@leaf_autumn
#しーくん
#紫音くん生誕祭
#お誕生日おめでとう
悩んだけれど、ハッシュタグをつけるのはやめた。紫音くんのせっかくの誕生日を私が台無しにしたくはなかった。「ムラサキくん」はファンの間でひそかに使われている彼の呼び名。ネットの海の中で彼の誕生日を私が祝っている。その事実を誰かに知ってほしかった。パステルの紫。ビビッドの紫。いろんな紫が彩る中で暗黒に近い私の紫が、彼の誕生日を邪魔しないように。でも気が付いてほしい気持ちもあって罪滅ぼしのように「ムラサキくん」とつぶやいた。
「あの」
か細いけれど、耳を奪われる声が聞こえて顔を上げた。眼鏡をかけた少女が私の隣を指さした。
「お隣、いいですか。」
時計を見ると授業が始まる3分前だった。普段はがらがらの講義なのに、テスト前になると皆こぞって出席する。どこかぼけーっとしているおじいさん先生がテストの前の講義で殆どテストの答えを言ってしまうから。いいように利用されているんだな。
「あの」
またか細い声が聞こえた。
「あ、すいません。どうぞ」
私はそそくさとカバンをどかして席を立った。少女は申し訳なさそうに頭を下げた。
「あ」
席に着いた少女が私のカバンを見つめる。その視線の先には紫の花で飾られた紫音くんの缶バッジが光っていた。私はあわてて手で「それ」を隠した。
「すいません」
理由もなく少女は謝った。
「好きなんですか」
紫音さんのこと。その問いかけに頷くこともできずにいると、始業のチャイムが鳴り響いて、おじいさん先生がとぼとぼと講義室に入ってきた。
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