第10話・「あたし、どっちでオシッコすればいいんですか?」

 異世界の勇者の逆転生者で保健室の先生──『異布院 勇奈いふいん ゆうな』が勤める学校の【オカルト研究部】部室


 黒いカーテンで室内を隠された部屋で、今まさに怪しげな儀式が一人の女子生徒の手で行われようとしていた。


「フフフッ、やっとこの日が来た……どれだけ、田舎の廃校から、コレを運んでくるのに苦労したコトか」

 魔女のトンガリ帽子をかぶり、怪しげな書籍を開き持った。

 オカルト部部長の視線の先には、ブルーシートに仰向けで横たわる、人間の骨格標本があった。


「最近はなかなかレアなのよね、本物の人間の骨で作られた骨格標本……しかも、若い女の骨となるとさらに希少で」

 テーブルの上に背表紙を上にして、開いた本を置いたオカルト少女は、ブルーシートの上に置かれた骨格標本を眺めながら、レジ袋の中から一本の人骨を取り出して呟く。


「やっぱり、樹海で見つけた人骨の中では、この骨が一番ね……太さといい、長さといい、曲がり具合といい……どうしょうか? この男の骨? そうだ、どうせなら、ここに男の骨を」

 うっとりとした表情で、男の人骨を擦っていたオカルト部の部長は、ブルーシートの上に横たわる女性骨格標本の股間部分に男性の人骨を置いて言った。


「これで【魔導反魂の秘術】を骨格標本に施して人体形成してみますか……どんな風に仕上がるのか楽しみ……フフフッ」

 オカルト部の部長が怪しげな本に書かれていた呪文を唱えると、骨格標本が霧に包まれ肉づけされていった。


  ◇◇◇◇◇◇


 数日後──保健室にいた、勇奈のところに魔女帽子をかぶったオカルト部部長がやって来て言った。

「お久しぶりですぅ、『竜崎 黒斗りゅうざき くろと』先生から性的な悩みがあったら、保健室の勇奈先生が解決してくれると言うので来ましたぁ」


 訝しそうな表情で、オカルト部部長の顔を眺める勇奈。

「お久しぶりって……初対面なんだけれど」

「あはははッ、やっぱりわかりませんか……よく見てください、前の姿は白髪で顎ヒゲを生やしていましたけれど」


 魔女帽子をかぶった女子生徒の顔を凝視していた勇奈は、何かに気づいて椅子からコケる。

「まさか、あなた……暗黒ドラゴンに魂を売って、人間なのに黒竜軍の軍門に下った邪悪な魔導師のジジイ⁉」

「当たりですぅ、今は逆転生した巨乳の女子校生ですけれど」


 逆転生女子高校生は、胸を張って勇奈に巨乳を見せびらかす。

「どうです、あたしの方が元勇者よりも胸大きいでしょう……ほれほれ」


「ケンカ売ってんのか! 胸自慢するために保健室に来たの!」

「いえいえ、真剣な悩みがありまして……勇奈先生は、高野山で寂しさから人骨を集めて秘術で人造人間を作った、坊主の話を知っていますか?」

「知っているわよ西行の、反魂秘術の伝説でしょう」


「さすが、勇奈先生……実はあたしも、反魂の秘術をマネて人骨から、人造人間造ってみましたぁ……異世界の黒魔導師の知識と、この逆転生した世界で得た知識を使って」


 思わずズルッと椅子からコケる勇奈。

「なにぃぃぃ⁉ あんた、何やっているの? 人間を作ったぁ?」

「お菓子作りよりも簡単でしたよ、素材の骨を集めるのは大変でしたけれど……最初は市販されている揚げた、骨つき鶏肉を食べて。その骨で人間造ろうとしたけれど、効率悪すぎて断念しました」

「そりゃそうよね」


 オカルト部部長の話しは続く。

「次にやったのが、週末に自殺名所の樹海に入って人骨集めを……これも、思った通りの良質な人骨が見つからなくて。危うく自分自身が樹海の中で白骨死体化しそうだったのでやめましたぁ」

「ミイラ取りがミイラに……いや、白骨収集が白骨死体になったら笑えないわよね」


「そこで、いろいろ考えてインターネットで検索して、廃校になった学校の理科室に放置されていた。骨格標本を見つけて、廃校から盗み……もとい、再利用するために持ち出して運んだんです。いやぁ、運ぶのに苦労しました……あはははっ」


 魔女帽子をかぶった女子生徒は、取り出した運転免許を勇奈の方にビシッと自慢気に向けて見せた。

「骨格標本運ぶために夏休みに免許取って、スクーター買いましたぁ」

「世界で一番、意味不明な免許証の取得理由ね」

「いやぁ、この学校の部室まで運んでくるのに、警察に見つからないかビクビクもんでしたぁ、骨格標本に服着せてスクーターに二人乗りしているように見せかけて……なんとか、部長に運び込んで、秘術をかけたら人造人間できちゃいましたぁ! あはははっ」


 あっけらかんとした表情で、とんでもないコトを言った女子生徒に、勇奈は頬の辺りをヒクヒクさせながら質問する。

「あんたねぇ、それで悩みというのは禁忌を犯した罪悪感?」

「いいえ、悩みはあたしじゃなくて……人造人間の方で、保健室に入ってきてもいいわよ、勇奈先生に事情は説明したから」


 保健室のドアが開いて、控えめで物凄い制服姿の美少女が一礼して部屋に入ってきた。

 オカルト部部長が、自分自身が作った人造美少女に向かって言った。

「じゃあ、後は自分の口から話して勇奈先生に悩みを解決してもらいなさい……あたしは帰るから」

「はい、マスター」


 人造美少女と二人だけになった勇奈は、なんとか少女に話しかける。

「えーと、本当にあなた……さっきの女子生徒に造られたの?」

「そうみたいです」

「悩みは何?」

「コレを見てください」


 美少女はスカートを穿いた腰を勇奈の方に突き出す。

 股間の所に、男性特有のエレベストの膨らみがあった。

「あなた、まさかそれ」

「はい、オ●ンチンです、骨入りの……ずっとったままです」

「陰茎骨が入ったペニス⁉ なんてモノを女の子の体に……悩みはそれを取ってもらいたいと、そんな外科的な悩みはあたしでは……」

「いいえ、結構コレ気に入っているので付けたままで大丈夫です……悩みは【あたし、男の子と女の子のどっちの部分でオシッコしたらいいんですか?】」


 美少女の口から出た言葉に派手にコケる勇奈。

「なななななっ! あなた、何言って?」

「どっちの尿道でも、オシッコできるんですけれど……どの場面で、どっちを使ったらいいのか悩んじゃって。教えてください! どう使いこなせばいいのか」

「ち、ちょっと待って……素数を、いやこれは素数を数えたり、異世界の前世知識で解決できる問題じゃないな……洋式便座に座って用を足すなら、男女の関係は無いけれど」


 しばらく腕組みをして考えていた勇奈が、美少女生徒に言った。

「一緒に来て、学校の外に出て野外授業するから」

 勇奈と人造美少女は、学校外の河原の土手道を歩く。

 途中の自動販売機で買ったミネラルウォーターのペットボトルを、人造美少女生徒に手渡して言った。

「それ飲みながら一緒に歩いて、尿意を感じたら遠慮なく言って」


 しばらく歩いていると、人造美少女がモジモジしはじめた。

「勇奈先生、オシッコしたくなりました」

「グッドタイミング」

 勇奈が土手にある草の茂みを指差す。

「ちょうどいい、高さの茂みがあるから。あそこでしゃがんで女の子の方で、野ションしなさい」

「あそこで、オシッコするんですか? 背中丸見えですよ」

「これは、野外の特別授業だから」


 人造美少女は、言われた通りにしゃがんでパンツを下ろすと、女の子の部分で放尿をして勇奈のところにもどってきた。

 美少女に、まじめな顔で質問する勇奈。

「どう? 気持ち良かった?」

「はい、スッキリしました」


 また、水を飲みながら歩いていた美少女が、困り顔で勇奈に言った。

「すみません、またオシッコしたくなりました」

「グッドタイミング」


 小型犬の散歩をさせている小学生の女の子が、こちらに向かって歩いてくるのが見えた。

「今度は道路に背を向けて、立ったまま男の子の方で放尿しなさい……そこの道路標識の根元に向かって」

「立ちションするんですか?」

「そうよ」


 スカートをめくりあげた美少女が、パンツを下ろして放尿している後ろ姿を、犬の散歩をさせている小学生の女の子は不思議そうな顔で通り過ぎて行った。

 放尿の終って、パンツを穿き直した美少女に勇奈が言った。

「それが答えよ、臨機応変に状況に合わせて、使い分ければいいのよ……女子トイレが満室だったら、男子トイレの小用便器で立ったままオシッコしなさい、あなたの体はどこてもオシッコができる素晴らしい体なのよ」


 悩みが解決して自信を持った美少女は、晴れ晴れとした表情で勇奈に頭を下げた。

「ありがとうございます勇奈先生、なんか悩んでいたのが小さいコトのように思えてきました……あたしの骨が入ったオ●ンチン触ってみますか? 今なら自信に満ち溢れていますから」

「遠慮しておく」

「そうですか、ところで、あたしを造ったマスターが言っていたんですけれど……男の子の方からはオシッコ以外にも、別のモノが出るって……何が出るんですか?」


 赤面した勇奈は、小声で。

「そんなコト、外で言えるか」

 そう呟いた。


  ~おわり~

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