第5話 家族デート
週末。
俺は家族で街へショッピングに来ていた。
前に母さんにスマホを買ってもらうという話はしたと思うが、実はあれから【折角なら週末みんなで出かけようよ!ね!いいでしょお兄ちゃん! ……お願い。】と美空に可愛くおねだりされたので、家族で出かけることになっていたのだ。
「それにしても……予想はしてたけど視線が凄いな……」
俺たちは今、右手に美空の左手に母さんという並びで大型ショッピングモールを闊歩していた。
このショッピングモールはかなり都会にあることからお客さんが多く、それに伴い男性客の姿(女性付き)を多く見る。そして俺も女性二人を連れているが、彼らよりもかなりの視線が集まっている気がする。
「それはそうよ!だってはーくんだもの!」
「そうそう!お兄ちゃんなんだから!」
2人はそう言って自慢げな顔をした。……どういう意味だ?何度か聞くが、それは褒められているのか?
――しかしどうしたものか。 変装してきた方が良かっただろうか?
「なんかごめん。目立ってるみたいで。……変装でもすればよかったよね。こんな事になるなんて思わなかったよ。」
折角の家族での買い物なのに、二人に迷惑をかけてしまった。
……罪悪感を感じる。
「――何言っているのよ! 私たちのことは気にしなくていいのよ!」
「そうだよお兄ちゃん! お兄ちゃんは全然悪くないよ! そもそもお兄ちゃんと買い物行きたいって言ったのは美空だよ!」
二人はそう言って俺を励ましてくれた。
「そ、そっか!なら良かったよ!」
……どうやら俺の杞憂だったようだ。
「――それに! 例え変装してたってお兄ちゃんのカッコよさが隠せるわけないじゃん! 」
「うんうん。美空の言う通りよ!」
そう言って美空は美空なりのフォロー(?)を入れてくれた。
「ならっ! わざわざ隠す必要ないし、何なら見せつけたほうが良いに決まってるよね!」
……ん?
「そうよ!それに周りに、はーくんの事自慢できるわ!」
おい?! 母さん?! あんた……そんなキャラだったっけ?! 息子が心配じゃないのか?!
「それある!」
「ないわっ!」
変なこと言うから突っ込んでしまったじゃないか……。
一体鳴瀬家は大丈夫なのだろうか……。すごく不安だ……。
「それに、…………はーくんを害そうとしたら私が許さないわ」
そう言うと母さんは、普段とは全く異なる容貌を浮かべた。
……おっと母さん、その目はだめだ!それは人を〇った奴の目だぞ!!
もしかして母さんって……いや……止めておこう。聞いてしまったらもう後戻りはできないんだ。
今回は聞かなかったことにしよう! うん!それがいい!!
と、とりあえず、……母さんのことは怒らせてはいけないということが分かっただけでも良しとしよう。
俺に向けられることは無いだろうが、くれぐれも俺に危害を加えるつもりの人がいれば、是非とも考え直してほしい!…………死ぬぞ? いやマジで。
……その後俺たち(3+約50名)は、長蛇の列を成しながらも順調に買い物を続けていった。
学園に必要なもの、家で使うもの、そしてスマートフォンだ。
そしてついに俺は、文明の叡智の結晶であるスマホを手に入れた!これでハーレムへの道もだいぶ近づいた!
これを使えば通話もチャットもできるし 楽しみだ!
そう浮かれていた俺はつい、買ったばかりのスマホを手に持って店を出てしまった。……後にそれを見た人々による購入合戦が起こるとも知らず。
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ショッピングモールに来てから約3時間。
一通り買い物を済ませた俺たちは、夕食を食べるためにファミリーレストランにいた。
このファミリーレストランは、この世界では至って普通のチェーン店である。
母さんはフレンチとかの高級料理を進めてきたが、俺はこういう庶民料理の方が好きだったりする。
……体は変わっても心は庶民のままなのだ。
「それにしても相変わらず凄い数の人だね。 ……もう満席じゃん」
満席になったレストランを俺は呆れつつ見渡した。
「そうね。 空いてたからここにしたんだけど埋まっちゃったわね……」
「本当だね……いつの間に…… 」
実はここを選んだのは、かなり空いていたからという理由だったりする。
常に周囲からの視線を感じて疲れたので、空いている店に避難したわけだ。
しかしそんな願いが叶うはずもなく、入店して5分も経たずに満席になった。
(……素直に高級料理店に行けばよかったな。そうすれば個室だっただろう)
いくら女性が好きでも疲れるときは疲れる。俺だって休みたいときは休みたいのだ。
少し人気アイドルの気持ちを理解できたかもしれない。
(……今後はなるべく個室のある店にしよう。……店員さんも大変そうだしな)
予想外の客数で忙しそうにしている店員に心の中で詫びつつ、俺はそう固く決意した。
「――じゃあメニューを選びましょうか! 勿論好きなもの頼んでいいわよ!」
少し疲れた顔をした俺を見てか、母さんはそう言ってメニューを渡してくる。
……母さんには敵わないな。
「ありがとう。じゃあ…………うーん、じゃあハンバーグかな!結構美味しそうだし!」
母さんの気遣いを無駄にしないためにも、俺は元気に振舞うことにした。
……それにハンバーグって時々食べたくなるんだよね。噛みしめた時のあの肉汁がたまらない。
「ほんとだ! じゃあ私もハンバーグにする!お兄ちゃんと一緒!」
美空はそう言って笑顔を向けてくる。…………妹ってどうしてこんなに可愛いんだろうか。
俺は思わずラノベのタイトルみたいな感想を抱いた。
「そうね。…………じゃあ母さんも!」
こうして俺たちは全員が同じメニューを注文した。しかし……同じハンバーグなのはいいのだがソースの味まで一緒なのはどうなんだろうか。
そう思った俺はここで奇策を放つ。それは――――所謂食べ合いっこである。食べ合いっこするのなら味を変えてくれるだろう。
「す、すみません! ソース変更お願いします!」
「み、美空も!」
案の定俺の策略に嵌った二人は嬉々としてソースを変えた。どうやら食べ合いっこがしたかったようだ。
……そしてその事に喜んでいる二人は、注文を取る店員から羨ましそうな視線を受けていたのだった。
そして注文を取り終えた店員が戻ると同時に、他のテーブルのベルが一斉に鳴りだした。
嫌な予感を感じつつも耳を澄ませると…………どのテーブルもハンバーグを頼んでいた。
一方、注文が一瞬遅くなったテーブルでは、在庫切れによってハンバーグが頼めなくなり店員が謝罪していた。
……本当にごめんなさい店員さん。迷惑をおかけします。
(薄々感じていたが、どうやら俺の影響力は途轍もないようだ。……これから色々気を付けよう。)
1人の儚い犠牲によって、鳴瀬隼人は自分の影響力を自覚しだしたのだった。
――その後、三人で仲良く食べ合いっこをしている姿を見せられた客と店員は、嫉妬や羨望の眼差しを送る者もいれば、顔を赤らめながらもぞもぞと動く者、果ては気付かれないようにそっとお手洗いに発つ者もいたという。
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