@ライブ_コネクション#10年の奇跡
つきのひかり
第一章:それぞれの生活
ムラサキ
#紫音くん
#しーくん
検索窓にキーワードを入れて画面をスクロールする。
「しーくんお誕生日おめでとう!ケーキ作りました! #しーくん 」
「紫音くん、21才の一年も幸せに!たくさん歌を届けてください♡大好き!
#紫音くん #紫音くん生誕祭」
タイムラインが紫で彩られている。きらびやかな有象無象が躍っていた。
そんな中、ハッシュタグのついていない投稿を見つけた。その投稿は目立たないところで見つけてほしそうにこちらを見つめている。
「私にはムラサキくんが生きがいです。彼がいなかったら私は死んでいたかも。お誕生日おめでとう」
「ムラサキくん」を使えば、僕に見つけられないと思っているのかな。でも見つけてほしいから、誰かに知ってほしいから、僕に知られているかもしれない僕の呼び名を使っているのだろう。
1つ溜息をついて、花の写真のアイコンをクリックした。
りーゆか @leaf_autumn
-紫音くんを応援しています。彼の歌に救われました。
位置情報が「紫音くんの隣で見守っています」
また1つ溜息をついた。
ホームボタンを二回。指を上にスライドさせようとした。
すると、アイコンの花が一回り小さな枠の中で、悲しそうに僕を見つめた。しばらく見つめ合っていると、聞き覚えのある通話アプリの着信音が響く。
「もしもし?」
「しー、元気?」
能天気な声に口角が上がった。
「クロくん。」
「誕生日おめでとう!」
彼の底抜けに明るい声にふふっと声が漏れた。
「なに笑ってんだよ!」
「いや、そのキャラで売れば、もっとファン増えそうなのになって。クロくん、明るいのにもったいないよ。ほらこの間も、炎上しかけたじゃない。」
端末越しに頭をかく音がする。近頃のテクノロジーではこんな細かい音も拾ってしまうのか。溜息も鮮明に、感情も鮮明に、伝わってくる。そんな気がした。
「ま、こんな俺が好きってファンもいるんだよ。俺はただのゲーム好きのニートなのにさ。」
今度は自嘲気味に鼻で笑う。
「ところで、今日の誕生日配信で電話してくるだろ?」
クロくんは僕がネットに住み着き始めたころからの戦友のような存在である。
去年の誕生日の時も、配信でクロくんに電話したら #しーくろ がトレンド1位になっていた。
「うん。今年は一緒にゲームとかできたらな。去年とは違うことしたいかも」
今度は驚いている彼の顔が見えた。
「しーからそんなこと言ってくるなんて珍しいな。おけー。初めてのコラボの時にしたホラゲやろうぜ。あれ怖かったなー。」
「じゃあな!」と突然にクロくんは電話を切った。
ふと「りーゆか」のアイコンが目に入った。
この子も華やかな紫の中で踊りながら泣いているのかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます