の下に沈み込むと、下から飛び上がりグレイブの顎へと拳を打ちあげた。


「グアアアアッ!!」


 グレイブの身体が少し浮くと、アミはそのまま回転しグレイブを蹴り飛ばした。それを見ていたブンタが叫んだ。


「やった!! 兄ちゃん!! あのお姉ちゃん凄いね!! てかグレイブなんてデカいだけで大したことなかったんだ!!」


「あ、ああ……」

(いや……グレイブが大したことないんじゃない……アミが強すぎるんだ……強いのは分かっていたけど、ここまでなんて……)


 グレイブは辛くも立ち上がった。


「グウッ!! くっそう……ちくしょうがああ!!」


 グレイブは口からオームをアミへと何度も放ったが、アミに当たる筈もなく、オームは至るとこで爆発した。


 しかしその時、一発のオームが奴隷となっていたブンタの父親の元へと飛んできた。


「う! うわああああ!!」


 それを見たブンタは叫んだ。


「とおちゃあああんんん!!!!」


 オームは大爆発を起こした。


 しかしブンタの父親の目の前にはアミが立ち、両手のアークでオームの爆発からブンタの父を守っていた。


「大丈夫ですか?」


「あ、ああ……ありがとう……助かったよ」


「ここは危ないんで、もっと離れていてください」


「わ、わかった……」


 その時、それを見たグレイブは笑った。


「クックックッ……!! ガアアア!!」


 するとグレイブは他の奴隷たちにオームを放ち始めた。


「な!?」


 アミは奴隷達の元へと走り、迫るオームから突き飛ばしてまわった。


 するとその時、一体の兇獣きょじゅう獣がアミに切りかかった。


「はっ!!」


 アミは咄嗟に避け、兇獣きょじゅうを蹴り倒したが、奴隷が一人オームによって爆破されてしまった。


「くっ!! ちょっと!! 相手は私よ!! 関係ない人を巻き込まないで!!」


「クックックッ……ガアアアアッ!!」


 グレイブは構わずオームを奴隷達に飛ばした。


「くっ!!」


 アミは奴隷達をオームから庇って回った。


「遠くへ逃げるのよ!! 早く!!」


「は、はい!!」


「キシャアアア!!」


「!!」


 するとまたも他の兇獣きょじゅうが襲いかかって来たが、アミは蹴り飛ばした。


 それを見ていたティグが叫んだ。


「おいグレイブ!! 卑怯だぞ!! 正々堂々戦え!!」


 それを聞いたグレイブは大笑いした。


「クックックッ……カーッハッハッハ!! 戦い?! なにを寝ぼけた事言っていやがる!! これは戦争だぞ!! 生きるか死ぬかだ!! 卑怯もへったくれもあるか!! 勝ったものが全てだ!!」


「くっ!! くそぉぉ……」


 その時、アミはグレイブの間近まで迫っていた。


「なっ!?」


 アミはグレイブの顔に膝を打ち込み、さらに追撃で拳をねじ込んだ。


 グレイブは吹き飛ばされながらもアミへとオームを吐いたが、アミはそれを躱し、距離を取った。


 するとグレイブが何やら笑った。


「クックックッ……いいのか? 避けて?」


「!?」


 アミが避けたオームの先にはブンタの父親が兇獣きょじゅうに押さえつけられていた。


 それを見たブンタは叫んだ。


「父ちゃん!!!!」


「くっ!!」


 アミは足元からアークを大量に放出し、ブンタの父親の元へと走った。


「!!」


 アミはブンタの父親を抱えると、背中からオームを受けた。


「くう!!」


 更に倒れた二人の上に兇獣きょじゅう達が次々と乗り掛かってきた。


「うあぁ!!」


「クックックッ……カアアァァ……ヴァルド!!」


 グレイブは両手の指を前に突き出し、十本全ての指からオームを放った。オームは渦を巻き進み、アミにのしかかる兇獣きょじゅうごと爆破した。


 それを見たティグは叫んだ。


「アミィィィ!!!!」


 ティグは檻の中にいるブンタや女性達を横目でちらっと見ると歯を食い縛った。


「く……くそぉぉぉ……」


 その時、乗り掛かってきた兇獣きょじゅうを押し退けアミが現れた、アミの身体が所々傷付いているのに対し、ブンタの父親は無傷だった。


「はあはあ……さあ早く、逃げて!!」


「は、はい、ありがとうございます」


 それを見たティグは安堵の表情を浮かべた。


 そしてブンタの父親が走り去ったその直後、グレイブはアミに襲いかかった。


「ガアアアア!!」


 アミがグレイブの攻撃から距離を取ろうとしたその瞬間、右足に痛みが走った。


「うっあ!!」


 グレイブはアミに拳を振り当てると、アミは両腕で防御しながらも吹き飛ばされた。


「ぐうっ!!」


 グレイブは不敵に笑った。


「クックックッ……この俺のヴァルドをまともに食らってただで済む筈がねえ、痛めたのは右足か? そうか? そうなんだろう? カアーッハッハッハー!!」


 ティグは拳を強く握り締め、噛みしめる口からは血が滲んだ。


「馬鹿な女だ、そんなにこの奴隷共が大事か? ……そうだ……おい!!」


 グレイブはまた不敵に笑うと兇獣きょじゅうに声を掛けた。


 アミは立ち上がり、グレイブの方見ると驚愕した。


「なっ?!」


 なんと兇獣きょじゅうが逃げ遅れた奴隷を二人グレイブへと渡し、グレイブはその二人の首を後ろから掴み、持ち上げていた。


「クックックッ……さあ、優しい優しいアミとやら……これからこの二人のうち、どちらかの奴隷の頭にお前の得意なナイフを投げろ」


「な!? なんですって!?」


「当たった方は勿論死ぬが……クックックッ……約束しよう……当たらなかった方は生かしてやる」


「くうう……」


「やらなければどちらも殺す!! 今のお前のその状態で、俺がこの二人の首を握りつぶすより早く助けることは出来まい……クックックッ……」


 グレイブは奴隷の首を握る手に少し力を込めた。


「ぐああああ!!」


「がああああ!!」


「やっ! やめろ!!」


「なら早くしろ、さあどっちに投げる?」


「ううぅ……っく……」


「チンタラ悩んでんじゃねえ!! 五秒だ! 五秒数える内にやらなかったらどっちも殺す!!」


「くっ!!」


「五!!」


 アミはナイフに手を掛けた。


「四!!」


 ティグは怒りで震え、アークが滲み始めた。


「三!!」


 アミは二人の奴隷の顔を見た。


「ニ!!」


 そしてナイフを構えた。


「一!!」


 次の瞬間、アミはナイフを投げた。

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