不思議な寺の史都

「…なんと水鳥…ではなく、なんと史都の頭が、お寺に置かれていたですと〜」


 お昼過ぎ。ここリビングの片隅に、帝都の声が響きました。


 そう、この『魚〇戦ゲーム』仲間からの電話によって、彼は上記の事実を知ったのです。


 でも、締め切り間近小説の原稿ゆえに、帝都は外出不可。ということで、ここは当事者たる史都が、そう…あの人形供養で有名という、彼女の頭が安置されているお寺へと向かいました。

 

 いまは、同型の頭部を持つとはいえ、それがそこにあると知った日には、やはり取り戻したいのが、人(形)情というものだからです。


 さておき、やがてそのお寺…増長寺ぞうちょうじの門をくぐった辺りで、史都はセーラー服姿のカワイ…くない中年男性を見かけました。


 おまけにツインテール。ここ境内の中、それ変態が奥へと向かって駆けていきます。


「なんだか、面白い人です〜」


 なんて、つい史都が後を追う一方、まもなく彼は、ある建物の軒下に。


「もしかして、この中に住んでいるんでしょうか〜」


 たぶん違うのはともかく、小さなバッグ片手に史都が、ふと、その軒下を覗き込むや否や、


「わ〜…」


 あら不思議。まるで吸い込まれるかのよう彼女の身が、その暗闇の中へと消えてしまいました。


 

 そして…


「…ここは、どこでしょうか〜」


 軒下に吸い込まれたはずにも、いまや青空の下。はたと目を覚ますや史都が、とりあえず半身を起こしました。


 ええ、彼女ときたら持参のバッグを傍らに、いままでそこに倒れていたのです。


 して見れば、この風景…どうやら、同じくお寺の境内のようですが、その建物群の色合いや周辺の景色が、さっきまでとは随分と異なる感じです。


「これ、お若い娘。そこで、なにをしているのでござんしょう」 


 おや、その史都の脇から、誰かが声を掛けてきました。


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