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 大気圏に突入後、やがてクスノキファミリーの宇宙船が、目指すへルギーのブリュリュッセルに到着しました。


 で、その宇宙船を一旦、専用ポートのコインパーキングへ。4人揃って、同船に収納の小型浮遊自動車に乗り換え、例のゲオルゲ博士の自宅へ向かいます。


 そして、テイトを運転席に、ゆく事しばし…


 午後3時を少し回った頃、彼ら一同の乗る車は、いよいよゲオルゲ博士の自宅にやって来ました。


 にしても、それは自宅とはいえ、なにやら研究所を兼ねた広く立派なもの。しかも、マンガやアニメに登場するような、奇抜なデザインの建物となっています。


 はてさて、比較的コンパクトかつスペーシーこれまたご想像あれにして、ソファやローテーブル等が置かれた当宅の応接室にて、ただいま一同が会話中であります。


「…そうでしたか。それは大変だったでしょう。でも、ここへ来ればもう安心です。ユアさんが無事にティア星に帰れるよう、すぐに便宜をはかりましょう」


 白衣姿でソファに。一見、マッドサイエンティストっぽい爆発白髪頭の、そのじーさん…あいや、初老の御仁こそが、かのゲオルゲ・ラーラ・シュタイン博士(65歳)です。


「ありがとうございます。なんとお礼を申し上げていいか…」


 クスノキファミリーともども、同じくソファに座った姿。向かいのゲオルゲ博士に対し、ユアさんが一礼しました。


「よかったよかった〜。これで安心だ〜」


 テイトもまた嬉しそう(に見える)です。


「まあ、宇宙船の手配等に3日ほどかかってしまうとは思いますが、それまではここにお泊まりください。なにも遠慮はいりませんよ」


「ありがとうございます」

 

 と、話が纏まったところで、


「では、ぼちぼち我々は失礼させて頂こうか〜」


 テイトが言い出しました。


「ですわね、あなた〜」


 まだお仕事の途中。先述のように、クスノキファミリーはトウキョウに向かわねばなりませんのでね。


「いやいや、まだいいではありませんか。あなた方は、悪しきティア星人狩りからユアさんを救った、言わば英雄です。ぜひディナーでも御一緒したいですな」


「ありがとうございます〜。しかし、実は我々は、まだ仕事中でして〜」


「お誘いありがとうございます〜」

 

 テイトとコトが、丁重(なつもりで)にお断りしました。


 本当は、ディナー食べたいです〜(シトのみ心の声)。


「そうですか。んいや、それは残念です。では、また別の機会に、ぜひお立ち寄りください。これは、社交辞令ではありませんよ」


 なっはっはっは〜っ…と笑いながら、名刺など渡してくるゲオルゲ博士を前に、


「ありがとうございます〜。では、本日はひとまずこれで〜…と、その前に、ちょっとトイレをお借りしたいのですが〜」


 立ち上がりつつテイトが言いました。


 そう。いかに人形といえど、なにか飲んだり食べたりするからには、トイレに行くんです。これまた、ご了承あれ。


「トイレでしたら、まずこの部屋を出て、右に進んで突き当りを左に曲がり、さらにそのまま20歩ほど進んだ後、階段を降り、そこから約8メートル『ポウッ!』と言いながらムーンウォークしたところにあります」


 うぬぬ、なんだか難しそうですが、平気でしょうか。


「とにかく行ってみます〜」 


 という訳で、この場にコトとシトを待たせたまま、テイトは当室を後にしました。

 

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