史都の正体

「ねえねえ、凛。これ、史都に似てない?」


 登校するや、スマホ片手に凛の席へやってきた三つ編み美少女は、笹本久美です。


「ん、どれどれ…」

 

 久美が机の上に乗せてきたスマホの画面を、ちょいと凛が覗けば、そこに映るは、セーラー服姿の女の子…の人形の画像です。


「わ、ほんとだ。確かに、よく似てる…って、久美。これ、なんの人形? すんごいリアルだけど…」


 すると久美が、にわかに小声で言いました。


「これね、ラ〇ドールだって、さ」


「え、ラ〇ドールって、まさかあの…?」


 凛もまた、こそこそと。


「そう、あの…ね」

 

 なるほど、そこはイマドキの娘か。その主な用途については、凛も久美も、しかと把握しているようです。


「しっかし、久美ってば、こんな画像を見る趣味があったの?」


「んいや、違うわよ。海外に留学してる私のお兄ちゃんが、友達の家にあったとかで、わざわざ画像を送ってきたの。史都ちゃんに似てるだろ…って」


 いやはや、その友達も友達なら、兄も兄です。まったく。


「いや〜、それにしてもよく出来てるわ〜」


「なにが、よく出来てるんですか〜」


「うわっ、史都ったら、いつの間にっ!?」


 ウィッグこそ黒髪になりましたが、いまやすっかり元通りの姿。本当に、いつの間にか史都が、ラジカセを手に凛の背後に立っています。


「あいや、あのその…そうそう、史都は勉強がよく出来てるな〜、っていう話よ。うん、そうなのよ」


 などと凛が誤魔化す間に、ささと久美がスマホを収めたところで、


 き〜んこ〜ん〜か〜んこ〜んっ…


 始業のチャイムが鳴り響きました。いそいそだらだら、それぞれ動きに差はあれど、皆が皆、自身の席へと戻ってゆきます。


 さて、その後ホームルームとなってからも、しばし凛は考えていました。そういえば史都は『何の人形』なのか、と。


 …う〜ん、そうね。この際だから、確かめてみようかな…


 史都とは逆に、廊下側は最後尾の席。自身の心で、ひとり呟く凛です。


 しかし、確かめるにしても、一体どうやって?


 …やっぱり、この方法が一番手っ取り早いわよね…

 

 なにか考えがあるようです。やや遠く、史都の横顔に向かって、凛が小さく頷きました。

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