10:孤児院とクリーン

 ギルドを出た私達は、沢山の人々が行き交う街中を進み、孤児院を目指していた。


 その間に固有スキルは誰しもが持っている物で、スキルポイントを得て取得する事の出来るスキルとは全く違うのだと教えてもらった。


 エリナさんは固有スキルに【風の愛し子】と言うものがあるそうで、風魔法を通常よりも上手く扱えるんだとか。


 そして、アルスさんの場合は【剣の道】と言うスキルを所持しているようで、剣術に関わるスキルを修行によってレベルが上がりやすくなると言う効果があると言っていた。

 そのお陰で剣術のレベル3を取得出来たんだと教えてくれたんだけど、そろそろレベル4を取得出来そうな気がすると言っていて、努力が目に見えて実るそんなスキルはとてもアルスさんに合っていると私は思った。


 そんな話をしていると、リサは暇だと思ったのか少しご機嫌が斜めになってしまったのか、頬を膨らませながら私にピッタリとくっついている。

 後でしっかりご機嫌取りをしないとだね。


「さぁ、ここがこの街の孤児院よ」

 エリナさんがそう言うと、大きな教会の横にある建物を指差した。


「大きいですね⋯⋯」

 その孤児院には大きめの庭があるようで、子供達の楽しそうな声が聞こえてくる。


「この街にはね、冒険者の子供なんかも多く居て、そんな子供を預かってくれたり、万が一があった冒険者の子供を保護してくれたりと、冒険者からすれば無いと困る施設なの」

「孤児が住むだけじゃ無いんですか?」

「そんなに孤児が大量に出てしまう状況自体がおかしいんだからね?」

「や、やっぱりそうですよね」

「とりあえず、リナとリサがここに住めるか聞く為にも中へ入ろうか」

「はい!」

 アルスさんが私にそう告げると一緒に中へ入っていった。



「おやアルスにエリナじゃないですか、どうしたんですか今日は」

 中へ入ると、それなりに年をとったシスターさんがアルスさん達に声をかけた。


「シスター久しぶり、元気そうで嬉しいわ」

「シスター、久しぶりだな。

 今日は相談があって来たんだが⋯⋯」

 アルスさんがそう言うと、チラッと私達を見た。


「そこの子供達ですか?

 見た感じ二人とも8歳くらいみたいですが⋯⋯」

「こっちのリナが10歳で、こっちがその妹のリサが8歳だ」

「⋯⋯話を聞かせてくださいますか」

 シスターは私達を見ると、寂しげな顔をして、アルスさんにそう言った。


「あぁ、リナも良いか?」

「はい」

 そうしてアルスさんがシスターさんに私達の事情を話しはじめた。


「なるほど、ご両親を⋯⋯

 大変でしたね、ここで良ければいて頂いて構いませんから、今は心の傷を癒すと良いでしょう」

「ありがとうございます、でも私は出来れば冒険者として活動したいと思っています。

 ずっとお世話になる訳にもいきませんから⋯⋯」

「分かりました。あなたの決定をどうこう言うつもりはありませんし、あなたの年になれば冒険者になる子がとても多いのは事実です。

 特に孤児院のように両親の庇護がない子供の場合は。

 ただあなたを失うとリサちゃんは間違いなく傷つきます。それだけは、絶対に忘れないでください」

 シスターさんは私にそう言ってくれた。

 リサを悲しませる訳にもいかないし、安全第一でやっていきたいと思う。


「もちろんです! 私が出かけている間、リサの事、よろしくお願いします!」

「⋯⋯リサちゃんも、大丈夫?」

 私がそう言うと、シスターさんはリサにそう声をかけた。


「おねぇちゃん、ぜったい戻ってくる?」

「うん、約束する」

「じゃあ、わたし、がまんする!」

 リサは少し寂しそうな顔をしながらも健気に笑顔でそう答えた。

 こんな顔されたら死ぬに死ねないよ。


「はぁ、私としてはあなたみたいなまだ小さな子に冒険者なんてさせたく無いのですが⋯⋯」

「一応、基礎の基礎は俺たちが教えた。

 それにリナは薬草の知識があるらしい、薬草採取なんかの依頼でも食っていけるだろうさ」

「薬草の知識が⋯⋯? あれは錬金術師の間で秘匿されているとまで言われる物、まさか親御さんが?」

「いや、俺にはわからないぞ」

「私も知らないわよ?」

「そ、そんな大した物じゃないですよ!?」

 私のお母さんはいつも色々な薬草について教えてくれていた、だけどお薬だとか錬金術なんてやっている所は見た事が無い。


 ⋯⋯流石に隠れてやってたら、わからないけど。


「まぁそれは一旦置いておきましょう、とりあえず空いてる部屋に案内しますが、掃除をしていない部屋なので気を付けてくださいね」

「はい!」

「はーい!」

 シスターさんの案内で私たちがお世話になる部屋へ向かうと⋯⋯そこは埃だらけの部屋だった。

 でもお掃除すれば全然大丈夫そうで、ベッドもちゃんとある。

 こんな良い部屋に良いのかな?


「ここがあなたたちの部屋になります。

 お掃除は大変だと思いますが、頑張ってくださいね」


 シスターさんがそう言うと少しして突然コメントが書き込まれた。


  :急にごめんね、生活魔法のクリーンを使ってお掃除とかって出来ないの?こうなんて言うか、部屋全体にクリーンをかけるイメージでさ!

リナ:あっ、確かにそう言われるとそうですね⋯⋯試してみます!


 何故私は気付かなかったのだろうか。

 自分の汚れを綺麗にするクリーンならお掃除だって出来そうな気がする。


「なるほど⋯⋯【クリーン】!」

 頭の中で部屋中にクリーンをかけるイメージでクリーンを発動する。


「「「えっ」」」

 シスターさんにエリナさん、アルスさんも目の前で起きた光景に驚いていた。


「⋯⋯凄い、本当に使えた」

 かく言う私も本当に出来るなんて思わなかったのだけど。

  :すげえええええええ!!!!

  :俺もクリーン使いたいなぁ、俺の部屋汚いし

リナ:そうなんですか?

  :なんか面倒でさ、そのままにしちゃうんだよね

リナ:ふふっ、なんでも出来そうな人だと思ってました。なんだか意外です

  :⋯⋯俺はそんな大した人間じゃないよ

リナ:そうですか? 私をこうして助けてもらえただけでも、本当に嬉しかったですよ


「り、リナ!? 今あなた何を!?」

 コメントとお話ししていると、固まっていたエリナさんが突然私にそう詰め寄ってきた。


「え、えっと、クリーンですけど⋯⋯」

「クリーンでお掃除なんて出来たの⋯⋯初めて見たわよ⋯⋯」

「お、俺もだ⋯⋯」

「私も初めてですね⋯⋯お小遣いあげるので他の部屋もお願い出来たりしませんか?」

「お、お小遣いですか!?」

「ここまで綺麗にされたら、あげたくもなるわよ⋯⋯」

「まるで新品だな⋯⋯」

 どうやらお部屋全体にクリーンをかけるのはやっぱり普通じゃなかったようです。


  :リナちゃん、なんか⋯⋯ごめん

リナ:いえいえ、むしろお掃除が楽になったのでありがとうございます!

  :固定観念って怖いなぁ⋯⋯

リナ:見方一つでこうも変わる物なんですね⋯⋯

  :それもだけどクリーンの綺麗にする能力の高さにもびっくりだよ

リナ:確かに、そうですね⋯⋯


 コメントで謝られてしまったけれど、私としてはとてもいい発見に繋がったと思うから、気にしないで欲しいんだけどな⋯⋯


「と、とりあえず部屋はこれで綺麗になりましたし、荷物などがあれば置いてもらっても大丈夫ですよ」

 シスターさんもやっと落ち着いたのか、私達にそう言ってくれた。

 これで落ち着けるかな⋯⋯それにしても、ベッドなんて、どれくらい振りだろう。


「はい! これからお世話になりますっ!」

「おせわになります!」

「はい、ここを自分の家と思って過ごしてくださいね」

 私達はお礼と挨拶をすると、シスターさんは笑顔でそう言ってくれた。


 これで今日から住む場所も確保出来たから、明日から頑張らないと⋯⋯!


 なんてそんなことを考えていたら、突然アルスさんに話しかけられた。


「なぁ、リナ」

「は、はい?」

「スキルについて、詳しく教えて貰えるか?」

「⋯⋯固有スキルの方ですよね?」

「あぁ、隠すような物でも無いから俺たちは話したが、もしかして、喋りにくいスキルだったりするのか?」

「話す事は出来ます、けど、信用してもらえるかどうか⋯⋯」

「どう言う、事だ?」

「⋯⋯ちゃんと説明します」

 私は異世界配信スキルについて説明する事にした。

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