7:はじめての魔物討伐!

 エリナさん達と一緒に初めて過ごした夜も明け、朝になると軽くご飯を食べ、私達は再び街へ向かって歩く事になった。


 誰かと過ごす夜は安心感があったのか、少し深めに眠ってしまったのが恥ずかしい⋯⋯


「それじゃ、行きましょうか」

「はい!」

 エリナさんがそう声をかけると私達は直ぐに出発した。


 道中は二日目にもなると景色にも見慣れてきたけれど、私の知っている世界がいかに狭かったのかを実感する事になった。


 歩いても歩いても街は見えなくて、どれだけ歩くのかと思ったけれど、エリナさん達曰く、馬車を使っても1ヶ月かけて行くような街も中にはあるんだって。


 もう想像もつかないよね。


 ただ今回私達が向かっている街はそこまで遠くない位置にあるらしくて、あと一日か二日もあれば到着するんだとか。


 そして街へ向かっている途中、お昼頃に街道の脇から何かが飛び出して来た。


 配信中だったのもあって、動きがあったのを知ったのかコメントも来た。


 私も初めての経験で、かなり緊張する。


「こっちに向かって来るとは思ったが、魔物だったか」

「ゴブリンくらいならすぐね」

「ひぇっ⋯⋯おねえちゃん、こわいよぉ⋯⋯」

「り、リサは私が守るからね!」

 私は勇気を出してそう言うと、私を見ながらアルスさんがナイフを差し出してきた。


「⋯⋯ここで怖気付くようなら普通の仕事でも紹介しようと思っていたがリナ、やってみるか?」

「えっ?」

「じゃあまずはレベルアップを目指さないとよね? 動きを封じるから、トドメはリナちゃん、やってみて?」

「⋯⋯は、はい!」

 動物を殺す事は今まで何回もやった事があるんだ、だからこの魔物だってきっと⋯⋯


  :リナちゃん頑張って!

リナ:ありがとうございます! 頑張ってきます!


 コメント欄でも応援してくれるコメントがあった。

 だから私は勇気を振り絞ってナイフを強く握った。


「じゃあまずは私が魔法を使うわね!」

【ウインドカッター】

 そう魔法名を口にしたエリナさんは杖を振ると杖の先から何かが飛んでいった。


 ⋯⋯すると、ゴブリンと呼ばれた魔物の足は綺麗に切断され、動けなくなっていた。


「リナ、あとはコイツの心臓や頭を潰せば終わりだ」

「⋯⋯は、はい」


  :ウグッ、ぐ、グロい⋯⋯けどモザイクかかるんだな⋯⋯助かったよ

リナ:だ、大丈夫ですか?

  :俺は大丈夫だけど、配信停止とか大丈夫だろうか⋯⋯


 配信停止、って何だろう?


「⋯⋯リナ?」

「大丈夫です、やります!」

 一瞬考え事をしていた私は渡されたナイフを、勢いよくゴブリンの心臓に突き立てた。


 武器を離していたゴブリンが私を離そうと手を伸ばしていたけれど、その手が私を捉える事は無く、しっかりと心臓にナイフが突き刺さった。


「ゴブッ」

 小さな断末魔の声を上げながらゴブリンは死んだ。

 口から血を吐き出す姿は今まで殺して来た動物よりも人間に近く、気分が悪くなった。


「よくやったなリナ、凄いぞ」

「えらいわよ、リナちゃん」

「おねえちゃんすごい!」

「あ、ありがとう⋯⋯ございます⋯⋯」

 二人が笑顔で私の頭を撫でてくれるし、リサに至っては輝くような目で私を見て来るのがなんだか恥ずかしい。

 結局二人の力を借りて倒したんだから私の力とは言えないと思うし。


 人間に近い見た目をした生き物を殺した事による罪悪感のような物を感じていると、アルスさんが続けて言った。


「リナ、魔物を殺したら心臓にある魔石を取るんだ、そうすればお金になる」

「魔石、ですか?」

 魔石と言えば魔道具を動かす為に必要な物で、小さな物でもそれなりの値段がした記憶がある。


 昔お母さんと魔石を買いにお買い物に行ったりしたっけ⋯⋯


 そんな事を思い出しながら、アルスさんに大体の位置を教えて貰うと、昔見たことのある小さなサイズの魔石を取り出す事が出来た。


  :殆どモザイクで見えないけど、大丈夫?

リナ:魔物の解体を教えて貰ってました、ちょっと気持ち悪いですけど、魔石って言うのを取るとお金に出来るらしいです!

  :なるほど、冒険者らしいね、俺には無理だよ⋯⋯

リナ:大丈夫ですよ!やってみたら何とかなりますよ!


「うん、上手く出来たな」

「やっぱり動物を食べるためにある程度処理をした事があったのがよかったのかしら?」

「前と違ってナイフがあるのですごくやりやすいです!」

 前なんてちょっと鋭い石を使って切ったりしていたから、ちゃんとしたナイフの使いやすさに感動しちゃったのは内緒。


「よし、あとはコレを燃やして⋯⋯と」

「燃やすんですか?」

「あぁ、魔物の死体を魔物が食うと魔物が増える原因になるからな、基本的に燃やすか、燃やすのが危ない場所なら埋めるか、埋めてから燃やすかが基本だな」

「森の中とかだったら放置するのも仕方ないけれど、素材になる魔物は持ち帰ってギルドに売却すればお金にもなるからおすすめよ」

「まぁ、持ち帰るのが無理なら魔石だけでも取って帰るのがマナーだな」

「魔石を持ち帰るのはマナーなんですか?」

「魔石を食べた魔物は強くなるって言われているからな⋯⋯リナも独り立ちしたら魔石はちゃんと回収するんだぞ」

「はい! わかりました!」

「それじゃまた街へ向かって行こうか」

「はい!」


 それから二日歩くと私達は無事に街に着く事が出来た。



「あんな小さな子が、生き物を⋯⋯」

 日本では考えられない光景を目の当たりにしてしまった俺は動揺を隠せないでいた。


「今にも死にかけてる女の子が、あんなに逞しくなるなんてな⋯⋯」

 少しでも多くの知識を身に付けようと先輩冒険者の二人に多くの事を聞いているリナちゃんの姿と自分を比べてみると、情けなくなって来た。


「病気で働けないわけでも無いのに、俺何やってるんだろうな⋯⋯」

 ニートをしている自分に自己嫌悪しつつも、俺はパソコンに映っているリナの映像から目を離すことが出来なかった。


「⋯⋯にしてもグロいな。

 YouTubeに消されないのかね」

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