第二章:それぞれの誕生日
#しーくろ
「このホラゲ怖いよね。2回目なんだけどさ、初めてやったのずーっと前だし覚えてないんだよ。ギミックが怖すぎる!うわっ!ほらみんな見て!クロくん!!!怖いって!!!」
画面上の幽霊を無表情で指差す。
「出た。その反応絶対嘘だわ。」
クロくんのいつもとは違う鋭い言葉が降ってくる。いつもの優しい笑顔が脳裏に浮かんだ。
「嘘じゃないってば!!!」
「うるせえよ死ね」
ほらそうやってすぐに「死ね」なんて言う。
本当のクロくんは、冗談でもその場のノリでも「死ね」なんて言えないこと、ファンのみんなは知っているのだろうか。
「ふふ」
思わず現実の笑いがこぼれる。コメント欄に?の嵐。
「きもちわりいな。」
「ごめんごめん、今のクロくんなんだか可愛くて」
「頭沸いてんのか」
#しーくろは大盛況だ。
『しーくんがクロのことかわいいって言った!!!そんなしーくんが可愛い💕』
『尊い…クロちょっと笑っただろ!!!嬉しかった癖に強がんなよ〜』
『紫音の誕生日なのに、逆にプレゼントもらった』
『キモ。メンヘラ女と付き合って楽しい?しーくんにも手出すの?』
『男の友情感じる!!』
SNSから目を離し、配信のコメントに目を移す。
『メンヘラ女と付き合って楽しい?』
『自傷させてんの?』
『しーくんの友達やめて』
山ほどあるコメントの中に見え隠れする「あの日」の話題から目を逸らした瞬間、クロくんが操作するゲームのキャラが固まっていた。ゲームが下手な僕だけでは到底追いかけてくる幽霊から逃れることもできず、呆気なくゲームオーバーになる。
「クロくん、大丈夫?回線落ちかな」
僕は「ちょっと待っててね」とよそ行きの笑顔を作り、マイクをミュートにした。
「大丈夫?クロくん。」
配信のコメントも、通話アプリで彼に呼びかける僕の声に呼応するように、「大丈夫?」で溢れかえった。
「悪い。俺抜ける。回線切れたってことにしといてよ。」
時刻を見ると午前2時。すでに僕がひとつ歳を重ねた日を終えている。
ミュートを外して、誰も見ていない偽りの笑顔を作る。
「クロくん、回線切れちゃって、復帰時間かかりそうだし、時間もいい感じだからこの辺で終わろうかな!うん、回線変えろって言っとくね笑 じゃあね〜。おつしー。」
配信終了ボタンをいつもより強くクリックして倒れるようにベッドに入った。
「ごめん、あいつから連絡来て動揺した」
スマホのロック画面にそんな文字が見えた気がしたけど、僕はベッドに意識を吸い込まれた。
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