第3話 変わっていく自分
弘は美里さんに彼氏がいると聞いて少し気落ちしていた。
でも、まだ2回しかデートしてないって言ってたし、乱暴なとこあるから・・とか言ってたなぁ・・・もしかしたら、彼氏の事そんなに好きじゃないのかな?
弘は気がついた。
あ、俺、美里さんに対して、好きって感情を抱いている。
そう、弘は恋に落ちていた。でも、そんな事よりも次の対戦相手。100年に1人の逸材?恋に浮かれている場合じゃない。下手したら命の危険もある相手。
「弘さん!勝てるから!だって勝利の女神が応援に行くんだから!」
最後まで美里さんは力強く励ましてくれた。
最後の電話から10日ほど経って、美里さんから再び連絡があった。
「弘さん!私、そういえば弘さんの普段の顔知らないじゃない?だから、もう一度会ってみたい!弘さんの顔見てみたいな!」
美里さんは電話の向こうで無邪気に言った。そう言えば、あの時の弘の顔。リアルアンパンマンか!ってくらいの腫れ上がったひどい顔だった。
「ん~なんか自信ないです・・。幻滅されるような気が・・」
弘は自信なさげに言った。
「もぅ~そんな弱気だから連敗しちゃうんですよ!もっと自信持たなきゃ!」
確かに美里さんの言うとおりかもしれない。2連勝している頃は自信に満ち溢れていた。ところが連敗している時期は、どうせ・・みたいなこれでもかってくらい自分を卑下した思考に支配されていた。
なんか不思議な感覚。
美里さんが投げかける言葉一つ一つが胸に刺さる。
やっぱ俺、美里さんの事、好きだなぁ・・・
「ねぇ、もう一度会わないですか?こないだみたいな暗い時じゃなく、明るい時に!」
「わ、わかりました。でも、幻滅したからって顔に出さないで下さいね。僕、メンタル弱いですから・・」
「もぅ~そういうとこ!ボクサーが何言ってるんですか!ボクサーやってる時点で弘さんはメンタル強いの!」
美里さんと話していると本当に自信が湧いてくる。
◇
「弘!お前、どうしたんだよ!」
いつもならスパーリングで打ち込まれたら防戦一方になって止められていた。
でも、今回は違う。
トレーナーに動機は恥ずかしくて話せないけれど、今回は違うんだ!
弘は負け続けていた自分に抗うように練習に没頭した。サボりがちだった朝のロードワークも真面目にこなした。美里さんという1人の女性と出会った事によって、こんなにも見える景色が違うのかって思うほど何もかも新鮮だった。
自分が変わった事に戸惑う弘だった。
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